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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
35/93

35 イリナの来訪

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

信じられないわ。

人間なの?精霊なんじゃないかしら?

女性でもなかなかいないだろう美しい顔立ちに、金髪と色白の肌に浮かぶ紫水晶の瞳。

完璧だわ。

無理矢理連れて来られて困った微笑み。

これはヴァーバル公爵は手放さないわ、きっと。

お母様が、公爵の不在を承知で私を寄越したのは正解だわ。

今の私に逆らえる者はいない。


「あなたが聖属性の魔力の持ち主ね。名前は何て言うのかしら?」


高鳴る気持ちを抑えて、平静を装う。


「ロシェルと申します、皇女殿下。」

「ロシェルね。ロシェル、私が今日ここに来たのはあなたを保護するためよ。だから怯えないで。あなたが聖属性の魔力を持っている話は皇后陛下から伺いました。あなたの力は国内だけでなく、他国からも狙われるわ。皇后陛下はあなたを皇城に迎えたいとお考えよ。」

「私の身はヴァーバル公爵様が守って下さいます。」

「そうね、ヴァーバル公爵の力は絶大だわ。でも今この状況を見て。公爵が不在の間、私が皇女という身分だからだけれど、先触れ無しで突然現れた私でも、あなたに簡単に会えたわ。公爵は魔族を討伐する任務を与えられている。今後もヴァーバル領を空ける機会は多くなるでしょう。そうなれば、より権力のある者があなたを守る事が適切だと思うの。だから私と共に帝都へ行きましょう。公爵には戻り次第私から話しておくから。」


ロシェルは黙って私の話を聞いてくれている。

このまま押しきれば連れ出せそうね。


「グレイス様は今、命懸けで魔族を討伐しています。帰って来られたら、ちゃんと『お帰りなさい。』と言って、出迎えたいのです。」


何ですって?

忠犬みたいなセリフ。

可愛いぃわぁ·····。

今そのセリフが公爵に向いているのが気に入らないけれど、皇城に迎えてしまえば、きっと私の為にそう言ってくれるようになるでしょう。

元男娼でしょう?

手元に置けば、気に入られる為に全力で愛情を示そうとするはずよ


「とにかくこちらに来なさい。」


そう言って隣に座るよう促す。

近くでその瞳を見てみたい。

ロシェルは少し躊躇しながらこちらに近寄ってくる。

しかし椅子に座ることはなく、床に膝をつき頭を下げる。


ふぅん·····男娼も奴隷みたいなもの。

ちゃんと身分に合った行動は出来るのね。

この子を私の傍に置くなら、どこかの家に養子として入れるのが良さそうね。

ああ、でももしお母様がロシェルに会ったら、自分の傍に置きたいと言い出すかもしれないわ。

そこは警戒しないといけない。


イリナがそう想いを巡らせていると、ロシェルが不意に口を開く。


「皇女殿下、発言を宜しいでしょうか?」

「え?ええ、何かしら?」

「·····私の聖属性の魔力はまだ覚醒したばかりです。私は1日も早く古代のエルフが使っていたとされる古代魔法を学び、使えるようにならなければなりません。グレイス様は古語に通じていらっしゃる上、大陸に名を馳せられる程の大魔導師。グレイス様を越えるお方が皇城にいらっしゃるのでしょうか?」


公爵を越える魔導師?

帝国最強と言われた魔導師のエルドも、公爵の方が上だと公言していたかしら?


「私の力を望んで下さるのでしたら、どうかこのヴァーバルでグレイス様の元で学ばせて下さい。」


ええー、これは不味いわ。

公爵よりも教えるのが適任な人間がいないわ。


「そ、そうね。確かにあなたの言う通りだわ。でも先程も話した通り、公爵はとてもお忙しい方よ。高度な魔法はまだしも、あなたは魔法の基礎をしっかり学んだ方がいいわ。魔法だけではなく、一般教養、マナーも。私が皇城でそれらを教える教師を用意しましょう。」


そうよ。

自分で言っておきながら何だけど、それが一番いいのではないかしら?


「さあ、決まったら即行動しましょう。今夜はこちらで一泊させてもらうわ。明日の早朝出発しましょう。取り敢えずどこか部屋に案内して。」


私はそう言って立ち上がる。

この家の家令と思われる男性が私を部屋に案内すべく、扉に(いざな)う。


「お待ち下さい。」


ロシェルは床に両膝をついたまま、声を上げる。


「皇女殿下に申し上げます。恐れながら、私とグレイス·ヴァーバル公爵様はこの度婚約する運びと相成りました。」

「は?何を言っているの?あなたは奴隷でしょう?公爵と結婚できるはずかないわ。」

「皇帝陛下からはお許しを得ております。私はある伯爵家に養子に入ることが決まっております。」

「何ですって?!」


あの公爵に先に手を打たれたの?


