36 囚われたロシェル
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
ちょこちょこ書き直して遅くなってます。
申し訳ありません。
イリナ皇女が突然ヴァーバル領に現れた。
僕が聖属性の魔力持ちと知って、皇城で保護したいと言う。
明らかにグレイス様の不在を狙っての事だった。
皇后陛下の命で皇女が迎えに来たとなれば、断ることなんて出来ない。
それでも拒否すると、公爵家の人間がどうなるか分からないと脅され、仕方なくイリナ皇女に従うことにした。
屋敷の皆は、断っていいと言っていたが、僕の事で迷惑をかけたくなかった。
2日かけて馬車に乗り、たどり着いたのは皇族だけが使える転移魔法陣。
魔法陣は光属性の魔力を持っていないと使えない。
この光属性の魔力を持っているのは、ルダリスタン帝国の皇族とフェアノーレの王族の1部だけだ。
その魔法陣から転移し、皇城へ飛ぶ。
イリナ皇女は僕の顔はあまり知られない方がいいとフードを深く被らされ、皇女の離宮に連れて来られる。
このまま僕はまた飼い犬の様な生活を強要されるのかと、恐怖に襲われる。
大丈夫、グレイス様が帰って来られれば、直ぐに傍に戻れるはずだ。
それまでに·····身体を汚されない様にしなければ。
幸い、イリナ皇女は僕に手を出すような事はしなかった。
悪い方ではないのだろうが、心は許せない。
息を潜めるように大人しく、部屋で古文書を読み解く。
すると、皇城に来て2日目の夜、突然皇后陛下から呼び出しがあった。
イリナ皇女はその日、とある侯爵家の夜会に呼ばれているという事で離宮を不在にされていた。
それを分かっての事だろう。
それも夜····。
嫌な予感しかしない。
でも逆らう事は出来ない。
僕はメイドに服装を整えられ、皇后宮に向かった。
◇
今僕の前には、琥珀色の甘い香りがする紅茶が置かれている。
「南国の珍しい紅茶なのよ。ヴァーバル領からこの帝都まで疲れたでしょう?召し上がれ。」
そう言って、僕の目の前で妖艶な笑みを浮かべながら話し掛けるのはこの国の皇后だ。
夜という事もあり、皇后は既に公務を終えた時間。
僕みたいな奴隷上がりの人間に、まともな時間に会う訳はないが、こんな呼び出し方、あからさま過ぎる。
皇后は僕を見た瞬間、とても嬉しそうな顔をした。
少女が、何か嬉しい贈り物をもらったみたいな、そんな笑みだった。
皇后は40歳は越えていると聞いていたが、妖艶な雰囲気の中に、時折見せる少女の様な無邪気な笑み。
きっと欲望に忠実な人なんだろうと思う。
以前ヒトラス子爵夫人が話していたっけ····。
皇后陛下は綺麗な物がお好きらしいと。
僕に対してもそんな感じだろう。
そして目の前のこの紅茶の甘い香り。
これにはおそらく媚薬が入っている。
いきなりこんなものを飲ませようとするなんて。
僕は聖属性の魔力持ちだから保護されるために連れてこられたんだよね?
結局、街の裏路地でも、子爵家でも、皇城でも求められる事は一緒だ。
吐き気がする。
グレイス様に会いたい·····。
せっかく病を治してもらって、腐った身体も元通り取り戻せるように力を貸してくれて·····。
穢れた身体が、浄化された様な気になっていたの
に。
僕がこの先抱くのはグレイス様だけだ。
聖属性の魔力もこの容姿も、グレイス様の心を手に入れる為なら利用する。
他の誰にも触れさせたくないんだ。
「どうしたの?まさか私が勧めるのに飲まないつもり?あなたはそんな傲慢な態度をとるの?」
甘さを乗せた声で、しかし目は断るのは許さないと言っている。
少し震える手でカップを持ち、口元に運ぶ。
口唇を濡らすだけで止めて、皇后を窺う。
その表情は、さぁ、もっと····そう言っている様だ。
手が震える。
カップの紅茶が揺れる。
すると皇后は立ち上がり僕の方へ近寄ってくる。
そして隣に座り、僕の頬へ手を伸ばした。
白く長い指先が僕の頬に触れる。
ひやりとした感覚は、指の冷たさか僕の感じる恐怖か。
「怖がらないで。」
優しく、甘ったるい声で囁く。
僕の顔に自身を引き寄せるように近づく皇后。
怖がる僕を面白がるように笑うその吐息が僕に触れる。
身体の底から沸き上がる嫌悪感。
気付けば皇后の手を振り払い、後ろに後ずさる。
驚いた顔の皇后が何か言葉を発する前に、僕は立ち上がり扉へと向かい走る。
皇后が何か呪文の様な言葉を発した。
そのせいか扉は開けようとするが開かない。
嫌だ····嫌だ····嫌だ····!
