[第四章:さぁ。奇妙なる災いを祓いましょう]その4
「私の…」
(不幸中の幸いの、特性…)
皆が災いに見舞われる中、自分だけが無事か軽傷で済むというそれについて、ジージは言う。
「ん、両親を病気で失った幼いお前を、今まで[奇災]から守っていたそれ。だがなぜ、お前がそんな特性を持っているのかを、知っているか?」
「…それは知りません。分かるのは、幼少期から持っていたということぐらい」
「…だろうな、ん。だからこそ、今教えよう」
「知って、いるのですか?」
「ああ」
ジージは頷く。
それから、ミコに伝え始める。
「ミコ。お前がその特性を持っているのは…」
「‥‥」
ジージはミコの胸を指す。
そして、言った。
「お前が、[幸塊]をその身に宿しているからだ」
「…なぬ[幸塊]を?」
「体に宿している、だと?」
ミルとイルカネがジージの言葉に驚くと同時、ミコは目を見開く。
「私の体に、[幸塊]が…?」
「その通りだな、ん。お前の体…心臓の近くには[幸塊]が一つ、存在している。そしてそれは、[災塊]の力満ちるここでは、持つ性質から対抗するようによく力を発揮する」
「…」
ミコは、[トーソ]に来る途中でイルカネが話していた、[幸塊]と[災塊]の性質のことを思い出す。
そして、その内容をなぞるように、ジージは言う。
「幸いの力が、[災塊]の災いの力とぶつかり、お前の体は守られる。そうしてお前は、[奇災]の影響を今まで免れてきたわけだな、ん」
「なるほど、なのですね…」
(イルカネと、似たような理由だったわけなのですね)
彼と同じように、自分にも[幸塊]があった。そのために、彼女は今まで、自分だけは無事でい続けたのだ。
(それなら、納得がいきはします)
が。
(…しかし)
そこでミコは、当然の疑問を抱く。
「…伯父さん。私の特性の理由は理解したなのですけど。でもどうして、私の体に[幸塊]
が?」
ミコの問いに、ジージは言う。
「それもまた、吾輩たちの先祖に関わるものだな、ん…」
「先祖…」
拠点内での話で出てきた、ミルをつくる巻物を残した先祖が、またしても関わってくる。
「…吾輩たちはさっき、今のようなときのため、先祖が巻物を用意したと言ったな、ん」
「なのですね」
「そしてだな、ん。その巻物に書かれた[リーチュ]は、内の家系でかつ若い少女が自らの意思でやらないと成功しないともいった」
「覚えています」
だからこそ、ジージがあのとき、ミコが巻物を利用することを勧めたことは、彼女の記憶に新しい。
そのことを確認したジージは、ミコに言う。
「[リーチュ]を実行できる少女。その娘を、いざ災い満ちる事態になった際、災いから無事に残すために、[幸塊]はあるらしい。そのために、かつての発見者が[災塊]に対して使ったものと、ほぼ同じ手段で用意されたそれは、ずっと受け継がれてきた」
「受け継がれた…?」
「そうだな、ん。最初の一人から、吾輩たちに繋がるまでの、何人もの先祖たち。彼らはずっと、生まれる際にその身に[幸塊]を譲渡され、継承してきた。それまで持っていた者から、専用の[リーチュ]を行うでだな、ん。そして、お前もまた、[幸塊]を継承している」
ジージは続ける。
「…お前の場合は、吾輩の弟からだな、ん。お前が生まれた時、神社を継いで全てを知っていた吾輩が、[リーチュ]をやり、[幸塊]は継承されたわけだ」
「お父さんから、なのですね」
「ああ。あいつが、娘の幸せを望んだのもあってな」
「…幸せ?」
「ああ。継いだ吾輩と違って、ほぼ何も知らなかったあいつは、吾輩と違い、純粋に娘の幸せを望み、継承をした。[幸塊]があれば、病弱な自分達から生まれてくる子も、無事育つだろうと思ってな」
「…そうなのですね」
(…私のこの特性は、お父さんからのプレゼントであったわけですか)
ミコは胸に手を当てる。
そこに宿る[幸塊]に由来する、不幸中の幸いという特性。
このために、[奇災]が起こるたび、色々と思うことはあった。
(…でも、無事だったおかげで、私が成長できたというのも、あるかもしれないのですね)