「夫にしてまで独占しようなんて浅ましい····。」


気づけば、皇女の仮面を捨てて、そう呟いていた。


「まだ何も手続きをしていないのでしょう?聖属性の魔力を持つ者の保護は、公爵よりも皇族の方がいいに決まっています。····そうだわ。あなたにいい事を教えてあげましょう。グレイス·ヴァーバル公爵は婚約解消が1回、離婚なんて2回経験してるんだから。」


そう言うとロシェルは目を見開いて驚く。


「1人目はフェアノーレの元王太子。その王太子は母親である王妃と側妃による後継者争いに巻き込まれ廃嫡。その為、婚約者だった公爵とは婚約解消。2人目は現フェアノーレ国王。アーレン国王が身分の低い男爵令嬢との婚姻を望んだから、実務を担うため公爵が側妃になったけれど、古竜を倒した勇者がその褒賞として公爵との婚姻を望んだの。だからアーレン国王と離婚して、その勇者ダリウス卿と結婚。これが3人目。そしてその後、夫となった勇者ダリウス卿とフェアノーレに現れた聖女が出会い、婚姻を望んだので、その願いを叶えるため公爵はダリウス卿と離婚。結局そんなフェアノーレに居づらくなって、公爵はルダリスタン帝国に来たのよ。公爵は男性に縁がないのでしょうね。だからあなたが望んでも、また離れることになるかもしれないわ。そうしたら、公爵はまた悲しむでしょう?可哀想だわ。公爵の為にも、深い関係にならずに、離れた方がいいと思うわよ。」


「·····あの···このヴァーバルの森にある11名の墓は····?」

「ああ、ヴァーバルの墓所と呼ばれている場所の事?あれは勇者ダリウス卿と離婚してルダリスタンに来る途中に公爵が野盗に襲われたのよ。その時、公爵を守って死んだ従者や騎士達らしいわよ。襲わせたのは、フェアノーレの聖女の養父となっていた子爵らしいわ。あれは酷い話よね。聖女が子爵に頼んで襲わせたと(もっぱ)らの噂よ。」


ロシェルはその話を聞き、顔色が悪くなる。


「古竜を倒した勇者は、戦って失った身体を聖女に再生魔法で治してもらった事で恋に落ちたと。それを悪妻が邪魔し、2人の仲を引き裂こうとしたけれど、2人の愛が(まさ)って、悪妻を退ける事が出来たという劇が、一時期流行っていましたが····。」

「ああ、それよ。その悪妻のモデルが公爵よ。まあ、フェアノーレでも貴族は公爵の事を知っていたから、悪妻なんて思っていなかったでしょうけど、平民にはうけたみたいね。このルダリスタンも、その劇の話は有名だったもの。ただ聖女に横恋慕されただけなのにね。」


本当に、聖女だというだけでやりたい放題。

吐き気がするわ。


その話を思い出し、苦々しい気持ちになっていると、ふとロシェルが涙を流していることに気付く。


「あなた泣いてるの?」


「····僕は、その劇を観に連れていってもらったんです。聖女の想いが切なく表現されていて、皆それを観て泣いていたのを覚えています。でも僕は、その悪妻が可哀想だと思ったんです。本当に彼女は悪妻なのかなって。だって勇者と結婚して、聖女が現れなければ悪妻も幸せだったはずなのに。勇者と別れたかったのなら、直ぐに別れていたと思いますし。幸せだったから、勇者が身体の一部を失っていても勇者の傍に居たんだと思います。勇者と別れたくなくて、聖女に奪われたくなくて、聖女と対立しただけなのに。」

「そうね。その辺りが実話なのが腹立たしいわね。」

「あの悪妻のモデルがグレイス様だなんて·····。そんな辛い想いをされていたなんて·····。」


そう言ってロシェルは辛そうに涙を流す。


何?

公爵の辛い過去を想って泣いてるの?

可愛いぃ·····。

男娼って演技するのが上手だと思っていたけれど、この子は····この涙は本物みたいね。

良い子だわぁ。

この子の視線が自分に向いてくれたら、きっと嬉しいでしょうね。

何かしら、この胸の高鳴りは·····。

やだ、私、本気になりかけてるわ。


取り敢えず皇城に連れて行きましょう。

そうすれば後はお母様が何とかしてくれるわ。



◇◇◇



「グレイス·ヴァーバル公爵、この度のナタール王国での魔族討伐大義であった。」

「有難うございます。」


グレイス率いる討伐隊がナタール王国での魔族討伐より帰還したのは、約1ヶ月後の事だった。


「そして上級と言われる魔族の捕獲。ご苦労であった。これで絶滅させたと言われていた魔族の出現の謎が解けるかもしれない。他国からの討伐依頼はまだあるが、今宵は疲れた身体をゆっくり休ませるがよい。」

「有難うございます。」

「と言いたい所だが、面倒な事が起きてな。」

「面倒とは?」

「·····皇后とイリナが勝手をした。」

「·····私が留守の間ロシェルに接触しましたか?」

「ああ。」

「ロシェルは皇城に?」

「分かるか?」

「はい。」

「連れ出そうとしたが、拒まれ、結局侍従に危害を加えると脅して連れて来たらしい。今は離宮の部屋に連れ込んでいる。保護する目的で連れてきたと言っているらしいがな。」

「皇帝陛下。」

「ああ。丁度権力を振りかざす頭の悪い女には嫌気がさしていた。」

「ついでに皇后派を私に処理させるおつもりですか?お人が悪い。」

「ははは、いいではないか。まぁ、殺すなよ。」


数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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