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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
30/93

30 ロシェル ①

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「何だ、ここは·····。」


グレイスはモランに言い、リーヴァを呼びに行ってもらった。

生き残ったニコラス·ヒトラス伯爵令息にも説明を求める為同行させるが、ニコラスは地下室という単語を聞くだけで、顔色が悪くなっていた。


「ニコラス、説明しろ。」


リーヴァも見て分かったのだろう。

それでも説明を求めた。

ニコラスは怯えながらも、母親である伯爵夫人や姉、また父親である伯爵がここを利用していた事、また鉱山を視察に来た貴族にも金をもらい、この場所を提供していた事を告白した。

禁止薬物の使用も認められたので、ニコラスは罰せられる事になった。


「グレイス様より、こちらの遺体を灰にし、埋葬しても宜しいかと許可を願い出ております。」

「許す。人を寄越そう。それでグレイスは?」

「別室にて、生き残った者の治療を行っております。」

「生き残った者がいたのか?」

「はい、少年が1人。かなり難しい治療です。時間がかかるかと。」

「そうか、戦闘後でグレイスも疲れているはず。隙を見てゆっくり休ませてくれ。」

「承知しました。」



少年の目は窪み、頬は痩け、身体もガリガリに痩せていた。

治癒魔法をかけながら、水を含ませた布を口元に置き、少しずつ水を飲ませた。

身体を拭き、衣服を着替えさせベッドに寝かせる。

それから胸のボタンを外し、手をかざして詠唱する。

グレイスの魔法陣が少年の身体に現れる。

グレイスはナイフで手のひらに傷をつける。

流れた血のまま、その手のひらを少年の胸にあてた。

血は少年の身体の魔法陣に吸い上げられ、銀と黒の色を増す。

その上に白い魔石を置くと黒い靄を吸い始める。


「取り敢えずこのままで。ドイナーは私が戻るまでこの子を見ていて。」

「承知しました。」


それからグレイスは戻ったモランと共に牢屋に戻り、残された遺体を全て灰にし、手伝いに来てくれた騎士達と共に埋葬した。

屋敷の外では、魔獣の素材の剥ぎ取りが終わり、死体が集められていた所で、闇の魔法を使い灰にした。


「いい加減グレイス休んでくれ。魔族とどんな会話したかは明日でもいいから。」


リーヴァにそう言われ、少年の部屋に戻るとドイナーが世話をしてくれていた。

少年の胸に置かれていた魔石を見ると、真っ黒に変色していた。


「ドイナーもモランが戻ったら交代して食事をとって休んで。私はここで食べて、休むから。」

「俺もここで取ります。部屋の端でいいですから、休ませて下さい。」

「大変な戦闘だったのよ。あなたの身体が休まらないわ。」


ドイナーにそう言うと、少し表情を緩めながら困った顔をする。


「グレイス様は従者に優しすぎます。ここに居たいと言えば、許してくれますか?」

「ドイナー、1人だけいい顔をするなよ。グレイス様、私も居ますから。」


ドイナーと2人で話していた所でモランが3人分の食事を持って戻ってきた。

普通貴族は従者と共に食事をしない。

ただこれは、グレイスがリーヴァと身分を隠し、村で生活した時から気に入っている事だった。


「ふふふ、私の従者は皆優しいわ。」


結局グレイスに割り当てられた部屋で、2人は床で、グレイスは少年に添い寝する形で休んだ。





身体の中で、何かが巡っている。


いつしか飢えも、喉の渇きも感じなくなっていた。

あれほど痛んでいた身体も何も感じなくなった。

発熱していた身体の、その熱さえ牢屋の床の冷たさに奪われていった。

他の仲間はどうなった?

2日程「助けてくれ」「水をくれ」と叫んでいた声も3、4日程すると呻き声だけになり、やがてそれさえも聞こえなくなった。

やがて空気が淀み始め、もしかしたら誰かが死んだかもしれないと思うようになった。


怖い····。


僕は奥様のお気に入りだった。

お嬢様や、ある時は旦那様にも随分可愛がられた。

でも彼等を好きになれなかった。

身体を求められ、吐き気がした。

でも生きるためには相手をするしかなかった。

ある日鉱石の取引を行っているどこかの貴族の男が、僕と一夜を共にしたいと言い出した。

僕が奥様と居たのを見たのだろう。

大金を積まれ、その男がこの領地にいる間は相手をさせられた。

その時病気をもらったらしい。

男が帰った後、魔導師による鑑定で病がうつされた事が分かった。

奥様達はあっさり俺を捨てた。

たまに治癒魔法をかけられながら、知らない女や男の相手をさせられた。

病は進行した。

治癒魔法でギリギリ身体を保ちながら、いつしか死にたいと思うようになった。

ある日、屋敷が騒がしくなった。

何かが起こったのは分かったが、地下牢に閉じ込められた僕達は、それが何なのか知るよしもなく、結局そのまま放置された。

少しずつ人の気配が感じられなくなっていく。

地下牢にいる僕達も、一人一人と減っていっているのが分かる。

あれから何日経った?

