31_会食
俺は、飯を食いたいというサラマンダーに同意して、食卓にサラマンダーと二人で向き合った。
まぁ、なんだろう。どう考えても不用心だしリスクしかない行為だが、今このタイミングにおける、こいつなら大丈夫だろ、とそのときの俺は思っていたのだ。お互いを全力を以って殺し合ったから何となくその辺がわかるのだ。
「うまいな、これ」
サラマンダーは、提供された大きな魚の包み焼きを豪快に頬張りながら、そう言った。その食い方は、食事というよりは、格闘家が自分の身体をデカくするための食い方のように見えた。
「味わって食えよ。結構な高級魚をウチのモンが香草で包み焼いた素晴らしい料理なんだから」
「うむ」
サラマンダーはたぶん聞いていなかったが、俺は旨そうなのは分かったので、その話はそれ以上続かなかった。
サラマンダーはひとしきり飯を食い続けた。おいおい、なんて量を食うんだよ?他人の、というか敵陣営の家だぞ?
このあたりで俺はサラマンダーに飯を食わせたことを後悔し始めていた。
こいつは目的があって来たのだろう。しかし、食事を始めたら食に没頭するタイプのようで、会話をする雰囲気に全くならない。失敗した。
サラマンダーの食事が終わったのは、それから10分後だった。
「ごちそうさま。旨かったよ」
「いや、食い過ぎだっての。食材が無くなっただろうが」
「ん?ああ、そうか?すまん」
素っ頓狂な感じで言ったサラマンダーに俺はため息をつかざるを得なかった。
「で、なんか用?」
「ん?ああ。そうだ。お前に知らせておこうと思ったんだよ。ウチのボスがお前を招待したいって言ってたぞ?」
「……あ?」
俺は、ざわ、と自分の細胞の色が変わったのを感じた。
「何でだ?」
俺は努めて冷静を装い、サラマンダーに尋ねる。
「知らん。だが多分、お前を仲間にしたいんじゃないか?」
「俺を?」
「ああ。お前は『こちら側』の人間だから、と言っていたぞ?」
……やかましいんだよ。勝手に決めるんじゃねえ。
俺はよく分からなくなってきていた。
黒の真言のボスはアルデハイム先生だ。言ってしまえば黒竜と混ざり合って闇堕ちした先生、ってとこだろう。その先生が俺を呼ぶ意図がわからん。
「てめえらのボスって、『人間』って名前なんだっけか?」
俺は敢えて言ってみた。
「へえ、よく知ってるな。本当に見た目は普通の人間っぽい人だぞ。まぁ強さとか能力は化け物だけどな」
「そんなにか?」
「ああ。世界屈指だろうよ」
ふむ。
「これは雑談だけど、お前が思う世界最強って誰な訳?」
俺は、サラマンダーに試しにきいたみた。そうするとサラマンダーの顔を無邪気さが覆う。まぁこういう話が好きなんだろう。
「まぁ、将来的には俺だろうよ」
サラマンダーはストレートに俺が求めていない答えを返して来た。
「……そうかも知らんけど、俺は今の話を聞いてるんだよ」
「さあな?過去、確実におまえらのボスが世界最強だった時代はあると思うぜ?今はわからんけどな」
「知ってるよ」
もちろんそうだ。エックハルト団長が頭二つほど飛び抜けて世界最強であった時代は確実に存在する。
「知らんけど、お前らのボスもいまは結構衰えたんだろ?ウチのボスも同じ世代だけど、何故か力は全盛期以上らしいし、竜王ゼロとかいう謎の化け物もいるらしいし、世界に名を知られていない強い奴なんて腐るほどいるだろうし、今はよく分からんだろ?」
ふむ、コイツにしてはまともな答えだ。
まぁやはり、この話題が好きなのと、あまり何も考えていないからか、情報をくれたけど。
やはりベアトリーチェの言う通り、こいつらのボスはアルデハイム先生なんだろう。全盛期以上の力とエックハルト団長と同じ世代、というところがベアトリーチェの話と噛み合っている。
俺は少し考えた。やはり奴らのボス、アルデハイム先生と会ってみるべきではないか?
