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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
37/93

37 皇后の言い訳

不定期投稿です。

宜しくお願いします。


部屋の床には淡く光る魔法陣が浮かび上がっており、それが唯一の光源だった。


ロシェルは置かれたベッドに背中を預けて床に座り目を閉じ、項垂れた状態だった。

グレイス達が入室してくると気配を感じ取ったのか顔をゆっくり上げた。


「ロシェル·····。」


グレイスは呼び掛け、ロシェルに近づく。

ロシェルはグレイスの声に反応する。


「グレイス様····お帰りなさい。」


掠れた声で、少しやつれたロシェルが微笑みを浮かべながらグレイスを迎えた。

そしてグレイスに触れようと手を伸ばす。


「ただいま、ロシェル。」


グレイスもふわりと笑い応えると、少し震えているロシェルの手を取り、そのまま抱き締めた。


「何も口にしていないの?」

「·····媚薬が混ぜられると嫌だから。」

「それは怖いわね。今度毒が入っていないか確認する透視の魔法を教えるわ。取り敢えずこの部屋を出て、別の離宮に移動しましょう。」

「はい。グレイス様····会いたかった···。」

「私もよ、ロシェル。」

「聖属性の魔法が使えたのね。とても美しい魔法だわ。」

「はい。····出された紅茶から媚薬の匂いがしたんです。だから逃げ出しました。だけど追われて····。逃げた先にあったこの部屋で、誰にも触れられない様にするため、魔法を発動しました。僕は·····もう男娼になりたくないんだ。僕が抱くのはグレイス様だけだ。」


『男娼』の言葉を聞いてグレイスの表情が静かに怒りに変わる。


グレイスはロシェルを強く抱き締め、ロシェルに自身の銀色の魔力を流す。

ロシェルは安心して気持ち良さそうに微笑み、グレイスの肩に顔を埋め、再び目を閉じる。



「ロシェルは大丈夫?」


リーヴァが後ろから問いかける。


「弱ってしまったわ。」

「私が運ぶよ。」


そう言ってリーヴァはロシェルの肩に手を入れる。


「リーヴァ有難う。あなたが居てくれて良かった。皇后宮に直ぐに駆け付ける事が出来たわ。あなたも戻って来たばかりなのに、ごめんなさい。」


「今から皇后に会うんでしょ?私も行くよ。あの人は何でも権力を手にしていないと気が済まないタイプだから。グレイスに無理を言うに決まってる。」

「皇帝陛下からは好きにするように言われたわ。」

「はは、とうとう廃妃にするのかな?本人は自覚がないだろうけど、勝手に公爵家の人間を脅して連れてくるなんて誘拐と変わらないからね。そんな勝手を許すなら皇家の信頼を損なう事になる。皇后と言えど厳罰に処せられるだろう。それに、今や国の重役を担うヴァーバル公爵に手をだすなんて、命知らずもいい所だ。しっかり懲らしめようね。」


そう言って、リーヴァは意地悪い笑みを浮かべていた。



「勝手に皇后宮に入り込むなんて、無礼にも程があるわ。」


皇后ミアータは不機嫌を隠すことなく、リーヴァとグレイスに言い放った。


「皇帝陛下のお許しは得ております。それに我が領から、勝手にロシェルを皇城に連れてきたこと、いくら陛下と言えども許されないと存じますが?」

「それはイリナが説明したでしょう?聖属性の魔力持ちを皇城で保護した方が適切だと思ったからです。」

「だからと言って、公爵が不在を狙って勝手に連れ出すなど、許される事ではありません。」


リーヴァがすかさず問い掛ける。

皇后は苦々しい表情を見せる。


「ヴァーバル公爵、あなたの働きは評価しますが、何でも自分が正しいとは思わない事ね。実際問題としてあなたが魔獣や魔族の討伐に行っている間、誰が聖属性の魔力を持つロシェルを守るのです?イリナ程度に簡単に押しきられるのでは、簡単に他国から奪われますよ。」


「皇后陛下、ご心配はごもっともですが、私共がこのルダリスタン帝国に忠誠を誓っている以上、皇家に対し、その様な行動をとるのは仕方のない事。このようなやり方では、ロシェルは心を閉ざすでしょう。現にロシェルは部屋に、飲まず食わずで2日も閉じ籠っているではありませんか?ロシェルを弱らせ、死なすおつもりですか?」

