29_風
「本当に狼みたいな姿になってるけど?」
ベアトリーチェは唇から流れる血を拭いながらそう言った。
俺はその指摘を受けてハッとした。またか。俺はまた魔に吞まれるのか?
瞬間、ディアの泣き顔と叫ぶ声が脳裏をよぎる。
一瞬、俺の思考が停止した。
そして、ベアトリーチェは何か別の魔道具だか武器だかを召喚した。
武装召喚。
武神の技だな、あれは。
出てきたのは禍々しい槍と剣の中間のような武器であった。
「ちょっと、痛いけど止まってて。我慢してね。エイス。」
あれ?ベアトリーチェが狂気バージョンじゃなくなっている?
ベアトリーチェは俺の目前まで一瞬で移動していた。
そして俺の胸からさっきの槍が生えている。
あれ?俺は吐血した。
意識が薄れてゆく。
あれ?あの黒い魔獣がいる。でも、今度は話しかけてこないぞ?
というか、あれは誰だ?
黒い魔獣と誰かが話をしている。
そして、その誰かは黒い魔獣に対して、何か魔法を使った。
黒い魔獣は結界のような球体の場の中に、封じられた。
◇
そして、俺は目を覚ました。
ベアトリーチェの家だ。
「目が覚めた?」
ベアトリーチェが、仕事をしていて人化したディアが朝ごはんを作っている。ん?どういうことだ?胸の傷は……ない。
「目が覚めた……けど状況がわからん。ベアトリーチェと戦って刺されて。ディアとベアトリーチェが一緒にいるのも今までなかった気がするし……」
そういえば今回の戦闘中はディアは終始黙っていた気がするな。
「エイス様、あれから2日経ちました。まあ……エイス様の知らないところで私はベアトリーチェさんに色々相談していたのです」
相談?なんで?てか、知らないところでやらいでもええんじゃなかろうか。
「ま、エイスよ。この娘からの相談って言うのは、君の魔の力が暴走し始めていることについてだったよ。見てみなきゃわからん、ってので少しだけ本気で戦ったけど、まあ、結構危ない状況だったな。いつ「魔」に主導権をとられてもおかしくない状況だったよ」
うーん、ま、そうだろうな。てかそういうことかい。俺の「魔」を引き出すために、ああやって闘いで俺を追い込んだと。
「で、なんで槍で刺されたんだ?」
「ありゃあ、魔道具に近いものだ。封印の魔法を帯びた槍だな。一応これで、君も魔の力をコントロールしやすくなったと思う。まあ、完全なものではないから気を付けてはもらわないといけないけど。」
「ああ、わかったよ。ありがとう。何から何まで」
ベアトリーチェは、あらゆる点で手を尽くして、良くしてくれたっていうことだな結局。……まあ戦ってるときは怖かったけど。どっちかと言うと俺にとってベアトリーチェというのは、あのイメージだ。
「ベアトリーチェ、変わったな?」
「え?何が?」
「俺にとってベアトリーチェは狂気に任せて戦ってるイメージだったから。なんというか優しくなったし、理性的になった」
「君に対しては、ずっと優しかったと思うけどね?」
「え?そうか?俺はいいように使われていたイメージだったんだが」
「……そうだっけ?」
「そうだな」
「ま、あたしも若かったからね」
……
「俺も若かったのかもしれない」
「? どういう意味?」
「いや、よくわからん。なんかそんな気がしただけだ」
そんな会話をした。
◇
と、いうことで俺は傷を治した後、自分の家に帰った。
ベアトリーチェと久しぶりに会えて、いろいろと助けてもらえたのはよかった。いろいろあっちも忙しそうだったし、迷惑だと思ってたけど、思い切って会ってみるものだな。
そういう意味でもそうだし、どこか俺の感情としてもよかった。本当に。あの狂犬みたいなベアトリーチェが自立した優しい女性となっていて、驚いたものだけど、人は変わるものだな。それに以前から美少女だったけど、さらに綺麗になってたし。飲みに行ったときのオシャレした姿は結構マジでときめいたものだ。
『なんでその意味を深く考えないんですかねえ?』
ディアが何か言っているが、まあいいや。
早速試してみるか。騎士団用魔力剣。
「ただいま、リタ」
「おかえりなさい!先輩、何かちょっと久しぶりだね!」
「おう。でも色々と収穫はあったぞ。ちょっとこの剣使って魔力を通してくれない?」
「え?いきなりだね。わかった」
俺はその騎士団用魔力剣のうちの一振りをリタに渡した。見た目は普通のブロードソードだが……どうなるだろう?
リタが魔力を解放している。リタの前髪がザワザワと揺れている。リタは風属性が得意だから、周囲に少し風が起こっているのだ。
そして、一気に風が起こる。
リタが光に包まれた。
「え?なにこれ?剣の形が変わってる?」
「リタさんの服装も変わっていますね」
ディアがそう指摘した。
そう。変わった。
いつの間にか緑色のローブのようなものを着ている。剣の形はどこか羽のようである。あとは、ブーツ風の靴を履いているのが違いかな?
「どんな感じ?」
俺はリタに抽象的に聞いてみた。
「うーんと、何か不思議だね。剣と意思疎通をしているような感覚になるし、何も魔法を唱えたりしてなくても自然と、力が引き出されている感じっていうか。うん」
なるほど。わかるようなわからんような。
「よし、俺と戦ってみようか?」
「ええええ!!?」
◇
「じゃあ先輩、いきますよ?」
リタは、ピンと張り詰めた構えをとる。
いつも天真爛漫なところもあるリタだが、戦闘となると隙がない。さすがである。
リタは風の魔力を練った。そして、操る。
と、いきなり宙へ浮き上がった。浮き上がったというより空に立っている。
え?なんで?
「わーすごい。風で飛べるよ。操作が難しいけど」
……。
「ディア、どう思う?」
『たぶんあの剣を持ったからって、最初からあそこまでできるのは彼女くらいでしょうね』
この天才は本当に腹立つわ。昔からそうだ。人が努力して努力して身に着けることを、わーできた。とか言って簡単にやるのだ、コイツは。
「じゃ、先輩。行きますね?」
そう言って、行きますね?の「ね」の言葉を発した時には、リタは俺の後ろにいた。
「ッ!!」
俺は後ろを振り向く。
そうすると、今度は右に移動している。
は、速すぎる。
「ね、先輩!凄いよ。前よりも全然速く動ける!!」
そう言ったリタは、また空を飛んでいた。
くくく。やるじゃねえか。
わかったよ。わかった。お前が天才だということは既にな。だがな、これは先輩の威信をかけた模擬戦なんだよ。お前の敗因はそこに対する理解が甘かった点だ。
「重力操作」
『……エイス様、まさかムキになってます?』
ディアが何か言っているが俺には聞こえない。聞こえないのだ。
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