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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
31/93

31 魔族が目覚めた理由

不定期投稿です。

よろしくお願いします。

「魔族が眠っているとはどういう事だ?」


魔族を倒した後、グレイスは負傷した騎士達と共に暫くヒトラス領に滞在した後、ヴァーバル領に戻った。

その後あらためて、皇帝陛下に今回の討伐について報告することになった。

皇帝陛下の傍には、皇太子となったリーヴァが控えている。


「そのままの意味でございます。古代、人間が倒したのは確かに強力な魔族でしたが、彼等が全てではなかったと。」

「どれ程眠っている?」

「数は分かりかねます。」

「他国で報告されているものが魔族だとすると、なぜ今眠りから覚めているのか。」

「····皇帝陛下、私の身体が古竜の血を持っているのをご存知でしょうか?」

「ああ、フェアノーレの勇者が受けた竜の血の呪いをそなたが解呪····いや違うな、自分の身に移しただったか?」

「はい、彼の竜は私の中で共存しています。そして会話出来ます。」

「·····自我を持っているという事か?」

「はい。それで古竜に魔族について問いました。すると興味深い事を申しました。」

「ちょっと待て。古竜がそなたの中で自我を持っているというのも色々問題があると思うのだが····まあいい。それで興味深い事とは?」

「本来、魔族が眠りについているというのはよくある事なのだそうです。そして魔王を倒した後生き延びているというのも、何ら不思議ではないと。寧ろ何故魔族が滅んだと思っているのか、逆に問われました。」

「古文書や言い伝えは誤りがあると?」

「はい。そして、魔族が目覚める以前に、古竜も何故この時代に目覚めたか?それについてこう言いました。呼ばれたからだと。」

「呼ばれた?誰に?」

「分かりません。しかし古竜を目覚めさせただけで、その後、何かを求められるような接触はないと。おそらく魔族が目覚めたのも、同様の事が起こったと考えられます。」

「目覚めさせる目的は?」

「正確な事は分かりませんが、目覚めさせた後接触がないことを考えると、おそらく世界の混乱が第一の目的かと。」

「何のために?」

「分かりませんが、我々に出来る事は、目覚めた魔族を今は倒すのみかと。」

「なるほどな·····。グレイス、リーヴァはこの度の魔族討伐により、約束通り皇太子に任じた。リーヴァを皇太子に押し上げたのは、後見であるタンドゥーラ公爵家、そしてそなたの働きによるものだ。特にそなたは、これからも魔族の討伐に欠かせない人間となるだろう。このまま、リーヴァが継ぐこのルダリスタンを強固にする為、そなたを公爵に陞爵する事とする。この先もリーヴァをルダリスタンを支えよ。よいな?」

「承知しました。」


リーヴァもグレイスに小さく頷く。


「そして魔族を倒し、この世を混乱に陥れようとしている者が何者なのか探しだし、殺せ。」

「承知しました。」


こうしてこの日グレイスは、ルダリスタン帝国の公爵の爵位を持つ1人となった。



◇◇◇



「遅くなったわ。ロシェルはどうしているかしら?」

「それが·····。」


グレイスが公爵の陞爵の授与等で時間がかかり、漸く屋敷に戻って来たのは10日程経っての事だった。

迎えてくれたニケは、少し気落ちした様子だった。


「何かあったの?」


グレイスが問うと、ニケは泣きそうになりながら説明してくれた。


「ロシェルから鏡を見せて欲しいと言われ、何も考えず渡してしまいました。そうしたら、ロシェルが鏡に映った自分の姿に驚いて·····。心を閉ざしてしまいました。グレイス様、本当に申し訳ありませんっ。」


ああ、あれから約1ヶ月。

最近漸くすりつぶした野菜のスープが食べられるようになったばかりだ。

まだ身体の肉付きが良くなっている訳ではなく、まだ痩せこけたままだ。

見た目を気にしているのだろう。


「有難うニケ。世話をかけたわね。自分を知る事は大事な事よ。ショックを受けたなら、尚更元の身体を取り戻そうと頑張れるはずよ。大丈夫、心配しないで。有難う。」


そう言ってニケを抱き締めれば、ニケは涙を浮かべながら抱き締め返してくれた。





怖い、怖い、怖い·····。


助け出されてから約1ヶ月。

その間グレイス様は、時間がある時は殆ど僕の傍に付き添ってくれていた。

夜は同じベッドで手を握り、魔力を流しながら、僕の身体に巣食う病原菌を滅菌してくれる。

僕にとってはとても心地よく、今までにない程幸せな時間だ。


そんなグレイス様は、実はルダリスタン帝国の中でも有力貴族の1つ、タンドゥーラ公爵家の令嬢なのだそうだ。

僕が隷属させられていたヒトラス子爵よりも遥かに高い地位にある家の方で、自身もその働きぶりから伯爵に叙爵された方だ。

そして今回、ヒトラス領を襲った魔族の討伐により、更に陞爵されるだろうと言われているらしい。

グレイス様がいない時に世話をしてくれるニケというメイドが教えてくれた。

その件と、魔族への対抗策を練る為、グレイス様は数日帝都に滞在される事になった。

グレイス様はその間も、ぼくの治療が出来るように、特別な魔法陣を用意してくれた。


僕は勘違いをしていた。


そんなに親切にしてくれるのは、やっぱり僕が綺麗だからだと思っていた。

だからグレイス様がいない間、綺麗にしておこうと思い、ニケさんに鏡をお願いした。

ヒトラス子爵家の人達が気に入ってもらったこの容姿をグレイス様も気に入っているのだから、それに応えなければならないと思っていた。


そして鏡を見た。


はじめ何が映っているのか分からなかった。

落ち窪んだ目。

髪はパサパサで艶がない。

肌も透き通るように美しいと称賛されていたのに、鏡に映るそれは、カサカサとしていて、くすんでいた。

頬はこけ、老人にも見えた。


嘘だろう?