ミコは別に、自らの特性を嫌に思っていたわけではない。だが、自分だけが無事であるという、申し訳なさを感じる状況を作り出すが故に、肯定的に捉えていたとも言い難い状況であった。そのため、その特性が、娘の幸せの願った親からの贈り物由来であったと知ったことは、ミコの、自身の特性への認識を少し良い方向へと変えることとなった。
「…そうして。私にはこの特性があるということなのですね」
認識の変化で、少し心が軽くなったことを感じつつ、ミコは話を進めるために言う。
「そうだ。そしてそれが…お前の胸の[幸塊]が、地上で災いに挑むお前たちを助けになる…」
「助けになる…」
再びの言葉を、ミコは繰り返す。
「ああ」
それに頷き、そこでジージは、イルカネを見る。
「お前も持っているのだろう?[幸塊]を。でなければ、頭が飛ばないよう対策している吾輩たちと違うお前が、ここまで無事なわけもない」
「まぁ、そうだが」
イルカネの答えを聞き、ジージは、今度はミルに言う。
「お前は、[幸塊]こそ持ってはいない。だがな、ん。その身には[幸塊]に近い力がある」
「…なんじゃと?」
ミルは驚く。
「ああ。[奇災]解決の道具が[奇災]に影響されてダメになっては本末転倒だからな、ん。だからこそ、その体は、ミコ達に用意された[幸塊]の力と性質を、多少ながら模してつくられ、[奇災]の影響を免れることができるようになっている」
「そういうことじゃったのか。…ふむ、そういう設計らしい事しか知らなかったから、ちょっとすっきりしたわい」
ミルはすっきりした様子でそう言う。
そんな彼女と、イルカネ、そしてミコを見た後、ジージは言う。
「…お前たちは皆、[幸塊]を、幸いの力を持つ。そしてその存在は、この[マガツイキ]…特に、[奇災]が起きているところでは、大きな意味を持つな、ん…」
「大きな…」
(それは…)
「[幸塊]の性質により、災いの力が大きいここでは、それだけ大きい幸いの力が、お前たちにもたらされる。つまり…お前たちは、運が良くなる」
「運が?」
「よくなる?」
「のじゃ?」
ミコ、イルカネ、ミルが言うのに、ジージは返す。
「そうだ。本来、[幸塊]の力とは、幸いの力とはそう言うものだな、ん。例えば、だ。お前たちが[災獣]の襲撃で落ち、ギリギリで状況に気づいた吾輩の指示で、我が妻に助けられた時だ」
ジージは続ける。
「お前たちは、あれだけの数の[災獣]が突撃を敢行しながら、それで潰されるのだけは、不自然にも回避できた。それは間違いなく、幸いの力のおかげだ」
「…あれ、そうだったのか?」
行動の主体であったイルカネの言葉に、ジージは頷く。
「ああ。…だがまぁ、ただ突っ立っているだけではそうはならなかっただろう。お前が必死に回避なりなんなりしたからこそ、お前たちは潰されず、落ちることになり、結果、我妻の助けは間に合った。必死にやって初めて、ある程度の幸運がもたらされるわけだ」
ジージは、近づく地上の光を見ながら言う。
「お前たちがこれから挑む最後の戦い。多数の、災いの化身たる[災獣]が全力で害意と悪意を剥き出しにするその場では、ミコ達の[幸塊]の性質によって、幸いの力は飛躍的に高まる。そして、その力はお前たちが、必死に戦いを続ける限り、お前たちに幸運を呼び込む…助けとなってくれる」
「助けになってくれる…」
(私の胸の、[幸塊]が…お父さんからの贈り物が)
災いを祓う、[奇災]を解決する助けとなる。
「そのことを覚えていた上で、頑張れ。そうすれば…」
ジージはふと、眉を顰める。
しかし、その様子を後ろの三人に悟られないよう、彼は言葉を続けた。
「[奇災]の解決を成せる。必ずな…」
「…?」
そこで急に、ジージの声のトーンが落ちる。
ミコがその様子に眉を顰める中、一行は階段を上り切る。
周りに広がるのは、巨大な円筒形の、未完成で放置された建物の一階だ。
先の地下と同じように、内部にはあちこちに資材箱などの多数の物があり、さらにはあちこちに板が立てかけられて、物が吊るされていることで、見通しは決して良いとは言えない。
