20 王都への知らせ
不定期投稿です。宜しくお願いします。
誤字報告有り難うございます。
「グレイスが行方不明?」
グレイスが王都を去り、ルダリスタン帝国へ向かったと聞いてから20日あまり、アーレンの元へ報告が入る。
王宮に報告に上がったのは、グレイスの長兄ルダン·タンドゥーラだった。
ルダンは父親の公爵と交代する形で、フェアノーレ王国に来ていた。
グレイスと同じクセのない銀髪に水気を帯びた様な美しい水色の瞳を持った美丈夫だ。
彼が王宮を訪ねるのは珍しい。
「グレイスはヴァーバルの森で消息を絶った様だ。グレイスが行く予定だったルダリスタンの屋敷から、グレイス達が到着の予定日になっても来ないと連絡があり、ルダリスタン帝国の本邸から捜索に向かった。するとヴァーバルの森で戦闘の跡が見つかった。」
「戦闘だと?誰に襲われた?」
「捜索隊が見つけた時は、腐敗し始めた野盗らしき者達の遺体が20体ほど。我々タンドゥーラの護衛騎士の遺体はなかった。」
「野盗か····護衛騎士がついている貴族に襲撃を試みるなど、普通は報復を怖れてしないものだが。護衛騎士達の遺体がないのなら、グレイスは守られているのではないか?」
「いえ、それが離れた場所に横転した馬車が。当家の紋章が入った馬車だ。間違いない。馬は馬車が倒れた衝撃で逃げて行ったのだろう。しかしそこにも御者やグレイス達の姿はなかった。」
「襲われたにしても、無事逃げて隠れていてくれたら良いが。」
「そして、馬車が横転した場所から森の奥へ入って行った跡があり、そこに入って行くと····見つけた。」
「何があった?」
「ルダリスタンへ向かったのは、グレイスを含めて12名。あったのは、遺体を埋めたと思われる盛り土が11基。」
「何?墓なのは確かなのか?それに11人とは?墓の中は確認出来たのか?」
「透視の魔法が使える魔導師に確認させた。騎士が8名、御者か1名。そしてグレイス専属の従者2人。」
「専属の従者とは、まさか····。」
「アーレンは知っているだろうか?グレイスが子供の頃から共にいる、孤児院出身のハルという名の侍女とタッカという護衛の事を。」
「あの2人が·····。グレイスは?」
「墓には埋まっていなかった。生きている可能性はある。更にその墓の近くに黒く焦げた魔法陣があった。」
「焦げた魔法陣?」
「おそらく闇の属性の魔法だろう。グレイスは本来使えない。だが、もしかしたら····。」
「まさか、竜の血の呪いか?」
「ああ、可能性としては無くはない。あれだけ強力な呪いだったんだ。幾らか竜の自我が残されていたとしても不思議ではない。それがグレイスの魂と融合し、闇の魔法を発動させた····可能性の話だが。」
「目の前で、ハルとタッカが殺されたんだ。それを考えるだけで、グレイスがどんな精神状態になったか想像出来る。問題はグレイスが生き残っていたとして、今のグレイスの自我がどうなっているかだ。」
「それは大丈夫だろう。自我が乗っ取られたり、崩壊したのなら、亡くなった者達の為に、遺体を運んで埋葬したりしないだろう。」
「·····グレイスらしいな。」
「今日、わざわざ王宮に来たのは、その事を報告する為ではあるが、もう1つ、アーレン、お前に動いてもらわなければならない事がある。」
「何だ?」
「報告では、その黒い魔法陣の上に脱ぎ捨てられた聖騎士服が2着あったそうだ。」
「聖騎士の?どういう事だ?」
「魔法陣で闇の魔法を発動させたのは、その聖騎士を倒すため。おそらく聖騎士は、魔法でその肉体のみ滅せられたのだろう。それが証拠に1人は戦闘で腕を先に切り落とされていたのだろう。袖だけが離れた所にあった。」