これが僕?

こんな酷い姿になってしまっていたの?

これじゃあグレイス様に愛して貰えない。

どうしよう····。

見られたくない、気持ち悪い。


布団の中に潜り込む。

こんな僕じゃそのうち捨てられる。

未だに足は動かない。

グレイス様はどんな気持ちで僕を傍に置いていたんだ?

ああそうか、同情してくれていたんだっけ。

僕が綺麗だから、人を喜ばせる事が出来た。

こんなんじゃグレイス様を喜ばせられない。

僕が嬉しくなって見せた笑顔も、これではきっと気持ち悪かっただろう。


恥ずかしい······。


怖い······。


僕には生きる価値があるんだろうか?

グレイスさまの傍にいる価値がある人間になれるだろうか?





「ロシェル·····。ただいま。眠っているの?」


グレイス様の声がする。

本当なら喜んで『お帰りなさい。』と笑顔で迎えるのに、こんな顔の自分を知ったら、どんな顔して迎えればいいだろう?


「グレイス様·····お帰りなさい。」


布団に潜ったまま返事をする。


「また少し元気になった?心配だから顔を見せて。」

「·····グレイス様、ごめんなさい。僕、本当に気持ち悪かったでしょう?今まで気付かなくてごめんなさい。今はこんな僕でも、ヒトラス子爵家では顔が綺麗だという事で働かされていたんです。顔で役に立っていたのに、こんな姿じゃグレイス様を満足させられません。本当にごめんなさい。」


「·····ロシェル、あなたがヒトラス子爵の屋敷で男娼として働かされていた事は知っています。もうそんな事しなくても大丈夫なのよ。私はあなたを男娼として傍に置いている訳ではないわ。」

「分かっています。同情して下さっている事は分かっています。でも僕にはそれでしかグレイス様に返せるものがなくて·····でもそれさえも僕は失ってしまった。」

「ロシェル、私はあなたの元気な時の顔は知らない。今の私には、過去のあなたの顔がどうだったかは関係ないの。私が知っているのは今のあなただけ。だから怖がらないで。それに、初めてあなたを見つけた時のあなたより顔色は随分良くなったのよ。あなたは少しずつ良くなっている。あなたが顔に自信があったのなら、良くなって、その姿を私に見せて。」


「·······。」


「····ロシェル、あなたは私に会いたくない?」


グレイス様·····僕は····僕が会いたい!


「っっ!グレイス様っ!」


思わず布団から顔を出した。

そこには美しい水色の瞳のグレイス様がいた。


「グレイス様、瞳が水色····綺麗だ····。」

「ふふ、ロシェルは初めてだったかしら?私は元々この色なの。闇属性の魔法を使うと目が赤色に変化するの?ロシェルはどちらが好き?」

「どちらも。」

「私もロシェルの紫水晶の瞳が大好きよ。」

「っっ!·····グレイス様、僕、頑張って良くなります。少しでもグレイス様の役に立てる人間になります。だから、ずっと傍に居させて下さい。お願いします。」

「勿論よ。一緒に幸せになりましょうね。」

「はい····はい····。」

「おいで、ロシェル。」


グレイスが手を広げると、ロシェルは布団からはい出て、グレイスに抱きついた。

グレイスは、ロシェルをしっかり抱き締めてあげた。



『アグリス、気が付いた?』

【ああ、こやつの中には僅かだが聖属性の魔力を感じる。】

『本人はまだ、自分の魔力に気付いてないみたい。』

【そうみたいだな。】

『エルフがいた古代、聖属性の魔力を持つエルフは大地の魔力を借りて治療を行ったと読んだわ。』

【ああ、古代魔法と大地の魔力で、それこそ失った手足を再生させた。それは聖属性の魔力を持った者のみだ。】

『ロシェルも聖属性の魔法を使えるようになれば、自身を治せるかしら?』

【おそらく。】

『フィーネを越える魔法を使えるようになるかしら?』

【あの女の魔法とは別物だが、聖属性の魔法は治療魔法の最高峰。育ててやれ。】

『あなたも一緒にね。』

【我らは真逆だからな。】

『でも聖属性の魔法を使える人は今はいないはずよ。あなたが知っている知識を教えて。失われたエルフの魔法を復活出来るかもしれない。』

【確かにな····それは魔族に対抗出来る力になるだろう。】


グレイスは傍で静かに寝息をたてるロシェルに、小さな希望を見出だすのだった。


数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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