32 ロシェルの回復
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「目を閉じて、ゆっくり、深く呼吸して私がいつもあなたに流した魔力を受け取るように、大地から魔力を受け取る気持ちになって。」
「はい。」
グレイスはヴァーバルの森の深い場所にロシェルを連れてきて、その中でも一番大きな木の下で、身体を幹に預けながら座らせていた。
グレイスも透視の魔法を使い、魔力の流れを見る。
森は大地の魔力で満ちていて、とても心地いい。
「ロシェル、片手を地につけて。」
グレイスはもう片手を握り、大地の魔力を、地に手をつくロシェルを通じて受け取ろうと試みる。
やがてゆっくりと、少しずつロシェルの身体に魔力が吸い上げられていく。
「ロシェル感じる?」
「·····はい。」
「私は手を離すから、今の感覚を維持して魔力を吸い上げてみて。そしてゆっくり身体に巡らせてみて。」
「はい。」
グレイスは手を離す。
少しずつ吸い上げる力は弱まるが、ロシェルでも何とか維持することが出来た。
グレイスとロシェルはこの作業を、グレイスの時間が許す限り行った。
半年もするとグレイスの介助なしに大地の魔力を取り込めるようになっていた。
病は癒え、ロシェルの身体も肉付きが良くなっていった。
本人が話していた通り、癖のある金髪に、真っ白い透き通るような肌、睫の長い、少し憂いのある目元に紫水晶の瞳が神秘的だった。
確かにロシェル程の美しい少年をグレイスは見たことがなかった。
アーレンも金髪碧眼で綺麗な顔立ちだったけれど、それを上回る美しさだわ。
これなら、女性だけでなく男性も心を奪われてしまうわね。
守らなければ、また同じ様に誰かに囚われていいように扱われるわ。
「ロシェル、前にも話したと思うけれど、あなたは聖属性の魔力を持っているわ。その魔力はまだ小さいけれど、鍛練でもっと引き出す事が出来るかもしれない。そうすれば、失われた、古代エルフが使っていた再生の魔法を使い、あなたの傷んでしまった身体を元通りに出来るかもしれない。やってみましょう。」
グレイスは同意を求める様に説明する。
ロシェルの身体は、未だにグレイスから身体に刻まれた魔法陣から魔力を受け取らないと維持出来ない状態だった。
食事も取れるようになり、手には身体を支える筋肉も取り戻す事が出来たが、両足と内臓の一部は腐蝕したままだった。
グレイスの魔力で保存し、その形を成しているだけである。
ロシェルもその事は十分承知していた。
「グレイス様、僕がちゃんと1人で生きていける身体を取り戻せるなら、何でもやります。挑戦させて下さい。」
「分かったわ。頑張りましょう。」
グレイスは魔力がある者なら簡単に使える、一般的な魔法から教えた。
はじめは、それすら発動するのに苦労したが、一度発動させてしまえば感覚を掴めたようで、難なく使えるまでになった。
ロシェルは動けないながらも、屋敷で火を起こして風呂の為の湯を沸かしたり、魔法で薪を割ったり、また木炭を作ったり、とにかく出来る魔法で仕事をした。
魔法を使う事で、徐々に魔力量も増えていった。
そうするうちに、車椅子を自分の魔力で動かせる様になり、ある程度の移動も自分で出来る様になった。
またグレイスは、領民で希望する者には、魔法の講義をした。
勿論ロシェルも参加して、魔法について学んだ。
そうしてあっという間にさらに2年が過ぎた。
グレイスはこの2年の間、ルダリスタン帝国に現れた6体の魔族、全てをリーヴァと共に討伐した。
リーヴァ皇太子とそれを支えるグレイスの名は、この大陸に広く知れ渡ることになった。
しかし、未だ魔族に呼び掛ける者の存在は掴めずにいた。
そうしたある日。
「グレイス様、エルフの魔法を試したいのですが宜しいでしょうか?」
その日ロシェルはいつになく真剣な顔つきで、グレイスに相談してきた。
「古文書は読み終わったの?」
「はい。今なら古文書に書いてある内容が、感覚的に分かるんです。直ぐ試してみたいんです。」
ロシェルの魔力は増えたものの、エルフの魔法を使えるほどではないと判断していた。
故に未だ古文書に書かれているその魔法を試していなかった。
「いいわ、やってみましょう。」
いつにないロシェルの気迫に、その魔法を試してみることにした。
◇
ヴァーバルの森の奥、ロシェルはいつもの様に大木に寄りかかり、目を閉じる。
「グレイス様、足りない魔力をグレイス様に貸して頂きたいんです。」
「分かったわ。」
「有難うございます。」