「聖騎士が何故襲う?まさか聖女が手を下したのか?グレイスをダリウスと離婚させ、国外に追いやるまでしたのに、更に命まで狙うと?」
「グレイスの存在自体がダリウスの心残りの要因と考えているのだろう。浅ましいがな。」
「聖騎士の服なら、聖騎士の証であるピンバッジがついているはずだ。それはあったのか?」
「それなんだが、外されていたよ。」
「どういう事だ?聖騎士の偽物だったのか?それとも誰か外したのか?」
「おそらく外したのだろう。ピンバッジの跡はあったそうだから。」
「グレイスは見つけられそうか?」
「ああ。隠れているか、隠されているか。いづれにしても、グレイスが生きているなら何らかの連絡が入るだろう。私達に心配させたままにするような人間じゃない。こちらも魔力の残滓を追っている。そう時間はかからないだろう。」
「で?私に何をさせたい?」
「許可を。若しくは放置を。今まで静観していたが、こうも手を出されるとね。このダンドゥーラ公爵家に喧嘩を売っているらしい。先ず、ルクスト子爵家、神殿、聖女、そして····ダリウス。制裁を受けてもらう。」
◇◇◇
「フィーネどうした?」
ここ数日、フィーネの様子がおかしい。
喜怒哀楽は元々激しい方だが、今は何かに怯えている。
「誰かに何か言われたのか?」
グレイスと離婚が成立した後、催された夜会に参加しても、誰もフィーネに声をかける者はいなくなった。
フィーネは、グレイスが他の貴族達に何か言い含めているのだろうと怒っていたが、そうではない。
離婚するきっかけとなった夜会での話が広まっている事と、聖女に目をつけられたら、自分の夫や婚約者が奪われると言う噂が出回っているからだ。
実際、俺を見ればそう思うだろう。
しかし、それで機嫌が悪くなるのは分かるが、何故怯えている?
膝をつき、フィーネに目線を合わせる様にして問いかけても、何も言わない。
そういえば、ここ暫く、フィーネの幼馴染みの聖騎士2人の姿が見えない。
所用で出掛けていると言っていたが、フィーネにベッタリのあの2人が、フィーネを他の者に任せ、こんなに長い間傍を離れるなど考えられない。
フィーネが怯えている事と、何か関係がありそうだ。
調べねば。
そう思いながら、フィーネを伴い、王城内の騎士団に向かう。
1週間に1度だが、俺と同じように、戦いで手足を失った者に魔法を使う為だ。
フィーネの使う魔法は詠唱を行わない。
というより、魔法の勉強をしていない。
それでも魔法が使えるのは、その能力自体が神からのギフト。
いわゆる神力だ。
祈るだけで、魔法が発動する。
フィーネは治療魔法の最高峰である、再生の能力を持ってはいるが、実は魔力量はそれほど多くない。
ゆえにこの魔法を使えるのは、早くて1週間に1度だけである。
思う様に治療魔法が進まないことに対して、不満を漏らす声が多くなっている。
王城に入ると、その日はどこか騒がしかった。
何処に行くのだろうか。
旅支度をした騎士の小隊が編成されていた。
するとそこに、神官長が突然現れた。
「神官長、どうしてこちらへ?」
そう聞くと、神官長は緊張した面持ちで俺についてきて欲しいと言ってきた。
「どちらに行くのです?」
「陛下に呼ばれた。公爵も共に参ろう。」
「陛下に?」
2人して向かうという事は、聖女絡みで何かあったからだ。
離れるのを嫌がるフィーネを宥め、俺は神官長と共に謁見室へ向かった。
謁見室へ向かう途中、遠くで光が目に入る。
その先には、美しい銀髪の青年が歩いていた。
あれはグレイスの兄のルダン·タンドゥーラだ。
ルダンはこちらに気付いたが、一瞥しただけで去って行った。
◇
「今、何と申されました?タンドゥーラ公爵令嬢が襲撃され、その後行方不明になった?」
どういう事だ?
何故グレイスが襲撃され行方不明になる?
