30_来客
結局、リタはめっちゃ強くて、ムキになって闘って俺がまた暴走したら話にならん、ってことになりディアによって無理矢理戦闘が中断されることとなった。
それにしても凄まじいな。ベアトリーチェの作った模倣武装。使い手の魔力というか魂に呼応して、最適化された武装と化し、使い手をサポートしつつ戦う武器。俺の武器ほど複雑かつ高度ではないものの、むしろ騎士団の兵装にするにはシンプルで良い。
もう何本かあるけど、まずジェミニアあたりに渡してみるか?まぁあいつもすぐに使いこなすだろうし強くなるだろうなぁ多分。まぁエックハルト団長はきっと必要ないだろう。そういう範疇にいる人ではないし。
さて、と。
今日はディアが晩飯作ってくれる番だったか?下の階から料理をしているような音が聞こえる。ディアの料理は素晴らしい。短時間でも凝った料理を作ってくれる。
と、俺の部屋の扉をコンコン、と叩く音がした。誰だ?
「はーい、どうぞ」
俺がそう答えると、入ってきたのはリタだった。
「先輩、お邪魔しまーす」
「ああ、どうぞお掛けください」
とりあえず俺はベッドから起き上がると、リタを椅子に座るように促した。
「どうした?」
「い、いや特に何もないんですけどね。しばらく会えてなかったからつい」
「どういうことだ?」
「いや、どういうこととかないです。そのままの意味です」
……?
「まさか、もしかして俺がいなくて寂しかった、的な?」
「う、うん。言い方を変えればそういうことになりますね」
ほう?なかなか可愛いことを言ってくれるじゃないか。
「ねえ、先輩。ベアトリーチェさんと久しぶりに会ってどうだった?どういう人でどういう会話をして、帰ってきたの?」
何かリタはソワソワしているかのように見えた。
「え?いやーなんというか、以前会った時からかなり変わってたな。けっこう経つから当たり前だけど。でも不思議なんだよな。しばらく一緒にいると昔の顔がお互いに表に出てくるんだよ」
俺は鎖鎌を持って狂気の笑いを発していたベアトリーチェを思い出してそう言った。
「へ、へえ?そうなんだ」
「まぁ要するに何が言いたいかっていうと、だ。人間変わったように見えて、変わってないよなぁ、ってことだよ」
「う、うん。何となく言いたいことは分かるよ。もうちょっと細かい話も聞きたいけどね」
ん?なんで?まぁいいけど。
「うーん。まぁなんというかベアトリーチェはまぁ当時から美少女だったけど、なんか大人っぽくなってさらに美人になってたよ。そんで、成り行きでお洒落な感じの店に飲みに行ったりとかしたけど、そのときのお洒落したときの美しさときたらまぁビックリするくらいだったな。あのじゃじゃ馬ベアトリーチェが、こうも変わるか、と」
「え!?そ、そうなの!?そんなとこに行ったの?エイス先輩が?」
どういうイメージなんだ……。
「ああ。まぁ色々と話しつつ、そのあと例の騎士団用の模倣武装を作ったりしつつ、って感じだな」
「ふーん」
「で、その後帰る前に鎖鎌を持ったベアトリーチェに襲われて、鉄球を投げられたり、鎖で首を絞められたりしたんだよ。まぁ、そのときは人って変わらないなぁって、思った、って話だ」
「……ごめんなさい。全然話が見えないです」
リタは俯きながらそう言った。ん?そうなのか?
・・・・・・
「変なこと聞きますよ?」
リタは改まってそう言った。
「ん?なに?」
「エイス先輩はきっとベアトリーチェさんが好きだったんですよね?」
俺はそれを聞いて、少し動揺した。
いや、確かに俺は若い頃、ベアトリーチェに憧れていた。だが、なぜリタがそれを聞く?
「アレか?ジェミニアが言ってたのか?」
「うん」
ちっ、やっぱりか。あいつめ。
「エイス先輩は久しぶりに会って、お洒落な感じの店に飲みに行ったのに、伝えなかったの?」
「いや、まぁ、そういうふうに思ってなかったと言ったら嘘になるけど、正直それどころじゃなかったし、今それを伝えるのは野暮な話だし」
「ふーん、そうなんだ」
そう言うとリタはまた俯いた。なんだってんだ?
「ねぇ、エイス先輩?」
「はい」
俺は謎の空気に呑まれ、受け答えがおかしくなるのを感じた。
「エイス先輩は前、ボクを特別だって言ってくれましたよね?」
「言いましたね」
「特別ってどういう意味で言ったんですか?」
「普通一般のものとは別扱いにするのがよいということです」
「特別、という言葉の一般的な意味じゃなくて、エイス先輩がどういう思いを込めて言ったか、ということです」
リタの視線が強い。怖さすら感じる。
「うーん。難しいですね」
「難しいんですか?」
「いや、難しくはないんですが」
「じゃあ言ってください」
「──俺はリタのことを、とても大切に思っているんだと思います」
そう言うと、リタは一瞬ハッとした顔になった。そしてその後、顔を赤くして虚空を見つめている。
「リタ?」
「い、いえ。駄目ですね。この段階で惚けていては前と変わりません。特別って言う言葉と殆ど同じことですものね。この先に進む必要があるんです。そうしなければPDCAサイクルが回っていないのと同義ですから」
……などと話しており。
「リタ、どうした?」
「エイス先輩の中でボクは女の子ですか?」
「え?当たり前じゃん。典型的なボクっ娘でしょうよ」
「じゃあ、エイス先輩のなかで、ボクはとても大切な存在かつ女の子ということですね?」
「そういうことになる」
「とても大切な女の子って何だと思います?」
と、ここへ来てエックハルト団長とジェミニアの顔が思い浮かんだ。茨の道を歩むことになる、罪を重ねるな。そういうようなことを言っていた気がする。
俺は少しずつその意味を把握してきているような気がした。
あれ?もしかして、これは……そういうことなのか?
「──もしかして、リタは……俺のことが、そ、その、好き、だったり……するのか?」
そういうとまたリタの顔が赤くなった気がした。そして、強かった目つきがどこか上目遣いの、何かを求めるような、媚びたようなものに変わる。
「──答えたいんですけど、今質問しているのはボクです」
え?ちょっと待って?どうしてこうなった?なんだこれ?何か心臓を掴まれて炎魔法で遠火で炙られているような気分だ。ちょっと待て?
・・・・・・
カラーン
玄関の来客が来たことを知らせる鐘の音が鳴った。俺たちの間に流れていた謎の空気が、霧散し、お互いにハッと我に帰ったようになる。
ふう。ちょっと落ち着こう。
「……リタ。この話はどこかで必ず俺から続きを切り出すよ。ちゃんと考えた上でな。それでいいか?」
「……うん」
そういうやり取りの後、俺たちは下の階に降りた。
◇
ディアは料理中だったし来客への対応はしないことになっている。俺は玄関の扉を開けた。
扉の外に居たのは扉の高さを上回る大男だった。
動きやすそうな道着のような服装を着て、ポケットに手を突っ込んで無造作に立っている。
緑がかった鱗状の肌、岩石のような筋肉、そして不敵だが人を惹きつけるような笑み。
「……サラマンダー、か?」
俺はその名を呟くことしかできなかった。
「おう」
サラマンダーは、シンプルに答える。
「何の用だ?」
「話がしたい。後、飯でも食わせてくれたらより最高だな」
サラマンダーは、先日、殺し合った相手にそう言うと無邪気な笑みを浮かべるのだった。
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