22 赤い目
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「それじゃあ、先ず認識阻害の魔法を解こうかね。ニケ、騎士が押し寄せて来るから、ドイナーに丁寧に出迎えるように伝えておくれ。」
「サルマ様、ドイナーに丁寧になんて無理だと思います。」
「····そうね、では『殺すな。』とだけ伝えておくれ。」
「分かりました。」
ニケはそう言うと、階下に降りていく。
認識阻害の魔法は、一定期間、顔の判別を阻害したりと、部分的に用いられるものだ。
屋敷ごとと広範囲になると、相当な魔力が必要になる。
先程からのサルマの話からして、この魔法は常に展開されているらしい。
それだけでサルマの魔導師としての実力が分かる。
「強力な魔力の持ち主が····2人いるね。1人はこの魔法に気付いているか····干渉しようとしている。ああ、そうだ、家族が今のそなたを見たら、驚くと思うから、覚悟しておきなさい。」
何を?とグレイスが聞く間も無く、サルマは魔法解除の詠唱を始める。
魔法を解除するのに詠唱を行うのは、長く染み付いた魔法陣を剥がすようなものである。
おそらくサルマは、常に身を隠しているのだろう。
グレイスもその魔法が薄れていくのを感じた。
すると、早くも遠くで馬の嘶きが聞こえた。
複数の人間がこちらに向かってきているのを感じる。
「ああ、この強い魔力の1つはあの子だね。荒ぶってるわね。さぁ、私も行って来ようかね。そなたはこのままここで待っていなさい。」
サルマはそう言って部屋を出ていく。
どのくらい経っただろうか。
やがて階下が騒がしくなる。
おそらくグレイスを探していた捜索隊がこの場所を突き止めたのだろう。
その内ドタドタと階段を上ってくる音が聞こえる。
そして、グレイスのいる部屋の扉が、荒々しく開かれた。
「グレイス!!」
懐かしいその姿に、思わず目が潤む。
「ふふ、騒がしいわ。」
グレイスは微笑みを持って迎える。
亜麻色の髪に、黄金色の瞳を持ったその人物は、グレイスの姿を確認するなり、泣きそうな表情を浮かべた。
そしてゆっくり近づき、グレイスの存在を確かめるように頬を撫でると、そのままグレイスを強く抱き締めた。
「グレイス良かった·····生きて····。」
彼の声は震えていた。
グレイスは彼を宥めるように、優しく背を撫でる。
「心配をかけたわ。探しに来てくれて有り難う、リーヴァ。」
彼の名はリーヴァ·サヴァラ·ルダリスタン。
ルダリスタン帝国の第3皇子だ。
◇
「リーヴァ、淑女の部屋に無作法な。それにいきなり抱き締めるなど。」
「大叔母上、グレイスが行方不明と聞いて生きた心地がしなかったのです。もう少しそっとしておいて欲しい。」
リーヴァはサルマに注意されても愛しげにグレイスを抱いて離さない。
グレイスは苦笑しながら、リーヴァの背を撫で続ける。
「はぁ、グレイス、心配したよ。」
サルマの横から顔を覗かせたのは、グレイスの次兄のセディン·タンドゥーラだった。
グレイスと同じ美しい銀髪は短めに整えられており、騎士に近い雰囲気だった。
「お兄様·····ご心配をお掛けしました。」
「いや、無事で何よりだった。他の者達は····残念だったな。ヴァーバルの森のあの墓はグレイスが?」
「·····はい。お兄様。ハルもタッカも·····。」
「ああ、透視魔法で確認した。このままでは済まさないから。とにかく詳しい話を聞かせてくれ。」
セディンの顔は険しかった。
「グレイス嬢は目覚めたばかりだ。でもこの部屋で話すのはちょっと狭いわね。グレイス、下の階まで歩けるかい?」
「はい、大丈夫です。」
とリーヴァが代わりに答え、グレイスを抱き抱えた。
「リーヴァ!」
「グレイスは目覚めたばかりなのでしょう?大人しく抱かれてて。」
その様子を見て、サルマとセディンがため息をつくも、リーヴァはお構いなしにグレイスを抱いたまま、階下の応接室に向かう。
屋敷はグレイスのいた部屋から分かるように、大公家とはいえ、商家の屋敷程度の広さだった。
「人がこの家にこんなに集まる事は今まで無かったから、十分なおもてなしは出来ないからね。とにかく狭いが座っておくれ。」
そうサルマに勧められ座った面々は、グレイスより改めて事の次第を聞く。
「聖女も聖騎士も堕ちたものだな。護衛と戦っていた野盗は、あれはそれなりに腕の立つ傭兵だ。神殿が雇うのは考えにくい。おそらく聖女の養父、ルクスト子爵の手によるものだろう。証拠を挙げるのは難しくはない。このまま潰してしまおうか。聖騎士も名入のピンバッジがあるから、言い逃れは出来ないだろう。ただ·····。」
セディンはここで一端言葉を切る。
セディンの話を聞きながら、サルマはグレイスをじっと見ている。
そしてリーヴァもまたグレイスをじっと見つめる。
「グレイス·····。君の身体に何が起こったの?」
リーヴァは隣に座るグレイスの手を取りながら、その瞳を見つめる。
そう言われ、グレイスはサルマに視線を向ける。
サルマは頷き、グレイスに話す事を促す。
「私が身体の中に、ダリウスが受けた竜の血の呪い
を抱えていたのは知っているでしょう?ハルやタッカ、皆を死に追いやったのが、聖騎士の手によるものだと知った時、私達は1つになったみたい。古竜の自我は私の中で生きています。古竜は私を受け入れ、そして私もその自我を受け入れたの。聖騎士達を灰にしたのはこの私。闇の魔法を使ったわ。」
「灰か·····そう。グレイスはあの古竜を受け入れたのか····。」
リーヴァはグレイスの瞳を見つめたまま、そう話す。
「だから、瞳の色が変わったんだね。」
「え?」
瞳の色?
