表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

[第二章:結成、災祓いのトリニティ]その1

「……」

 いきなりの大声に反応し、ゾンビ達が上を向く中、ミコは声の主たる男を見る。

 尖った髪型の彼は、上半身を黒のタンクトップ、下半身に大きいズボンという、どこか野性的な雰囲気もある恰好をして、ミコたちの頭上、右側の建物の屋上にいる。

 そして、大きな棒を右腕に持ち、二人を見下ろしていた。

(…あれは)

 ミコとミルより少し身長が高い程度の彼には、[マガヒー]の特徴であり、子にも別の形で受け継がれている、例の突起物が見当たらない。

 必ずしも見えやすい位置に生えているというわけではないが、それらの突起物は基本的にはそれなりに大きく、大きな服を着ていようと探せば大抵見つけることはできる。

 だがそれは、頭上の男には今見た限りでは見当たらない。

 この[マガツイキ]の住民としては、少々奇妙だ。

 そして、なにより奇妙なのは、

(…他の住民が既に全員、例外なく[奇災]の影響を受けているのに…なぜ?)

 男はミコのように、[奇災]の影響を受けている様子がない。

 それはミルも同じではある。が、彼女に関しては、災いを祓う神などというぐらいなのだから、[奇災]の影響ぐらい弾けるのではとミコは薄っすら考えていた。実際、ここまで影響される様子がないことから、多分そうだろうと思い、危機的な状況もあってここまで気にせずにいた。

 だが、この男はつい気になってしまう。

(まさか、私と同じ特性でも…?)

 などとミコが思ったときだ。

「グッパァ…」

「!」

 男への興味を失ったのか、あるいは後回しにすることにでもしたのか、半数のマシンガンゾンビ達がミコとミルの方へ首を動かす。

 それに二人が思わず身構えると、男が再び言う。

「おい、お前達!もう一度言うぞ!助けてやろうか!」

「…助ける?」

「そうだ!ただし絶対に有料だ!お前らがここで金を払うというのなら、俺はお前たちを助けてやろう!」

 男のその言葉には、かなりの自信と、本気さが感じられる。

 それに、ミコは確認の言葉を素早く放つ。

「…本当に、できると言うなのですか!?」

 ミコは、首を左右にカクカクと揺らし、攻撃準備を始めるマシンガンゾンビ達を見つつ、男に問う。

「この状況から私たちを救うことが!」

「ああ!勿論だ!ただし金を出せ!それも羽振りよくだ!」

 強い肯定と、繰り返しの金の請求。それに対してミコは、危機的状況のおかげか普段より高速で思考を展開する。

(…彼の言葉に嘘は感じられない。少なくとも、彼はそれができると信じ、わざわざここに来た。ならば…)