地下牢が、何かの爆音と共に震動する。

消えかけていた意識が一瞬戻る。

僕は最期は何かに食べられて終わるのか?


静かになった······。



「·····」「·····」「·····」


人の声が聞こえる。

その声は、とうとう牢屋の中にいる僕の近くまで来た。

何を話している?

僕の身体が腐ってる?

手遅れ?

苦しみから解放させる為に命を奪う?

そうか·····。

やっと人が来たのに、もう僕は····。

でも····でも····


手に触れる何かを掴む。


「ま····だ·····いき····て···る。」


絞り出した声は届いただろうか。

こんな状況になって、僕はまだ生を望むのか。


「貴方を死なせはしない。」


女の人の声だった。

声が震えていた。

同情してくれたのかな。

ああ····抱き締めてくれている。

今日の僕は汚いよ。

臭いし最悪だ。

いろんな人に抱き締められたけど、今生まれて初めて安らぎを感じた。



あれから、意識を失って····この天井、牢屋じゃない。

いい香りがする。

身体の中に何かが巡っているのが分かる。

魔力だ。

相変わらず足は動かないけれど、今までの痛みや苦しみはない。

手は?

え?

頭を動かし確認する。


手は握られていた。

それも······美しい女性。

こちらに身体を向け、僕の手を握り眠っている。

透き通るような白い肌に、癖のない銀髪が輝いているように見える。

口紅ではない····色づいた柔らかそうな口唇。

静かな寝息。

いつも誰かと寝て、夜中目が覚めると、その人が眠っている事に安堵した。

起きればまた何かされる。

起こさない、起きたことを気付かせない。

そうやって息を潜めて目を閉じていた。

でも今は·····眠っているこの人の瞳を見てみたい。

起きたら、どんな表情をするのか見てみたい。

起きて欲しいと思う事があるなんて·····驚きだ。

寝顔を見つめる。

握られた手から僕の身体の中に魔力が入ってくる。

ああ、なんて気持ちいいんだ。

ずっとずっとこのままでいたい。


そうやってどのくらい見つめていただろう。

その人の瞼が動いた。

そしてゆっくり目を開けた。

澄んだ水のように、透明感のある赤い瞳。

ルビーだ。

綺麗だ。


その人の瞳が僕をとらえた。

じっと見つめ合う。

そしてその人は微笑んだ。


!!


心臓が止まりそうだった。


僕も今まで散々綺麗と言われてきたけれど、これは敵わない。


「気が付いた?苦しい所はない?」


澄んでいて、優しくて落ち着いた声。


すぐに言葉が出なくて、小さく頷く。

その人·····彼女は半身を起こし、片手で僕の頭を撫でる。


「水分を取りましょう。」


彼女はそう言い、手を離し水差しに手を伸ばそうとする。

でも僕が手を離したくなくて、力を込める。


「····大丈夫。傍にいます。水を取らせて。」


微笑みながら言われて、離さない訳にはいかない。

手の力を抜くと、彼女はもう一度「大丈夫。」と呟き、水差しから水を注ぐ。

「グラスで飲めるかしら?」と言われたので頷くと、彼女は僕の背中に手を入れ、少しだけ僕の上半身を起こす。

そしてゆっくり水を飲ませてくれる。


「内臓が痛んでいるの。あなたには申し訳ないけれど、あなたの身体に私との血の契約をさせてもらったわ。身体に私の印である魔法陣の痣が出来ているわ。そこから私の魔力を受け取ってもらってる。その魔力があるから、あなたは生きていられるの。消せば間も無く亡くなるでしょう。あなたの身体がどこまで回復するかは分からないけれど、必要なくなれば、その時に血の契約は解除するから、心配しないで。」


ああ、僕はやはり死ぬ所だったのか?

血の契約····奴隷みたいなものかな?

とにかく僕は彼女に生かされている。

それにこの魔力をずっと感じていたい。

僕は小さく頷き同意を示す。


「食べ物はスープからにしましょう。少しずつ、ゆっくり回復していきましょう。」


僕は小さく頷く。


「私の名前はグレイスというの。あなたの名前を聞いてもいいかしら?」


僕の名前······。


「ロシェル····。」

「ロシェル····綺麗な名前ね。これから長い戦いになるけれど、一緒に頑張りましょうね。」


そう言って頭を撫でてくれる。

涙が溢れてきた。

僕は男娼で、身体も汚れて、病に冒され、身体も腐ってる。

捨てられた僕だけど、身体を治せば、この人に愛してもらえるだろうか。


僕はそんな途方もない希望····今日それは僕の人生の目標になった。



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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