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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
29/93

29 エルフの子

不定期投稿です。

宜しくお願いします。


また感想有難うございます。

励みになります。

肩ほどの茶色の髪に茶色の瞳。

見た目は13歳程度だが、呆けた顔が更に幼さを誘う。

ぶかぶかで不釣り合いな大人びた真っ赤なドレスを身に纏い、歩いているのか飛んでいるのか、足音を感じさせない移動が、不気味だ。

そして最も特徴的なのが頭に2本生えた角だった。

その角さえなければ、何ら村娘と変わらない様相に、えもいわれぬ恐ろしさを感じた。


「ただの村娘の風貌と言われどうなのかと思っていましたが、平凡な容姿であればあるほど、その能力が図りしれませんね。」


副団長のノアエラがそう呟くも、他の者は直ぐには言葉を発せられなかった。


「グレイス、30分もたないなら引く。」

「····分かりました。リーヴァ、渡していたものを早々に使った方がいいみたい。」

「そうみたいだな。」


グレイスはリーヴァを中心として魔法陣を展開する。

リーヴァは胸元から小瓶を取り出し、中の液体を魔法陣に垂らす。

真っ赤な色のそれはグレイスの血で、魔法陣に触れると魔法陣が一気に輝きを増し、ドーム状の透明な膜を張った。

防御壁····結界だ。


それを見ていた魔族の少女は顔を輝かせ、リーヴァ目掛けて一気に飛びかかってきた。

結界に着く前にドイナーが風の斬激を飛ばす。

それを当てられた魔族はそのまま吹き飛んだ。

すかさず騎士団長のスルーガが剣に炎を纏わせ斬りかかる。

魔族は躱そうとするが、片腕を切り落とされた。

そして片腕をその場に残し、距離を取るべく後方へ飛び退いた。

もう一度斬りかかろうとした矢先、スルーガの立つ地面から、蛇のような長い生き物が飛び出し、スルーガを突き飛ばした。

地面に叩きつけられたスルーガにその蛇型の魔獣が喰らいつこうとする。

それをドイナーの斬激とモランの放った闇の魔力を込めた弓矢が当たり、退かせた。


「探知していた魔獣が北西より来ます。この蛇型の魔獣は斥候です。」


魔導師のエルドがそう告げる。


「北西より魔獣が来る!備えよ!」


リーヴァの一言で、騎士団が一斉に動き出す。


「リーヴァ、私はこの結界から出ます。エルド様皇子をお願いします。」

「承知しました。」


魔族とドイナー、スルーガが対峙していた。

他の魔導師達が地に手をつき地中の魔獣に魔法で干渉する。

魔獣がたまらず地上に飛び出した所で、他の騎士達が斬りかかる。


魔族にドイナー、スルーガが交互に斬りかかる。

魔族は躱しきれなくなり、その身を傷つけていた。


ガアアアア····


追い詰められた魔族が叫び声を上げる。

その瞬間、魔族の足元に魔法陣が広がりドイナーとスルーガの身体を捕捉した。


「しまった!」


2人は足を何者かに捕まれたかの様に固定され、動けなくなる。

それを見た魔族は再び咆哮を上げると、失った手足を生やしながら、ドイナーに喰らいつこうとした。


「くっ!!」


ドイナーは剣を構えるがバランスが悪い。

飛びかかる魔族の身体が、ドイナーにたどり着こうとした瞬間だった。

真上から土の塊が落ちてきて、魔族の身体を押し潰す。

その土の上には、銀と黒の魔法陣がまるで魔族を捕らえる網の様に浮かび上がっていた。

魔族は顔を残したまま、うつ伏せの状態で身体が固まる。


「グガッ····」


苦しそうに息をする魔族の真上に黒いローブを着たグレイスが現れる。


『どこから来た?』


グレイスは古語で問いかける。

それを聞いた魔族は少し驚きの表情を浮かべる。


『まだ話せる人間がいたのか?面白い。それにお前の魔力も面白い。喰べたい。』

『魔族が滅んだと言われてから1000年。どうやって生き延びていたの?』

『ふふ、埋まっていた。眠っていた。血の匂いで目覚めた。』

『埋まって?まだいるの?』

『いるよ。眠っているだけ。我々は人間に負けた訳ではない。』