皇后が近づいてくる。
その気配を感じた瞬間、身体の中で何かが弾けた。
その瞬間、扉は弾ける様に音を立てて開いた。
そして僕は逃げ出した。
後ろで皇后が何か叫んでいる。
外で待っていた守衛が僕を掴もうとする。
やめてくれ!
心の中でそう叫んでいた。
刹那、その騎士は後ろに吹き飛んでいた。
他の守衛も僕を捕らえにかかる。
しかし、誰も僕に触れられずに次々弾かれていった。
僕は走った。
無我夢中で飛び出したから、何処を走っているか分からない。
前から後ろから、複数人が追ってくる。
捕まりたくない!
近くにある部屋に飛び込み鍵をかける。
このままだと鍵も直ぐに開けられるだろう。
僕はさっき無意識に人を弾き飛ばしていた。
僕の身体はうっすら白く光っている。
身体に魔力が充ちているんだ。
僕は呼吸を整える。
そして目を閉じ、古文書を読んで頭に入っていた呪文を思い出し詠唱を始める。
ブンッ
そんな音と共に、自分の足元に魔法陣が展開したのを感じる。
僕は詠唱を続ける。
魔法を使うんだ。
今なら出来る。
グレイス様が帰ってくるまでは誰も僕に触れさせはしない。
汚されはしない!
僕の身体の魔力が膨らむ。
そして部屋は光で満たされた。
◇
どういう事?
何が起こっているの?
ヴァーバル領からロシェルを連れ出すのに成功したのはいいものの、お母様が皇帝であるお父様に話を通すまではあまり公にしない方がいいだろうと思い、皇城内の私の離宮の部屋の1室を与え匿っていた。
戻ってきた2日後の夜、私が侯爵家の夜会から帰ってくると離宮がざわついている。
何があったのか侍従を問いただすと、私の不在を知ってか、お母様が自身の皇后宮にロシェルを呼び出し連れていったとの事。
こんな夜に?
嫌な予感がするわ。
公爵領から勝手にロシェルを連れてきているのさえ問題なのに、お父様に承諾をもらわないまま手を出すの?
連れてきて早速男娼の様に扱えば、聖属性の魔力を持つ者の保護という建前が崩れてしまう。
侍従に口止めしても、状況を見れば直ぐにお父様に、更に皇太子であるリーヴァお兄様にもばれるだろう。
お母様を止めなければ。
そう思い急ぎ皇后宮へ向かうと、皇后宮は更に騒がしくなっていた。
そこでは、やはりお母様がロシェルに手を出そうとしたらしく、逃げられ、ロシェルは部屋にとじ込もって出て来なくなってしまったらしい。
魔法や力ずくで開ければいいじゃないと言えば、何でもロシェルは強い魔法を発動したらしく、周りは一切部屋に干渉出来なくなっているとの事。
部屋の前に案内されてみると、確かにロシェルが立て籠っている部屋は、薄く白く光って何者も通さない。
あれから2日。
飲まず食わずの状態だけれど、大丈夫なのかしら?
早く手懐けないと、魔獣や魔族の討伐に行っているリーヴァや、ヴァーバル公爵が帰って来てしまうわ。
何度も無理矢理開けようと試みるけれど、何この魔法?