ロシェルは詠唱を始める。
ロシェルの真下に魔法陣が広がる。
少し弱い魔力に、グレイスは地に両手をつき、大地の魔力ごとグレイスの魔力も合わせて、魔法陣に送り込む。
魔法陣はグレイスの魔力も混ざった事で、銀の輝きを増していった。
グレイスの魔力を感じてか、詠唱をしながらロシェルは笑みを浮かべる。
詠唱は暫く続いた。
すると突然、周囲の木々全てが黄金の光を放ち出した。
それがゆっくり魔法陣を通してロシェルの身体に流れ込んでいくのが分かった。
ロシェルの身体も光を放ち出す。
傷んだ両足と腹部が特に光を放ち出した。
それはグレイスと、護衛の為来ていたドイナーも目を瞑ってしまう程の輝きだった。
ロシェルの詠唱の声が一際大きくなる。
その時だった。
ロシェルの中の聖属性の魔力が膨らむのを感じた。
地に手をついて魔力を送っていたグレイスに、逆に聖属性の魔力が駆け巡った感覚があった。
風圧のように感じるそれが収まると、ロシェルの詠唱は止まっていた。
グレイスは、瞑っていた目を開けロシェルの姿を確認する。
グレイスの傍にはドイナーが控えていた。
「ドイナー、ロシェルは何処?」
木にもたれていたロシェルの姿が見当たらない。
辺りは聖属性の魔力で充ちていて、ロシェルを上手く探知出来ない。
「グレイス様、ロシェルはあちらに。」
ドイナーが指し示す方向を見ると、そこでロシェルは歩き回っていた。
自分の足の感覚を確かめる様に。
「ロシェル······。ドイナー、ロシェルが歩いているわ。それにあんなに元気に·····。成功したのね。」
「はい。良かった。」
グレイスの目からは大粒の涙が溢れ、ドイナーは笑みを見せた。
「グレイス様!グレイス様!」
グレイス達の視線に気付いたロシェルが、グレイスの元に駆けてくる。
そしてグレイスに飛び付くようにして抱きついた。
「グレイス様、成功しました。取り戻せました。嬉しすぎます!」
「ええ、ロシェル·····おめでとう、良かったわ、本当に····、良かった。」
グレイスも嬉しくて、ロシェルを強く抱き締める。
この2年間で少し大人びたロシェルの背中は、更に大きくなった気がした。
「グレイス様·····早速お願いがあるのですが····。」
グレイスの肩に暫く顔を埋めていたロシェルが、ふとグレイスにお願いする。
「なあに?」
「散歩して下さい。僕と一緒に今から散歩してくれませんか?」
「ふふ。ええ、いいわよ。」
グレイスの同意する言葉を確認すると、ロシェルは嬉しそうに紫水晶の瞳を輝かせ、グレイスを立ち上がらせるべく手を差しのべた。
「あら?ロシェルあなたやっぱり少し大きくなった?」
グレイスがロシェルを助け出した時、ロシェルは15歳だと言った。
悲惨な環境下に居た為、年齢より幼く見えるのだと思っていた。
実際食事が出来る様になると、それなりに成長した。
しかし同年代のそれとは違っていた。
その事をロシェルに話したら、ロシェルはヒトラス伯爵夫人はじめ多くの者が幼さの残る少年が好みだった為、身体が自然と成長を遅らせていたのではないかと言った。
ロシェルはエルフの血の隔世遺伝だ。
年齢が人間のそれと違っているのだろう。
だが、今回古代エルフの魔法で身体を回復してみると歳に相応しい体格で、背はグレイスを越えていた。
「ロシェル、あなた私より背が高かったのね。」
「みたいですね。」
ロシェルは嬉しそうに微笑む。
ロシェルはグレイスと手を繋ぎ、ゆっくりと森を散歩した。
ドイナーは少し離れた位置から護衛してくれている。
2人とも喜びに想いを馳せ、しばし沈黙していた。
静かな、幸せな一時だった。
「グレイス様·····。」
「なあに?」
突然ロシェルは歩みを止め、グレイスと向かい合う。
「·····まだまだ足りない事は分かっています。でも、これからも頑張りますから。グレイス様が話してくれたように、聖属性の魔力は魔族に対抗出来る力になるなら、僕はもっと学んで、聖属性の魔法を極めます。だから·····だから、お願いです。僕と結婚して下さい。僕をグレイス様の夫にして下さい。そして、永遠に傍に居させて下さい。」
そう言ってグレイスの手を握り、すがるようにグレイスを見つめるロシェルの目は、今までにない程真剣なものだった。
慕われているとは思っていたが、プロポーズされるとは思っていなかったグレイスは一瞬固まる。
そして見守っていたドイナーは頭を抱えていた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