『そう、分かったわ。じゃあ死にましょうか。』

『もう殺すの?情報が欲しいのではないのか?』

『いらない。私には聞ける者がいるから。』

『その者が知らない事も答えられるぞ。』

『魔族とは交渉しない。平気で嘘をつきそうだから。見つけたら滅するだけ。』

『私は子供なのに殺すのか?』

『魔族を見て年齢なんて分からないわ。だって1000年眠っていたって言ったじゃない。充分年寄りよ。』


グレイスは新たに詠唱を始める。拘束している魔法陣が焦げ付くように煙を上げ、ゆっくり沈んでいく。


『やめて····やめて····まだ目覚めたばかり。魔力が足りなかったから喰べただけ。』

『私も仲間が喰べられたら嫌だから、あなたを殺すだけ。』

『嫌だ、嫌だ!』

『·····あなたが生きていても人間が喰べられるだけだから。生まれ変わって人間になりなさい。』

『差し出すから·····差し出すから·····血の契約をするから。殺すの待って。』


『アグリス、魔族と血の契約は出来るの?』

【出来る。古代魔族を倒した者は、血の契約で魔族を従え、魔族同士を戦わせた。その者が死んで、血の契約をした魔族も死んだ。】

『契約主が死んだら、相手も死ぬの?逆に支配されない?』

【弱い奴は、そもそもその魔法が使えない。】



『お前、竜の血を感じる。凄い、凄い、欲しい、その血欲しい。』


【その魔族は下級だ。支配しても役に立たない。】

『そう、じゃあ灰にしましょう。』


グレイスは再び詠唱を始める。


『いやああああ····』


魔族の身体は灰になっていく。

やがて声も聞こえなくなった。


『アグリス、帰ったら色々教えて欲しいわ。』

【ああ、不味い事が起きる気がする。】


グレイスはアグリスの言葉を不穏に思いながらも、騎士団が交戦中の、現れた大型魔獣の討伐に意識を集中した。



現れた魔獣の数は多く、倒しきった頃には皆、座り込む程疲労していた。


「リーヴァ、光の矢を多く放っていたけど、魔力は大丈夫?」

「ああ、さすがに疲れたが、まだなんとか大丈夫だ。それより早めに屋敷の中を確認しよう。伯爵夫人と令嬢が行方不明だ。」

「ええ。」


グレイス達は、負傷者を屋敷に運び入れる為、屋敷の安全確認を早急に行わねばならなかった。

グレイスも屋敷に入り、魔力の残滓を追う。

すると、屋敷の地下から何かの気配を感じる。


「ドイナー、モラン、地下室があるみたいなの。階段を探して。」

「承知しました。」


2人が探し始めて暫くすると、モランが見つけたと知らせてきた。


「グレイス様、こちらです。」


ドイナーとモランを伴い地下へ階段を降りていく。

一階の夫人の趣味部屋のような場所に階段は隠されていた。

古いが掃除は行き届いているようで、頻繁に使われているのが伺える。


「何に使っているのかしら?」


グレイスが疑問を呟く。

ドイナーは何か思い出したのか、苦い顔をしていた。


「グレイス様は上で待たれた方が。」

「何かいるかもしれないから、一緒に行くわ。」


そう言っているうちに、地下室に着いた。

地下には部屋が数部屋あり、開けてみるとどの部屋も広めのベッドが置いてあり、誰かが泊まれる様になっていた。

その奥、一際目立つ鉄の扉があり、どうやらそこから僅な魔力が感じられる。

ドイナーが押すと鉄の扉は開いた。

しかしその瞬間、物凄い悪臭がした。


「何だ、この臭いは····。」


モランが声を絞り出す様にして呟いた。

グレイスも思わず手で鼻と口を覆う。


「死臭です。」


ドイナーは経験があるかの様に、渋い表情を見せた。


「グレイス様はここでお待ち下さい。俺が見てきます。」

「私も行くわ。僅だけど魔力を感じるの。誰か生きているのよ。」


グレイスはそう言い、渋るドイナーとモランとで中に入った。




入って直ぐ、魔法で光源を出し、明るくする。


そこは牢屋だった。

牢屋の中の人間は鎖に繋がれていたが、着ている服は、それなりに質のいいものだった。

牢屋にいる者達は、罪人ではなさそうだった。

皆、倒れているが、見る限り若い少年の様だった。


「死んでいるのか·····。」


モランはあまりの臭いに吐きそうになっていた。

