40 ドイナー
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
俺は親を知らない。
赤い目だと言うだけで捨てられた。
孤児院でも目のせいでいじめられ、自分を守るには強くなるかしかなかった。
ある日ふと、自分の手が風を纏っているような感覚に気付いた。
ただそれをどうすればいいのか分からなかった。
その日、いつものように俺の事が気に食わないらしい大人が、暴力を振るってきた。
やられっぱなしが嫌だった俺は、拳に力を込めてその男の腹を殴った。
殴られた男は思いも寄らない距離を吹き飛んでいき、木にぶつかり気絶した。
その時自分が風の魔力持ちだと確信した。
魔力持ちは通常国に届け出た後、国に保護される。
俺の人生もいい方向に変わるかもと期待した。
しかし、その事を知った孤児院の院長は、国に届け出る事なく、俺を奴隷商に売った。
信じられなかった。
暴れない様に俺の腕には魔力制御の魔法陣が彫られた。
気づけば社会の底辺にいた。
地下の作られた闘技場。
そこでは生まれながらにして異形扱いされた者達が集められ、闘いを強いられていた。
俺はそこに放り込まれた。
貴族は俺達の命を賭け事に使った。
魔力持ちだからと魔法を学ばせる事もなく、ただひたすら身体から溢れる魔力を、手や持っている武器に纏わせ相手を倒した。
俺は殺される事なく、相手を倒し続け、気づけば地下では有名な存在になっていた。
そうなると多少待遇は良くなったが、外に出て自由を許される訳ではなかった。
ある頃から、普通の男遊びに飽きた裕福な女が、俺を伽の相手として望む様になっていった。
言われるがまま、薬も飲まされ女達を抱く。
何がいいんだか、喜んでよがる女達に吐き気がした。
こんな男娼まがいの仕事も、闘技場の戦士としての仕事も、後20年そこらで飽きられ捨てられる。
闘技場に出て負けて殺されるか、それが出来なくなったら、何をやらされるか分かったものではない。
俺はこの世界の底辺で腐って死んでいくのだろう。
だったら壊してしまおうか。
ある日のいつもの闘技場。
俺の目の前には、処刑される所を逃げたしたという凶悪な顔をした男が1人。
凶悪な顔·····。俺も人の事は言えないな。
闘いが始まる。
男は強かった。
俺達の様に奴隷として闘っているのではなく、勝つことで金を稼ぐ為に闘っているのだと分かった。
罪人と言えど自由があることが羨ましかった。
男の斬撃は凄まじく、圧されながらも耐えていた。
男の一撃が肩当てを掠める。
肩当ては衝撃で外れて飛んでいった。
肩当ての下にある腕に彫られた魔力を制限する魔法陣が顕になる。
それを見た男はニヤつき魔法陣を傷つけにきた。
きっとこの魔法陣で、何かしらの能力を強化していると勘違いしたのだろう。
案の定、執拗に狙い、とうとう魔法陣に傷がついた。
その瞬間、抑えられていた魔力が爆発した。
身体から抑えられていた魔力が溢れる。
制御の仕方など知らない。
俺は竜巻の中心になっていた。
ありとあらゆるものを吹き飛ばしていた。
悲鳴も風の轟音でかき消され、俺の耳には届かない。
暫くして漸く魔力が落ち着き、竜巻の様な風が収まった。
周りを見れば、地上に向かって、ぽっかりと穴が空いていた。
はは····本当に全て吹き飛んだな。
魔力を放出した疲労感で俺はその場に座り込む。
そして意識を失った。
「随分派手にやったものだね。」
意識が戻ると、そこには老齢の魔導師、サルマ様がいた。
魔力暴走を感知した為この場所を訪れ、俺を見つけたそうだ。