 賭けても良い。なにより、拒否しても目の前にやられるだけだ。それならば。

 そう結論付け、ミコはその瞬間、迷いなく動く。

「いいでしょう!大金持っていくなのですね!」

 言うのとほぼ同時、ミコはまな板など、荷物入れとして様々なものが入っている袴、その内側より七枚の紙幣を丸めて引き抜く。

 いずれも、[マガツイキ]全体で使用されている、上から二番目に額が大きい大金の紙幣だ。

 普通なら、余程金が余っていない限りは簡単に出せる額ではないが、ミコはそれを、男を納得させるため躊躇なく使用する。

 この場を切り抜けられるかの賭けに必要である以上、そこに躊躇いなど一切ない。

「これでおいしいご飯十食分!さぁ、お願いなのですね!」

 叫びと共に、思い切り七枚の紙幣が三階に放り投げられ、男はそれを素早く掴む。

 直後、勢いよく彼は言う。

「いいだろう!この俺が、イルカネがお前たちを助けてやろう!」

『グパパパパッパァ!!!』

 瞬間、相変わらず上方向に頭を向けていたマシンガンゾンビ達が、男の叫びに反応して唾を乱射する。

「遅いわぁ!」

 言うときには、男は跳躍している。

 つい数舜前まで男がいた場所を無数の唾が抉り取っていく。そんな中、彼は右腕の棒を振り上げ、思い切りマシンガンゾンビ達のど真ん中に、三体ほど踏みつけながら着地する。

「ぐっぱぁ!?」

 ミコたちを狙っていたゾンビ達もその行動に驚き、思わず男…イルカネの方へ体を動かす。

 だが、その間に彼が動かずにいることは、ない。

「そぉれ!」

『グッパッパッァァァァ!?』

 イルカネはその場でステップを踏み、踊るようにも見える動作で、重量のある棒を思い切り振り回す。

 それによって、ただ頑丈なだけで、別に打たれ強いわけではないゾンビたちはあっさりと吹き飛ばされ、あちこちに倒れ伏す。

「さぁ、受けて見ろよ!ここに来る前、鍛え続けて得た、この力を、な!」

『グッパパパッパパパァパ!?!?』

 リーチのある重量物を振り回し、場をかき乱すイルカネに、ゾンビ達は混乱する。そして、元より適当であった唾による攻撃をさらに、適当かつ無秩序に行う。

 結果、イルカネが他のゾンビを盾にしたこともあり、多数の同士討ちが発生し、その数はみるみる減っていく。

 流石に数が数なため、一気に全滅はしてくれないが、それなり以上のスピードで敵は倒れていっていた。

 その成果に、ミコは感心する。

(これは中々なのですね…あれだけのことを言っただけは、あるなのですね!)

 イルカネの活躍にそう思いつつ、ミコは袴の中から勢いよく取り出したフライパンで、自身も一番近いマシンガンゾンビ一体をぶん殴り、昏倒させる。

 この場を切り抜けることを確実にするため、イルカネ頼りではなく、自分も行動しようと思ったが故のものだ。

「隣のナカナカさん、ごめんなさいなのですね」

「…クレイジーな奴じゃの」

 仕方がないとはいえ、隣人を容赦なく倒したミコに、ミルは半眼でそんなことを言う。

 が、そんな彼女もミコたちを見習い、混乱する一体の隙を突き、格闘技をかけて行動不能にする。

 一応、[マガヒー]の頑丈さのおかげで倒されたゾンビ達(市民達)は皆、気絶で済んでいる。

「…儂もクレイジーなっとる気がするわい」

「その方がこの状況を切り抜けるのにいいなのですね」

「まぁそじゃな」

 言いつつ、二人は行き止まりから脱出できる程度にマシンガンゾンビの数を減らしにかかる。

 そして、それがある程度進んだところで、イルカネが言う。

「おい!お前達、来い!道は開けたぞ!」

 二人は見ると、確かに一時的にマシンガンゾンビの壁に、明らかな空白地帯が発生している。

 それを見た二人は頷き合い、全力疾走で空白地帯を、奥のイルカネ目指して駆け抜ける。

『ぐっぱかぱぱぱっぱァァ!』

 そんな彼女らの動きに反応し、元の四割ほどに減ったマシンガンゾンビ達が唾を乱射する。

「あいったぁ!?またお尻じゃぁ!?」

 最初に受けたものより大きな唾が尻を掠り、痛みで涙目になりながらミルは走る。

 巫女もまた、袴の左端を唾で抉り取られ、中のものが零れる中、疾走。そうして二人はその弾幕をなんとかかいくぐり、イルカネの元へ到達する。

 同時、イルカネは勢いあまってそのまま突っ込んでくる二人を、両手でしっかりと受け止める。

「う…!?」

 その瞬間、意図せずにミルの胸、半ば剥き出しの側面部に触れた彼は、一瞬びくりとする。

「…むん?」

 その反応に、ミルは一瞬眉を顰める。

 だが、何か言う間もなく、イルカネはすぐに気を取り直し、

「よし来たな!なら、一気に撤退だな!」

「なのですね!」

『グパパパパパ!!!』

 逃がすか。まるでそう言うかのように、マシンガンゾンビ達は叫び、一点集中での唾攻撃をする。しかしその直前、イルカネは地を蹴り、二人を抱えたまますぐ横にある民家の屋根に着地する。

