21 サルマとアグリス
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
見知らぬ天井だった。
カーテンの隙間から差し込む光が、壁に光の紋様を写し出す。
ここは何処だろう。
どうして私はここにいるのだろう。
記憶がゆっくり甦る。
全てが夢ではないだろうか?
もうすぐハルが私が起きた事に気付いて、朝の支度の手伝いに来るのではないだろうか。
タッカが挨拶に来て、面白いネタを話してくれるのではないだろうか。
『グレイス様。』
『グレイス様。』
2人の声が恋しい。
散々泣いたはずなのに、再び涙が溢れてくる。
「おや、漸く目覚めたかい?」
傍で老齢の女性の声が聞こえる。
グレイスは身体を起こし、その姿を確認する。
狭い部屋の扉の前に、背の高い痩身の老女が立っていた。
白い髪を結い上げ、質素な服を身に纏っているが、どことなく高貴な雰囲気を感じる女性だった。
印象的なのはグレイスを見つめるその瞳の色。
黒が少しだけ混じった様な、落ち着いた赤い瞳だった。
赤い瞳はこの世界では珍しい。
古代、魔力の強い魔族が持つとされた瞳の色で、この世界では忌避される傾向がある。
この瞳の色をお持ちという事は····。
グレイスはベッドから降り、礼の姿勢をとろうとする。
「おやおや何をやっているんだい?寝たきりだったんだ、直ぐに起きては駄目だろう?」
よろけそうになるグレイスを支えてくれる。
「いえ、おそれ多くも、あなた様はサルマ·カルーゼ大公閣下でいらっしゃいます。礼を欠く様な事はあってはなりません。」
「あらあら、直ぐに私の事が分かるなんて、凄いわね。やっぱりこの瞳の色で分かったかしら?」
「はい。」
サルマはグレイスにベッドに座るように促す。
「まあ、ルドリスタン帝国の貴族なら周知のことかしら。それで、あなたはもしかしてグレイス·タンドゥーラ公爵令嬢?」
「はい。」
「とてつもない魔力を感じて、あの場所に行ったのよ。そうしたら、野盗の遺体と横転した馬車。馬車にはタンドゥーラ公爵家の紋章が掘ってあったわ。それにあのお墓。·····大変な目にあったわね。」
「はい。」
「詳しい話は後から聞きましょう。ほら、ニケ、ちょっと来てちょうだい。」
サルマは扉の向こうに向かって人を呼ぶ。
「はぁい、サルマ様。如何されました?」
現れたのは小柄な少女だった。
くるくるした赤毛に、目のくりっとした、そばかすのある少女だ。
そして彼女の瞳もまた赤い。
「ニケ、この子が目が覚めたの。お世話してあげてちょうだい。それと消化のいい食べ物も準備して。」
「承知しました。」
そう言ってニケは何かを取りに走る。
「ああ、走るなと言っているのにあの子は····。」
サルマはそう言うが、あまり礼儀を気にしないようだ。
その後、ニケは身体を拭けるよう、湯の入った桶とタオルを持ってきてくれた。
「有り難う。こちらにはあまり使用人がいないのでしょう?後は自分でするから、あなたはサルマ様のお手伝いをしてちょうだい。」
グレイスがそう言って微笑むと、少女は目をパチクリと大きく開いてグレイスを見つめた。
そして頬を染め、そそくさと部屋を後にした。
グレイスは身体を清める。
倒れた時はもっと汚れていたはずだ。
それなのに髪も身体も不快感はあまりない。
寝ている間も何度か清めてくれていたのだろう。
グレイスは感謝した。
質素なワンピースが1着用意されていたので、それに着替える。
まだ少しふらつきがあるので、ベッドに座り、ニケが戻るのを待った。
暫くすると、ニケが粥を持って部屋に入ってきた。
グレイスはお礼を言って、ゆっくり食事した。
その間も亡くなった者達を思い出し涙した。
ニケはその様子を黙ってじっと見ていた。
食事が終わると、サルマが再び部屋を訪ねてきた。
「食事は食べれたようだね。」
「はい、有り難うございます。」