そういえば、鏡を見ていない。
「ごめんなさい、まだ鏡で自分の顔をよく見ていなかったわ。何か変わっているの?どんな感じなの?」
「水気を帯びた潤んだような美しい色をしている。
グレイス、君の瞳は赤だよ。」
赤?
ああ、そうか。
闇の属性が使えると言うことはそういう事か。
「グレイス嬢、私は前国王の妹でありながら、この様な場所で、何故屋敷に認識阻害の魔法をかけてまで隠れ住んでいるか知っているでしょう?」
「はい、その瞳の色が古代に滅んだ、魔族の色とされているからです。そしてその瞳を持つ者は強大な魔力を有していて、且つ闇の属性を持つとされている。ですから、赤い目を持って生まれた者は魔族の血をひいており、人間を再び恐怖に陥れるかもしれないと恐れられていました。」
「そう、赤い目というだけで、魔族扱いをされる。そして忌避される。」
「しかし、赤い目は単に闇の属性を持っているからだと結論付けられたはずですが。」
「そうなんだが、それがなかなか受け入れられなくてね。私は生まれてすぐ、暫くは幽閉されていた。兄が国王となり、私は魔導師として国に尽くす事によって、今の立場を得ることが出来たわ。しかし、他の者達はそうではない。この屋敷にいる使用人達はニケを見て分かるだろう?皆赤い目を持った者達だ。同じ境遇の者達をここに集め、共に生活している。」
「赤い目を持った子供が生まれると、命を奪う親も多いんだ。大叔母上はそういった子供を見つけ、保護している。私も大叔母上と会うのは3度目だ。屋敷に認識阻害の魔法をかけているから、会いたくても会えないお人だ。唯一父である国王陛下のみ、連絡がとれると聞いている。」
「まあ、赤い目を持つという事はそういう事なんだよ。だからグレイス、そなたが赤い目を持った事で、神殿からあらぬ事を言われる可能性がある。」
「そうだな。おまけにグレイスが竜の血の呪いを受けた事が公になれば、グレイスを襲わせたとしても、それは竜の血の呪いに侵され、魔物化したグレイスを倒すためだったと言い訳されるだろうな。」
「ということは、今は安易にグレイスの生死を公にしない方がいいだろう、という事か。」
「そうなるね。だから提案なんだが、グレイスを暫くここに預かろうと思ってね。理由はグレイスの増えた魔力の操作と闇魔法を修得させようと思っている。」
「お兄様、私からもお願いします。暫く静かに過ごしたいの。私の生死は今のところは伏せて欲しいです。」
グレイスはそう言って頭を下げる。
「分かった。今はそうした方が良さそうだ。ただここにはフェアノーレ側からも捜索隊が出ていて、私達と行動を共にしていた。今も屋敷の外で待機している。フェアノーレ側に報告なしという訳にはいかない。だから国王であるアーレンにだけは伝えるとしよう。」
「はい、宜しくお願いします。」
「では決まった。さあ、リーヴァも安心してお帰り。」
「グレイスが心配だ。私も暫くここにいる。」
「駄目に決まっているだろう?リーヴァはこれからやらねばならない事がある。それに結婚式も控えているんだ。目立つ事はするな。」
「グレイスを妃に迎えたい。」
「それはもう昔諦めただろう?王族としての務めを果たせ。」
「リーヴァ、私は·····。」
「分かってる。グレイスは私を弟として見てくれている事を。でも·····諦めきれないよ。」
「さあさあ、解散だ。セディン殿、リーヴァを連れ出しておくれ。」
「承知しました。」
「リーヴァ、手紙を書くわ。」
「グレイス····。」
「闇の魔法を学び、力をつけて戻ってくるわ。だから待っていてね。。」
グレイスはそう言うと柔らかく微笑んだ。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。