3 人間からロボットへ「意識移植」は可能なのか?
筆者:
これまでの2つの項目では「死後」という事を焦点に当てて考えてきたんですけど、
都市伝説的なお話ではロボットの肉体などに「意識移植」を行う事で「永遠に生き続けることが出来る」ために「死後の世界」についてそもそも考える必要が無いのではないか? と言う考え方もあるんですけど、それについてはどのように考えられますか?
意識移植の技術的な実現可能性と、それが「死」の定義を変えるかどうかは、分けて考える必要があると思うニャ。
筆者:
「意識移植」は理論上は不可能ではないというのが現在の科学的コンセンサスに近い立場だニャ。
人間の脳は電気化学的な信号処理を行う物理システムであり、「魂」のような非物理的な特別な材料でできているわけではない、というのが唯物論的な前提としてあるニャ。
この前提が正しいとするのなら、原理的には脳の状態をシリコンなどの別の基盤に再現することは可能であると考えるからニャ。
ただし、実現へのハードルは極めて高いものになっているニャ
1 スケールの問題:人間の脳には約860億個のニューロンがあり、その間のシナプス結合は数百兆に及びます。現在の「全脳エミュレーション」研究は、線虫(302個のニューロン)レベルでようやく進展している段階だニャ。
2 スキャンの限界:現状、脳を破壊せずに分子レベルの結合状態を完全にスキャンする技術は存在しないニャ。
3 「何が意識を生むか」が未解明:ハードプロブレムが未解決である以上、「これで意識が再現できた」と確認する方法自体が定まっていないニャ。
多くの研究者は「今世紀中に実現する可能性はあるが、数十年〜百年単位の話」という見方をしているニャ。
僕が「意識移植」に関してクロさんの課題に加えて問題提起したいのは
ハードウェアの容量不足だね。
人間の脳1つ分のデータをそのままシミュレートするには、現在の最先端スーパーコンピューターをもってしても、電力や計算能力が数桁足りないと言われているんだ。
そのため、脳科学者の間では「今生きている僕らの世代では難しい」と言うのが見解のようだね。
AIの力をもってすればブレイクスルーが出来るかもしれないという考えもあるけど、以前の議論 https://ncode.syosetu.com/n8841mh/ であったように、現状のAIは「これまでのデータ」に基づいて判断しているに過ぎないから中々コペルニクス的転回を起こすことが出来ないと思うよ。
筆者:
理論的には可能でもそこまでハードルが高いと実現可能性は低そうですね……。
今より数桁コンピューターの計算能力が必要となるとどれだけ電力が必要になるのか……と思ってしまいますからね。
ワタクシはお二人より少しハードルを下げて考えてみましたわ。
それは、脳を少しずつ機械に置き換えることですわ。
例えば、小脳が異常を起こした場合に代替えの小脳を使う。
各脳の働きを完全に理解する事がまだできていませんが、
完全に分析した後に、一つ一つ入れ替えていくのですわ。
最終的に脳が100%人工部品になったとします。
このとき、
・記憶は続いている
・性格も変わらない
・家族も本人だと思う
・本人も「私は私だ」と感じる
などがもしこれが成立するなら、「意識は生物でなくても成立する」ことになりますわ。
筆者:
なるほど、脳を小分けして「困難を分割する」ということですね。
完全には分かっていないそうですが、各脳の役割を完全に解明すれば代替えが可能な脳を一つずつ作っていくという事ですね。
ただ元の人間の脳と人工の脳との間で「意識が連続する」イメージが全く沸かないんですよね。
AIなどの学習によって「本人っぽい動作や反応をするロボット」が出来上がるだけなんじゃないかと思ってしまうんですけど、
各器官の役割が完璧に分かったとしても、技術的にクリアしなければならない「ミクロの壁」が残るんだニャ。
それが「シナプス結合の動的な変化(可塑性)」の再現だニャ。
脳の器官は、単に固定されたパーツがコードで繋がっているわけじゃないんだニャ。
飼い主(筆者のこと)が新しい小説のアイデアを思いついたり、誰かと会話して感情を動かされたりするたびに、数兆〜数十兆個ある神経の接続点の「繋がりやすさ」が、リアルタイムでミリ秒単位で変化し続けている――これを脳の可塑性と言うニャ。
筆者:
つまり、各脳が決められたパーツで繋がり、役割をこなしているわけでは無く、複合的な役割も司っている可能性があるという事なんですね。
副次的な話で一つ思い出したのですが、事故などで脳の一部が損傷した際に想定していたこと以外の障害が出たという話があったと思うんですけど、どんな例があったか教えていただけますか?
脳科学の歴史上、最も有名な「想定外」の事例が19世紀の鉄道建設作業員、フィニアス・ゲージの事故だ。
彼は事故で、鉄の棒が頭を貫通し、脳の「前頭葉」という部分を大きく損傷した。 命は奇跡的に助かり、運動能力も言葉も記憶も全く正常だった。医師たちは「脳の一部を失ったのに何の障害もない!」と驚いたんだ。しかし、本当の障害は後から現れた。
・想定外の障害: 事故前の彼は、勤勉で礼儀正しく、仲間から信頼されるリーダーだった。しかし前頭葉を失った後は、極めて怒りっぽく、下品な言葉を連発し、計画性がなくなり、まるで「人格が180度入れ替わった」ようになってしまったんだ。
・分かったこと: 当時は「理性を司る場所」なんて分かっていなかったから、前頭葉が「感情をコントロールし、社会性や人格を作るコア」であることがこの事故で初めて判明したんだ。
※ウィキペディアで確かに同じようなことが書いてありました。
愛する家族が「偽物」に見える「カプグラ症候群」と言うものがありますわ。
脳の顔を認識する部分(紡錘状回)と、感情を司る部分(扁桃体)を結ぶネットワークが事故などで切断されたケースですわ。
これは 目の前にいる母親を見て、「顔は完全に僕の母親だ。でも、この人は母親に変装した偽物(ロボットや身代わり)だ!」と強く主張し始めてしまいましたの。
これにより 脳は、相手の顔の「データ」を認識するだけでなく、同時に「懐かしい、愛しい」という「感情の電流」が流れないと、その人を本物だと確信できない仕組みになっていることが分かりましたの。
データの照合はできているのに感情が伴わないため、脳が「辻褄合わせ」をして「偽物だ」という妄想を作り出してしまうようですわ。
https://kyuushoku.com/blog/103780
筆者:
どちらも深刻なケースですね……。つまり、脳の各部分を手術して「完全なもの」を持ってきたとしても、完全にはその部位の代替え機能しない可能性があるという事ですね。
例えばふくらはぎは移動のための筋肉と思いがちですが、「筋ポンプ作用」から「第二の心臓」と呼ばれるほどの血流にとって重要な役割がありますからね。
副次的な重大な役割が完全に解明されることは困難のような気がしますね。
個々の課題を解決するためにはやはり相当な時間がかかりそうだという事が分かりました。
ただ、これでは話が先に進まないので、何かまかり間違って早期に実現した場合には「死の概念」は果たして変わるのでしょうか? 前提のお話だけでそこそこ長くなってしまったのでこれについては次の項目で議論していこうと思います。