俺は処刑されるかと思ったが、元あった施設は違法なもの。
特に処分を言い渡される訳でもなく、俺はサルマ様預りの身となった。
サルマ様は王家のお方で、赤目で生まれた為に表にはほとんど出てこられない方。
唯一、姪孫であるリーヴァ様の護衛として魔獣の討伐に参加されていた。
俺もサルマ様と共に討伐に参加する事になった。
そして実力が評価され、漸くまともな生活を送れるようになった。
サルマ様でさえ、赤目だからと忌避される。
サルマ様の元には行き場のない赤目の者達が集まり、共に生活するようになった。
周りから隔離された生活を不便と言う者も多いだろう。
しかし、周りから蔑んだ目で見られていた俺達にとって、この場所は漸くたどり着けた安住の地だった。
そんなある日、サルマ様はまた誰か拾って来られた。
どうやらヴァーバルの森で戦闘があったらしい。
連れて来たのはその生き残りだと言う。
それもこのルダリスタン帝国と隣国フェアノーレ王国で爵位を持つタンドゥーラ公爵家のご令嬢だそうだ。
貴族の令嬢·····嫌な思い出しかない。
きっとろくでもない性格をしているだろう。
しかし、お世話をしに上がったニケが驚いた顔をして部屋から出てきた。
「自分の事は出来るから、サルマ様のお手伝いに行ってって言われたの。あの方、公爵令嬢なのよ。驚きだわ。それに信じられない位にお美しいの。私達と同じ赤い瞳をお持ちだった。」
ニケは少し興奮気味に話す。
タンドゥーラ公爵家は、フェアノーレの監視役として彼の地に爵位を持っている。
それだけルダリスタン帝国で信頼を寄せられている家だ。
気付けばそんな家の令嬢が、突如発現した闇の魔力の制御の仕方をサルマ様に学ぶ為、俺達と同じ屋敷に住む事になり、今では掃除など、共に家事をこなしている。
公爵令嬢が掃除·····。
俺が見てきた貴族は、皆傲慢で人を蔑む様な人間ばかりだった。
貴族は大体そんなものだ。
彼女の価値観が普通ではないのだろう。
そして何より·····。
「ドイナー、おはよう。」
目が合えば、そう言って微笑んでくれる。
流れる様な銀髪に赤く染まった瞳。
グレイス様は透き通るような白い肌でおそろしく整った顔立ち。
俺が今まで見てきた中で、これ程美しい方を見た事がない。
まさに女神だ。
地上に出て来たら女神に遭遇するとは、あの頃の俺からしたら想像もしていなかった事だ。
俺の過去は知られたくないな。
グレイス様がこの地に来て、皆何かが変わった気がする。
グレイス様がサルマ様の代わりに魔獣討伐に行かれる様になって気付いた事だが、赤目である事が気にならなくなっていた。
それは共に同行するモランも同じように感じていた。
俺達はグレイス様の隣に立ち、付き従う事が誇らしかった。
サルマ様がこの世を去り、この地を受け継いだグレイス様。
やはりその人柄は俺が感じていた通り、皆から愛されている方だったらしく、グレイス様を慕い、タンドゥーラ家から多くの従者と騎士がこの地にやって来た。
ヴァーバル領は活気づいていった。
この地を守りたいと強く思った。
だが、俺には1つだけ心に引っ掛かる事があった。
街に出た時、ある商人が俺を見て、フェアノーレの勇者に似ていると言った事だ。
フェアノーレの勇者·····つまりグレイス様の元夫だ。
それだけで嫌な気分になった。
グレイス様がこの地に来ることになった事情は聞いた。
勇者の裏切りを。
いつも優しい表情を見せてくれるグレイス様だが、実は俺の顔を見て勇者の事を思い出しているのではないだろうか?