「それは·····所詮人は食べないと生きていけないのですから、いずれ部屋に誰かしら入れるようになるでしょう。そうやって躾をしていけばいいだけです。」

「躾?皇帝陛下はあなたを躾なけばならないと仰っていましたが?」

「なっ?!無礼ですよ、リーヴァ!」

「皇帝陛下のお言葉をそのままお伝えしただけです。皇帝陛下は随分落胆されていましたよ。上に立つ者の所業ではないと。この様に公爵を怒らせては、皇帝陛下は庇い立てはなさらぬでしょう。」


リーヴァは皇后を煽る。


「皇后陛下、私とロシェルは皇帝陛下ご了承の元、この度婚約する運びとなっております。ロシェルからイリナ皇女殿下にもお話したはずですが。それにそもそもロシェルが部屋に立て籠ったのは、夜呼び出して男娼紛いの事をさせようとしたからではないですか?媚薬を使おうとするなど、躾云々以前の問題です。弱らせて従わせようとするなど、ロシェルは犬猫ではありません。本当に聖属性の魔力を持つ者を保護しようというお気持ちがおありですか?私はルダリスタン帝国に忠誠を誓っておりますが、皇后陛下のお振る舞いは、その思いを揺るがすものです。」


ピリピリと感じる魔力に、皇后に対するグレイスの怒りを感じる。


「今後一切ロシェルには手出しなさらぬようお願い致します。」


グレイスはそう言って、皇后に対し深々と頭を下げる。


「皇后陛下、この後皇帝陛下がお話があるそうですよ。」


リーヴァのその言葉に皇后の身体が揺れる。


「敵に回してはいけない人間は把握しておくべきですよ。」


そう言い残し、リーヴァも部屋を後にした。



◇◇◇




「ルダリスタン帝国は皇后が廃妃になったらしいですね。噂では皇后が仮面の銀の魔導師の逆鱗に触れたと言われています。」

「·····そうですか。」


ダリウスにそう話し掛けるのは第2騎士団で副団長を務めるウォーレン·ロドリスだ。

ダリウスが手足を失った後、御前試合を行った相手だ。

フィーネが現れ、ダリウスがエスコートを請われた時、ダリウスに代わりグレイスをエスコートした男。


「ナタール王国に現れた上級魔族も仮面の銀の魔導師が倒したそうです。今や大陸最強でしょう。」

「·······。」

「アーレン国王陛下は、とうとうルダリスタン帝国に魔族の討伐依頼を出されました。魔族の魔法は我々騎士団には脅威です。ルドルフ·ストーンズ殿がルダリスタン帝国より戻られたのをきっかけに、魔導師達と効率的に連携が取れる様になってきましたが、ルダリスタン帝国に比べるとまだまだです。今回の共同討伐で我々も得るものが多くなるでしょう。」


「そうだな·····。」


「それでダリウス様、あなたはその討伐から外されたそうですね。」

「·····先方の希望だ。仕方ない。」

「グレイス·ヴァーバル公爵。これが今、あの方のお名前です。あのお方は、どういったお気持ちでこの地に来られるのでしょうね。」


「······。」


「聖女フィーネ様が、あなたとの間に生まれたお子様に、グレイス様の呪いがかかっていると言い続けているそうですが、あなたは放置されているのですか?アーレン国王からは、これ以上グレイス様に対して名誉を傷つける行いをするなら、刑に処すと言い渡されているはずです。神殿が何を言おうと、あなたは聖女の夫だ。自身に責任があることを認識された方がいい。これがあなたがグレイス様を捨て、聖女を選んだ道だ。」

「グレイスを捨ててなどいない!」

「·····あなたはそう思っているかもしれませんが、世間は、グレイス様はそう思っていらっしゃるでしょうね。」

「······。」


「それから最近、聖女様の治療が上手くいっていないそうですね。手足を再生する魔法が発動しにくくなったからと、病の治療にあたっていたそうですが、何人かは体調を崩したとか。」

「治る者の方が多い。体調を崩した者に関しての原因は不明だ。」

「アーレン国王陛下が体調を崩されたと聞いて、神殿は嬉々として聖女様に治療させたそうですが、アーレン国王陛下も体調が更に悪化されたとか?」

「フィーネは本当に治そうとしていた。」

「これもまさかグレイス様のせいになどされませんよね?」

「それは····それほど愚鈍ではない。」

「杞憂に終わればいいですが。とにかくグレイス様が来られて、お気分を害される事のないようにお願いします。」

「善処する。」


グレイス·····会いたいと想うのは、もう私だけなのだろうか?

実際会って、言葉を交わす事さえ、もう許されないのだろうか?


「ゴホッゴホッ····」

「ダリウス様?」


今感じる胸の痛みが、グレイスへの想いからなのか、実際に身体の不調からなのか、それさえも分からなくなったダリウスだった。


数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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