この部屋全体がうっすら白い光に包まれたままで、魔法を無効化してしまう。
屈強な騎士の力も弾き飛ばしてしまう。
もしかしたら、これが聖属性の魔法?
まだ使いこなせないのではなかったの?
どうしよう····このまま死んだりしないわよね?
別に公爵にこだわらなくても、私の傍にいれば、教養も身に付けられるし、魔法も学べる。
お母様からも守るし、他の誰にも傷つけられず、私も愛してあげるのに。
「ロシェル、出てきなさい。あなたが頑なな態度をとると、誰かが傷つくかもしれないわ。怯えないで。私はあなたを心配しているのよ。大丈夫、皇后陛下には私がちゃんと話すから。取り敢えず、顔を見せて。」
そう言い続けているけれど、全く反応がない。
倒れているのかしら?
大丈夫よね?
「おい、イリナ何をしている。」
え?
聞き覚えのある声に振り向けば、そこにはリーヴァが立っていた。
「お兄様?!国内の魔獣の討伐に行かれていたのではないの?」
北部の山間部に大型の魔獣が現れたということで、討伐に向かっていたはずなのに。
「早く討伐することが出来たからな。だから案内して来たんだ。」
「案内してきた?誰を?」
まさか·····。
「丁度グレイス·ヴァーバル公爵が、ナタール王国で上級魔族を討伐し帝都に帰還した。公爵を案内する理由は分かるだろう?お前はここで何をしているんだ?」
「お母様に····皇后陛下に頼まれて、公爵宛の夜会の案内の手紙をヴァーバル領へ持って行ったの。その時に皇后陛下から聖属性の魔力を持つ者を保護する様に言われていたから、帝都に連れてきただけよ。」
「私はロシェルを皇城に連れて行く話は聞いていませんが?」
そう言って、リーヴァの背後から、黒い仮面に黒いローブを身につけたグレイスが現れる。
「ひっっ!」
その存在の圧力に思わず声が漏れる。
グレイスはフードを取り、ゆっくり仮面を外す。
「ごきげんよう、イリナ皇女殿下。」
「ご····ごきげんようヴァーバル公爵···あの···。」
これがヴァーバル公爵?
遠くから見たのはもう何年前だろう。
光を帯びたような銀髪と白い肌、少し憂いのある目元はロシェルと同じだわ。
水気を感じる水色の瞳は、吸い込まれそうな程の透明感。
これは····ロシェルに劣らずの美しさ。
私も美しいと言われるけれど、隣に立ったなら霞んでしまうわ。
こんなに美しい方だったなんて。
「ごめんなさい·····。」
気づけば謝罪の言葉を発していた。
「それでどうしてこんな事になっている?これは····聖属性の結界魔法か?」
「古文書には、魔力を無効化する聖属性の結界魔法があると記載されているわ。体内の魔力に反応するから、部屋に入れないのでしたらロシェルに拒否されているのでしょうね?それでイリナ皇女殿下。」
「な、何かしら?」
「王妃陛下に今すぐ謁見の申し出をしたいのですが、お取り次ぎ願いますでしょうか?」
「わ、分かったわ。」
「それからロシェルは別の離宮に移らせて頂きます。皇帝陛下はご了承済みです。」
「えっ····でもこの部屋に入れないから連れ出せないでしょう?」
イリナがそう言うと、グレイスはふっと、軽く笑みを浮かべる。
そして何も無いように、扉を開け部屋へ入っていった。
「え?どうして入れるの?」
イリナが入ろうと試みるが、光の膜に阻まれ中に入れない。
「ははは、お前は相当ロシェルに嫌われたんだな。」
リーヴァは可笑しそうに笑う。
「それだけ嫌われているなら、保護するなんて無理だろう。」
「そんなっ!」
リーヴァはイリナにそう言うとグレイスと同じように部屋へ入っていった。
何なのよ!
こうしてイリナは1人部屋の前に取り残され、リーヴァとグレイスが戻った事を知らせるべく、急ぎ皇后の元へ向かうのだった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