本当は俺の顔など見たくないと思っているかもしれない。
そう考えると胸が苦しくなる。
俺は特に屋敷にいる時は、グレイス様の視界に入らない様に心掛けた。
しかし、グレイス様はふと一人で馬に乗り、ヴァーバルの森に向かうことがある。
さすがに1人では行かせられないと思い、後ろから離れて馬に乗りついていく。
グレイス様が向かわれるのはヴァーバルの墓所だ。
グレイス様は魔法を発動させ、辺りを花畑に変えた。
そして11基並ぶ墓の前に座り、静かに祈りを捧げる。
ルダリスタンに来る際、襲撃に会い、グレイス様を守るために亡くなった者達。
通常貴族令嬢は戦場に行ったりしない。
魔力持ちの女性は、その魔力を引き継ぐ子供を作る事を強要される。
グレイス様が戦場に赴くのは、きっと亡くなった彼等を思っての事だろう。
魔導師として力を伸ばす事を望んでいる。
きっと大切な人達を、もう誰も死なせない為に。
暫くするとグレイス様は俺に背を向けたまま、ジェスチャーをした。
『来て。』
それは戦場で示す合図。
俺がついて来ている事に気付いていたのだろう。
グレイス様のそばに近寄っていく。
「ドイナー。」
「黙ってついて来た事、お許し下さい。」
「何を言うの、心配してくれたのでしょう?ここに座って。」
そう言って隣に座る様に促される。
俺は黙って座った。
グレイス様と戦場以外でこの様な近い距離にいるのは初めてかもしれない。
「ドイナー、いつも傍に居てくれて有難う。」
そう言って向けられる瞳は水気を帯びたような美しい水色。グレイス様本来の色だ。
「·····グレイス様、俺と居て不快ではないですか?街に出ると言われるのです、勇者に似ていると。俺が傍にいれば嫌な事を思い出されるのではないかと。」
俺は何を言っているんだ。
そんな事を聞かず、黙って離れて見守ればいいだけなはずだ。
なのに、何故聞いてしまったんだ·····。
これではそうでないとグレイス様の口から聞きたいだけじゃないか。
「体格の事を言っているの?それなら似たような体格は騎士団ではよく見掛けるから、気にならないわ。色々心配してくれていたのね。有難う。·····それに、私は比べる気はないから。だって·····」
だって?
「ドイナーとの経験は唯一無二でしょう?わたしが生まれて初めて魔獣の討伐に行って、あなたと連携して戦って·····。私は上手く出来るか緊張していたの。でもドイナーが上手く先導してくれたから、やり遂げられた。今もそうね。昔の私では考えられない生活の中にあなたはいるわ。」
グレイス様の生活の中に俺は居るのか·····。
「でもそうね、比べるとすれば、あの人の事はもう信用していないけれど、ドイナー、あなたの事はとても信用しているわ。あなたといる空間は安心出来る。これで答えになるかしら?」
「····はい、グレイス様。充分です。」
「ふふ、良かった。私あなたにそんな事を気にさせていたのね。もっと早く言えば良かったわ。ごめんなさい。」
そう言って笑顔を見せてくれるグレイス様に、胸が熱くなる。
俺はこの方の笑顔を死ぬまで守り続ける。
「グレイス様、お願いがあるのですが。」
「何かしら?」
「俺にグレイス様との血の契約を結ばせてくれませんか?」
「え?血の契約を?そんな事をしなくても·····。あれはかなり私に縛られるものよ。それに解除しなければ、私と共に命を落としてしまうわ。もし戦場で私が解除出来ぬ間に死ねば、その時あなたも死んでしまうのよ。」
「それでいい。モランもいるんです。俺が死んでもどうにかなる。」
「ドイナー····何のために?」
「あなたと繋がっていたいと思ってはいけませんか?私はあなたの戦士になりたい。俺は騎士ではない。戦士としてあなたに誓いを立てさせて下さい。俺に存在する意味を感じさせて下さい。」
「ドイナー·····。」
「お願いします。」
俺は深く頭を下げる。
沈黙が流れる。グレイス様は考えておられる。
「ドイナー、あなたの気持ちを受け取りましょう。でもそんなに思い詰めないで。私はあなたに生きていて欲しいの。でも今あなたはその気持ちを曲げないのでしょうね。だから、そうね、あなたに守るべき大切な人が現れたら解除しましょう。いいわね。」
「承知しました。」
そして、フェアノーレ王国で魔族の討伐を終え、ルダリスタン代表として王都に向かう。
その馬上、胸の心臓がある部分に手を当てる。
ここに俺とグレイス様との血の契約の魔法陣が眠っている。
勇者にはない俺とグレイス様との繋がり。
まぁ、古竜もロシェルもナルージアも持ってはいるが。
さぁ、勇者がどんな顔をしてグレイス様を、俺達を見るか楽しみだ。
※姪孫は甥の子供です。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