「まだ、気持ちが落ち着いていないのは分かるが、そなたがいなくなり、心配している者も多いだろう。事情を聞いてから連絡しようと思ってね。さて、何があったかな?」
グレイスは、ルダリスタンの屋敷に向かう途中起こったことをサルマに話した。そしてこの襲撃を主導したのが聖女や聖騎士だった事。
グレイスの身体の中に竜の血の呪いがあり、何かが作用して、闇魔法を発動した事を包み隠さず話した。
「聖女の噂は聞いている。そなたが勇者と離婚した事もね。そうか、聖女や聖騎士は悪に手を染めたか。」
そう言うとサルマは何やらポケットから取り出しグレイスに見せた。
「聖騎士の服に付いていたピンバッジだ。これは聖騎士の証であり、名が刻まれている。そなたを襲った証拠になるだろう。」
グレイスが受け取ると、確かにそれらには名が刻まれていた。
「ではそなたが生きている事を、タンドゥーラ家に知らせても問題ないね。」
「はい。」
「この屋敷は、外部から隠す為に、認識阻害の魔法がかけられている。随分前から、そなたを探す捜索隊が周りを彷徨いていてね。どうしたものかと考えていた所だよ。強力な魔力も感じるから、そのうち無理やりでも、この魔法は破られたかもしれないね。」
「すみません、お気遣い下さり有り難うございます。」
「ふむ。それで発動した闇魔法の件だが、話を聞く限り、竜の血の魔力に、竜の自我が残っていたようだね。声はまだ聞こえるかい?」
「分かりませんが、集中してみます。」
グレイスはそう言うと、目を瞑り、意識を集中させる。
身体の中に、グレイス以外の何かを感じる。
【·····何だ?】
『あの時は有り難う。』
【ふっ、はははははは、我に礼を言うか娘よ!】
『あの時は本当にあの者達が憎くて、倒したかったの。あなたが力を貸してくれたから倒せたわ。有り難う。』
【面白いな、お前は。】
『私達はどうなったの?あなたの魔力と私の魔力が紐を編むように絡み合っている?いえ、これは融け合ってるの?』
【分かるか?そうだ、我等の魔力は1つになった。】
『お互いに自我を持っているのはどうして?』
【さあ、力が拮抗しているからだろうな。それにそなたが弱ったからといって、我はそなたの自我を奪おうとは思わないからだろう。】
『何故?』
【心地好いのだ。そなたの魔力が。そなたに自我があるからこそ魔力に流れが出来る。】
『変わっているのね。あなたを倒した男の妻だった女なのに?』
【油断したが、負けたものは仕方がない。寧ろこの血をそなたが引き取ってくれて感謝しているぞ。肉体は失って、その内消えるばかりだった我が、今こうしてそなたの中で快適に生き生きしている。】
『·····私の名はグレイス。あなたの名は?』
【ふはははは!名を聞くか?いいだろう、我の事はアグリスと呼べ。】
『アグリス·····。』
【我の魔力は強力だ。そしてグレイス、そなたの魔力も然り。融け合った我等は最強だ。闇の魔法を知るがいい。そなたは神にもなれるだろう。】
『沢山の大切な人達を失ったわ。私は静かに過ごしたい。』
【寂しいか?これから先はずっと我がいる。普段は眠っているが、何時でも呼び出せば良い。そなたが1人になることはないだろう。】
『っっ。不思議ね、あなたは災悪と呼ばれた存在なのに、今の私には暖かい·····。』
【····そなたのそういう所はいいな。グレイス、そなたの気持ちの赴くままに····。】
グレイスは目を開ける。
目の前のサルマは驚いている。
「驚いたねぇ。今まで禍々しく感じていた竜の血の魔力が、そなたに寄り添っているように見える。」
「声が聞こえました。名を交換しました。意外といい竜でした。」
「は?何と·····これは····まあ、いいだろう。そうか、融け合ったか····。これからそなたは学ばねばならない。私が直接教えよう。そして最強の闇の魔導師にしてやろう。」
そう言ってサルマは笑みを見せた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