 ついで彼は、二人と荷物の重量などモノともせず、民家の屋根の上を走り始める。

「グパァァッァ!!」

「グガァァァラン!!」

「パパパパッパ!!」

 マシンガンゾンビ達の声が響き、直前に足場にした民家の屋根が端から高速で抉り取られていく。

 そんな中でも、イルカネは臆することなく走る。

「そんな乱射…!」

 当たるか。

 そう彼が言った瞬間だ。

 数秒前に打ち出されていた唾の一つが、幸か不幸か彼の移動する位置に飛来、その腰についていた巾着袋に突き刺さる。

「な…くそ!」

 それに悪態をつきつつ、彼は走る速度を上げる。

 以降は彼も、ミコたちにも攻撃が当たることはなく、道路を無視した縦横無尽の動きで、マシンガンゾンビとの距離は離れていく。

 そうして、屋根を走り始めて十五分程度が経った頃、唾による破壊音と、奇妙な叫び声はすっかり聞こえなくなっていた。

「…ふぅ。どうやら、なんとかなったようなのですね」

 流石に疲れたらしく、足を止めた公園のベンチに座ったイルカネを見て、ミコは言う。

 現在、三人がいる場所はマシンガンゾンビ達がいた方向とは完全に逆方向の、街の端だ。

 あたりの住民が、先ほどの地点に集まっていたために静かなここで、三人は息をつく。

「…儂のプリ尻が痛むわい…」

 ミルは、赤らんだ尻をさすりながらそんなことを言う。

 そんな彼女を横目に見た後、ミコはイルカネに視線を移す。

「…ありがとうなのです。あなたのおかげで助かったなのですね」

「ああ、そうか?まぁ、金があれば感謝なんて別にいらんがな」

 言いながら、イルカネはズボンに入れていた紙幣を広げ、それをじっくりと眺める。

 それも、かなり念入りに、である。

「…ふーむ。これが[マガツイキ]の金か。俺んところとはちょっと違うな…。偽造防止で凝ってるのは同じっぽいが」

「…?」

 ミコは、イルカネのその様子を見て、首を傾げる。

(何故、紙幣をそんなまじまじと。それに言い方が妙なのですね。まるで、ここのお金を知らないような…)

 [マガツイキ]で使われているのは統一された単位の紙幣が四種、貨幣が七種だ。

 この地で生きてきて、それを一切知らないと言うのはおかしい。

(…[奇災]のせいで買い物がままならない時もしばしばとはいえ、流石にお金を全く見ないことなんて…)

 いくらなんでも、そんなことはあり得ない。

 今の彼がしているような、まるで初めて見たかのような反応など、するはずがない。

 そう、ミコは思う。

(…それに、やっぱり[マガヒー]の特徴も見当たらない。おかしい、おかしいなのですね)

 このイルカネと名乗ったこの男は、一体何なのか。

 ミコの中で、その疑問は拡大していく。

 そして、彼女はそれを、直接問うことにする。

「つかぬことをお聞きするのですが」

「…ん?なんだ?」

 紙幣の細かな加工を見ていた彼は、顔を上げてミコを見る。

 そんな彼に、彼女は言う。

「…さっきから気になっていたなのです。[マガヒー]らしい特徴がなかったり、[奇災]の影響を受けていなかったり、なにより誰もが知っているお金を明らかに知らなかったり」

「…」

「…あなたは、一体どこの誰なのですね?」

(もしかしたら、というのはあるなのですが)

 この男の正体は一体なんだと言うのか。

 それにある可能性を考えつつ、ミコは問う。

 そして、その純然たる疑問に、イルカネはただ当然のように答えた。

「…俺はここの外の住人、幸いで満ちた世界出身の男さ」

「!」

 その言葉に、ミコが軽く驚き目を見開く。

 それと同時に、イルカネはこう付け加えた。

「金儲けの、ために来た、な?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