「それで、何故私達が呼ばれるのでしょう?」
神官長は、若干怯えた様子で話す。
「何だ?タンドゥーラ公爵令嬢が行方不明なのに、心配の言葉も無しか?」
陛下は機嫌が悪い。
ということは、そういう事か。
我々が、聖女が疑われている。
「申し訳ございません。配慮を欠いておりました。ですが、タンドゥーラ公爵家は、フェアノーレ王国とルダリスタン帝国それぞれに領土と爵位を持った大貴族です。令嬢を人質に捕ろうとする国も多いでしょう。我等神殿の人間に出来ることはあまり多く無いかと。」
「ああ、捜索については我が騎士団と、タンドゥーラ公爵家の私団が行う。君らを呼んだのは他でもない。タンドゥーラ公爵令嬢を襲わせたのは君らかどうかという事だ。」
「何を仰いますか?タンドゥーラ公爵令嬢が聖女に恨みを持つなら分かりますが、我々が襲わせる必要はございません!」
神官長は声を荒らげる。
「はい。こちらが手出しする事は無いと思いますが。」
俺も神官長に同意する。
恨まれ、何かされるなら、俺達の方にだろう。
「では聞くが、何故タンドゥーラ公爵令嬢が襲われた現場に聖騎士がいた痕跡が残っているのか?」
「聖騎士がいた痕跡?」
なんだそれは?
「痕跡と言いますと?」
「ああ、はっきり言うが、聖騎士の遺体だ。魔法で灰にされていたらしいがな。」
「灰に?!」
何という事だ!
だが魔法は誰が?
グレイスか?
彼女は大きい魔法は使えないのではなかったか?
おれの表情から疑問を読み取ったのだろう。
陛下は言葉を続ける。
「タンドゥーラ公爵令嬢に同行していた者達が皆殺されていた。おそらくタンドゥーラ公爵令嬢がその衝撃で、強力な魔法を使用した可能性が高い。そうでないなら誰かが助けたか。」
「殺された同行した者とは?」
嫌な予感がする。
「ダリウスは知っているか?タンドゥーラ公爵令嬢と特に繋がりの深い者達だ。ハルという名の侍女やタッカという護衛だ。」
「なっ?!ハルとタッカですか?」
嘘だろう?
あの2人が死んだ?
グレイスに何より忠実な?
グレイス······2人が殺されて、それで魔法を?
「聖騎士が偶然居合わせて、タンドゥーラの騎士達と共に賊と戦ったのでは?魔法は賊側がしたのでは?」
「それは誰だ?何故あの場所にいる?」
ふと最近見ていないフィーネの幼馴染みのあの2人が頭に浮かぶ。
まさか、彼等なのか?
「誰が、どのような任務でルダリスタン帝国に行っていた?」
「聖騎士服はその証として名入のピンバッジをしています。それを確認すれば誰か分かります。」
俺はそう答える。
「ピンバッジは奪われていた。おそらく証拠として確保する為にグレイスが持ち去った可能性がある。ただ1つ教えると、タンドゥーラ公爵家の者達は何故か埋葬されていた。その点、襲撃した賊や聖騎士の遺体はそのまま放置されていた。それだけでも、聖騎士がどちら側についていたか分かるがな。」
埋葬したのは、おそらくグレイス。
だが何処に消えた?
「陛下、私も捜索に加わらせて下さい。」
「駄目だ。残念だが、お前は容疑者側だ。王都より出ることは許さない。」
なっ?!
俺も容疑者だと?
「私は!」
「何だ?お前は今や聖女と行動を共にする、聖騎士と何ら変わりがないじゃないか?何かしたいというなら、行方が分からなくなっている聖騎士がいないか、神官長と共に確認しろ。」
おそらく間違いない。
フィーネが怯えているのは、おそらくこの件にあの2人が関わっているという事だ。
早急に確認せねば。
しかし、もしグレイスを襲わせたのがフィーネだったら?
俺はあのフィーネをどうするだろうか?
これも俺のせいなのか?
俺はグレイスの為に何も出来ないのか?
ダリウスの握る拳には、血が滲んでいた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、本編完結済の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