グレイスは自分と2人に防護魔法をかける。

そうすると、幾分臭いが和らいだ。


「ここは何?」


グレイスが問うと、ドイナーは言い辛そうに口を開く。


「屋敷に抱えている男娼です。忌々しい事ですが、夫人だけでなく、令嬢や、伯爵も楽しんでいたのかもしれません。外部の人間にも金を取って、相手をさせていた可能性もあります。ですが、ここの多くの者達が性病を患っていた様です。おそらく、病を発症した者達がここに連れて来られていたんでしょう。見て下さい、身体の痣のようなものは、病で肉が変色しているんです。あそこまで症状が悪化すると、治癒魔法は効きません。痣が出る前まででしたら、病と分かっていても、気に入っているなら、治癒魔法をかけてまで行為を行うんですよ。そして、もう駄目だと分かったら、ゴミの様に捨てられます。ここは、おそらく魔族が出て、放置されたんですよ。屋敷の者は皆逃げた。治癒魔法でギリギリの体調を保っていたのが、放置されて悪化して、皆死んだんでしょう。」

「確か魔族が出たと言って、伯爵令息が逃げ出したのは14日も前と聞きました。水も食料もなく····残酷だ。」


ドイナーは血が滲む程、拳を握り締める。


「残酷さは魔族も人間も変わりありませんね。あんな令息、魔族に襲われても助ける価値なんてないな。」


穏やかなモランも、さすがに悪態をつく。


「見つけるわ。」


グレイスはそう言い、牢屋を見てまわる。


一番奥。

僅かに魔力を感じる。


そこには15、16歳の少年が1人、床にうつ伏せに倒れていた。

足は鎖で繋がれていた

癖のある金髪に、肌は死人の様に白い。

着ている衣服は汚れているが上質なシルク。

この少年も誰かのお気に入りだったのだろう。

グレイスは牢屋の鍵を開け中に入る。

ドイナーも共に入って来た。


「グレイス様、この者は間も無く亡くなるでしょう。たとえグレイス様が魔法で病を治せたとしても、この手足は既に腐っています。切り落とすにしても、胴体も内臓もおそらく。まともに意識を取り戻せば、逆に耐えられないほどの激痛に襲われるでしょう。····安らかな死を迎えさせた方が宜しいかと。」


ドイナーにそう言われ、改めて見ると確かに両足は変色している。

シャツのボタンを開け、身体を見ると····胸から腹部にかけて、肌が変色していた。


「ここまで·····。この子、耳が尖っているわ。」


少年の金髪から覗く耳は、先が尖っていた。


「おそらくエルフの隔世遺伝でしょう。人間とエルフの子の血が稀にこうして生まれる。見つかれば高値で取引されます。エルフの血が濃く出たからこそ、14日も飲まず食わずでギリギリ生きていられたのでしょう。」


「エルフ·····。」

「グレイス様····。」


壮絶な苦しみが待っているのかと思うと、安らかな死を迎えさせた方がいいように思う。


グレイスは手をかざし、詠唱を始める。


その時だった。


くっ


グレイスのローブが僅かに握られた。

グレイスはその場所に視線を落とす。


少年がグレイスのローブを握っていた。


!!


「ま····だ·····いき····て···る。」


(かす)かな音だった。

呼吸と共に乗せられた音。


『まだ生きている。』


そうね、まだ貴方は生きている。


その言葉に、ふとハルやタッカといった、失われた11人が思い出された。


まだ生きている。


そう思うと、グレイスの目から大粒の涙が溢れてきた。

ドイナーと牢屋の外にいるモランも、グレイスの涙に驚く。


「私は、11人の命を救えなかった。目の前で殺された仲間もいたわ。でもこの子はまだ生きている。まだ呼吸をしている。私はこの子を助けたい。」


グレイスは少年に防護の魔法をかける。

そしてゆっくり少年を抱き起こす。

少年は軽かった。

グレイスは優しく少年を抱き締めた。


「貴方を死なせはしない。」


その声が届いたのか、少年は微かに微笑んだように見えた。



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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