「……わかった。お前らのボスに伝えといて?会って話してもいいぜ、とな」
「へえ?そうなの?意外だな、お前は断ると思ってたぜ?」
本当にサラマンダーは意外そうであった。
「仲間にはならんがな」
「そうだな。俺もお前とは、いつでも闘える関係だとありがたいよ」
そう言うと、サラマンダーは、邪気のない顔で笑った。
「でも、今日は気分じゃない、だろ?」
「くくく、お見通しということかよ」
「旨かったよ。ご馳走様」
サラマンダーはそう言うと無造作に立ち上がり、出口に向かった。
「ああ」
俺は、食卓についたまま、その姿を見送る。そうすると出口のところでサラマンダーはピタッと立ち止まった。
「ああ、そうだ。言い忘れてたわ」
「なんだ?」
「俺の上司が、何やら計画してるぜ?気をつけとけよ?」
「あ?上司だと?あの山羊野郎か?計画?」
「ああ。飯の礼にもうちょっとだけ喋ってやるよ。お前の大事なモノが壊されないように気をつけろよ?」
「……大事なモノだと?」
「ああ。後ついでに一つ。お前のボスに伝えといてくれ。そういう組織の思惑はよくわからんけど、純粋に闘いたい、サラマンダーっていう男が、黒の真言にいるってな」
「……そっちは機会があったらな」
俺がそう言うとサラマンダーは、例の笑顔で、去ってゆくのだった。
◇
「と、いうことになりまして……」
俺はエックハルト団長に報告した。
「……ふむ。その話、ストレートに受け取るなら、この騎士団が「黒の真言」に襲撃される、ということかと思うが」
「ええ、俺もそう解釈しました」
俺がそう言うと、エックハルト団長は、ふう、とため息をつき背もたれにもたれかかった。
「その敵組織の者が言ってきた、と言うのが何ともよく分からんところだな」
「まぁ、奴はその組織の中でも変わってる奴ですからね。先日、俺が闘った奴ですが、戦闘そのものを楽しむことのみを目的にしているところがあります」
「ふむ」
「そして、これは余談ですが、エックハルト団長と闘いたい、とも申しておりました」
俺は言うべきか迷ったものの、結局言ってしまった。
「ふむ……。そういう風に言ってくる者も居なくなって久しいがな」
エックハルト団長は極めて中立的にそう言った。
「エイスは儂と闘いたいと思ったことはあるか?」
「ありませんね」
「ま、それが普通か」
そう言ったエックハルト団長は少し、寂しそうにも見えた。まぁエックハルト団長は若い頃、サラマンダー的な強さへの求道者だったらしいからな。
「で、騎士団と顧問契約を結んだエイス=インザフォールとしてはどう思う?確か前の話では、武装を強化して、敵対勢力に備えるべき、という話だったと思うが?」
けっ、この爺さんめ。
……顧問契約とか言いつつ、便利づかいされてる気がしてならんが、ここはアドバイザーとしてソリューションを提示しなきゃならん。
「その報告もしなきゃならんのですが、ベアトリーチェの作った武装を試しにリタに与えてみたところ、とんでもなく強くなりましてね。まぁ奴だから、というところは計算に入れなきゃなりませんが」
「ほう」
団長は目を輝かせた。
「と、言うことで俺からの提案としては、この武装の生産を早める、ということと既にある武装、騎士団用魔力剣を優秀な隊長クラスに渡した上で、備えるべき、と言ったところでしょうか」
「……ほう。その剣は何本あるのだ?」
「リタに渡した分を除くと四本ですね」
「人選は?」
「メルーファとジークとジェミニアは確定ですかね?」
「よし、じゃあお前に任せる」
……あーあ、でちゃったよ。お前に任せる。
「適切な人選を行なった上で、早期に戦力とせよ、という解釈でよろしいですか?」
「ああ。任せる代わりに、お前はこの件に関して、団長代行として権限を持って推進してくれ」
「うーん」
「……ダメ?」
何がダメ?だ。筋骨隆々の爺さんが言ったら意味が変わるんだってば。
「わかりました。やりますよ」
冒険者になったんで騎士団所属じゃないんですけど!!と喉元まで言葉が出かかったが、この憎めないお茶目な爺さんの頼みを断る術を俺は知らなかった。
10万字突破!!やったぜ!
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