そこで、ジージは何故か立ち止まり、ミコに背を向けたまま言う。
「ミコ。後は頼むぞ。必ず、この都市に満ちる災いを祓え」
「…?伯父さん…一体」
瞬間、ジージは跳躍して三人から距離を大幅に取る。同時、懐から何かを頭上に投げた。
それは、刃が剥き出しになったナイフだ。
勢いよく放られたそれは、ジージの真上へと舞い上がり、そこにあった、固定用の縄を複数本切断する。
直後。
『なに!』
『気づかれ…』
『ぬうぅぅぅぅ!!』
「!」
頭上、多数の[災獣]の声が響くと同時、縄で固定されていた資材がずり落ち、仮組の足場を巻き込んで、大規模な崩落を始める。
そしてそれは、ミコ達を不意打ちしようと、見通しの悪さを利用して隠れていた[災獣]七体を巻き添えにする。
だが、その真下にいるジージは逃げられない。
「伯父さん…!」
「お前は二人と共に、必ず、事を成すのだな、ん…!」
ミコ達の前方で、多数の建築資材が床に突き刺さる。
直後、長年の放置で床が劣化でもしていたのかひび割れる。
そこに、七体の[災獣]とさらなる資材が落ちることで床は一気にひび割れ、砕け、陥没。
ミコ達が通り過ぎてきたのは別の、地下階への穴を開く。
ジージは、そこに資材と、企てを邪魔された[災獣]の叫びと共に落ちていく。
「伯父さん…!」
「必死に頑張れば、成せるぞ…!」
その言葉を最後に、ジージは明かりなき階下に消える。
ミコはそれを、誇り舞う中、見つめていた。
「…」
時期、落下物が全て落ち切ったのか、全ての落下音は消える。
そうして訪れるのは、一時的な静寂だ。
ミコはその中で、伯父の消えた方を見て、沈黙する。
見知った相手がいなくなってしまったかもしれないことに、言葉が出なくなる。
「…」
その時間がある程度続いた頃だ。
「…さて。どうする、ミコ?」
ミコの後ろに、ミルと共にイルカネは、言葉を紡がない彼女に言う。
「お前の伯父さんはお前に解決を託してこうなったわけだが。俺は金のために、やる気だが、お前はどうするんだ」
「…」
イルカネは問う。
「…一応、一緒に一回は[奇災]を解決した仲間だしな。金なしにお前の意思を尊重はしてやる」
「…お主が金を要求しないとは珍しいの」
「…そんな気分のこともある」
伯父を目の前で失ったに等しいミコを、珍しくも気遣ったと思しきイルカネの言葉に、ミルは笑い、言う。
「儂もそうしよう。もとより、儂はお主の味方したい方じゃしな」
そして、ミルも問う。
「どうする、ミコ?その意思を、儂も尊重する」
仲間二人は、ミコの答えを静かに待つ。
同時、建物の外で、[災獣]の声が聞こえ始める。
先の落下した[災獣]の情報共有で、ミコ達の場所を察知したと思しきそれらの声が、徐々に近づき始める。
その中で…、ミコは二人に振り向いた。
「…やるなのですね」
ミコは言う。
その瞳に強い意思を宿して。
「この都市に渦巻く、災いを、[奇災]を解決する。そのために私たちは来たのですから」
「そうか」
「分かったのじゃ」
イルカネはあまり表情を変えず、ミルは笑って頷く。
それを見ながら、ミコは思う。
(私は伯父さんに託された。応援もされた。伯母さんに行かせてもらいもした。だから…)
今はやることをやるべきだと、それが必要だとミコは思う。
そう思えた時点で、彼女は既に躊躇わない。
それが、彼女と言う人物だ。
「行きましょう、二人とも。私達には、[幸塊]の力もついている。必ず、[奇災]の解決を成し遂げる、なのですね!」
「ああ、いいだろう。金儲けのために!」
「じゃな!」
三人は頷きあう。
[災獣]の声が着実に近づいてくる中、その意思は一度目の時のように一つになる。
…そして。
『現れましたね…死に損ないの、邪魔者がぁぁぁぁァァァァァァァァぁぁ!!』
一つの建物の天井を砕き、空に巨鳥が舞い上がる。
周囲には、宙に浮いた多数の[災獣]。
巨鳥はそれらを見下ろし、その背に剣持つ男と、ミコ装束の少女を乗せて翼を広げる。
その背の上で、少女は…ミコは言った。
「さぁ。奇妙なる災いを祓いましょう」




