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[第四章:さぁ。奇妙なる災いを祓いましょう]その3

“漆黒”は鎌首をもたげる。

『災いの化身として、邪魔者は、排除する…!』

(…!また、災いの化身と…)

 先刻、地上で戦った“漆黒”たちも自らのことをそのように表現していた。

([奇災]に関係があるとは推測できますけど。一体、なんなのですね…!)

 そうミコが思うと同時、“漆黒”が動く。

『失せろぉ!』

「!」

 来る。“漆黒”がミコ達に体当たりをかまそうと飛び出してくる。

 それに対応したのは、

「やらせないわよ!」

 ミータだ。

 彼女は、出遅れたイルカネを背に床を蹴って宙へ。

 そのまま“漆黒”に回し蹴りを叩き込む。

『うぐぁ!!』

 老体の割には随分と動きの鋭い一撃は、“漆黒”の頭部らしきところにクリーンヒット。

 その体を出てきた入り口の奥へと叩き込む。

 ミコはそれを見て、伯母の実力に感心する。

「…凄いなのですね」

「だろう?吾輩の妻は情報収集のため、あちこち言葉通りに飛び回っている。ときには[奇災]による怪物とも戦っている。だからこそ、凄まじく強いんだな、ん…」

「ジージ。称賛してくれるのは嬉しいけど、すぐ行きましょう。ここが見つかった以上、もう行くしかないわ」

「…だな、ん。話は道中にしよう」

 言って、ジージは傍らの扉を勢いよく開く。

「三人とも!吾輩についてこい!ここは狭いからな!とりあえず広いところに行くぞ!」

「なのですね!」

「そうだな、戦うには不向きだ。行くぞ」

「じゃな」

 ミコ達は頷き、余裕のある表情で扉の奥に走り出すジージに続く。

 ついでミータも、“漆黒”がすぐには復帰して来ていないことを確認し、すぐ四人の後を追う。

「どこにいくなのですね!?」

「この拠点の外だな、ん。なに、ここは小さい。すぐに出れる」

 ジージが言う中、彼らは扉の先に会った廊下を進む。

 廊下はそう長くはなく、すぐにT字路に突きあたる。そこを彼らは左へ曲がり、次に出たT字路を右折し、その先にある勾配の緩やかな上り坂を登る。

 そうして辿り着くのは、石と木でつくられた扉だ。

 まっさきにそこに辿り着いたジージは、それを手慣れた動作で開け放ち、扉の向こう側へ飛び出す。ミコ達もそれに続き、扉の外へ出る。

「ここは…」

 ミコは目の前に入ってきた光景に驚く。

 周囲に広がっていたのは、幾つもの石柱が天井に向かって伸び、天井の端から地上の光が遠目に薄っすらと見える、縦長の巨大空間だ。

 微妙な明るさの空間のそこかしこには、石と木でつくられた仮設の足場や資材箱が並べられており、それらの周囲には小規模にコケ植物が生えている。

 そこをジージの後について進み、ミコ達は言う。

「なんだ、ここは?」

 イルカネが言い、最後に出てきたミータが、壁に擬装された扉を素早く閉める中、ジージは振り返って言う。

「ここはだな、ん。この都市で今の[奇災]が発生する前、かつて行われた工事の現場だ」

「工事現場、とな?」

「この都市では、以前地下に畳張りの巨大な居住区画を複数造ろうと言う計画があった。ここは、そのための掘削、整備工事が行われていた場所だったわけだな、ん。お前たちが落ちた、こことは別の大きなところも、その工事現場だった」

 そこで一度言葉を切るジージに続き、ミータが言う。

「けれど、この都市で例の[奇災]が発生し、まともに日常生活を送れすらしない状況になったせいで、こんな大規模工事なんてしていられなくなったのよ」

「…なるほど、なのですね」

 ミコは相槌を打つ。

「それでな、ん。ここや他の工事現場はこうして、工事途中の半端な状態で放置されていたわけだが。そこで吾輩たちが情報収集の拠点として目を付け、その一つの一部を改造した。そうしてできたのが」

「ついさっきまで、私たちがいた拠点よ。…けれど、この場所は奴らに露見してしまった」

「奴ら…あの黒いのか」

 イルカネは、閉じた扉の方を見て言う。

 同時、ミルが言う。

「一体、あれらはなんなのじゃ。儂らを邪魔してくるあたり、[奇災]に関係はしてそうだが、事前に聞いた[奇災]の内容とも合わんし…一体」

「なのですね。私も気になります。アレは一体なんなのか…」

 そこで、ミコはふと思う。

(伯父さんなら、もしかして)

 ジージは[奇災]に関する情報を集めていた。ならば、例の“漆黒”の正体も知っているのではないか。

 そう思ったミコは、伯父たちに問う。

「伯父さん。アレは…あの黒いのについて、何か知っていますか?」

 ミコのその言葉に、上へと向かう階段にたどり着いたジージは、笑って答える。

「…勿論、知っている。さっき伝えようとした情報には、アレらについてもあるな、ん」

「なら、教えてほしいなのですね」

「俺もだ」

「儂も知りたいぞ」

「ああ。分かった」

 階段の前で立ち止まり、ミコ、イルカネ、ミルが言う中、彼は言う。

「アレらは大規模な[奇災]にて発生する存在、[災獣(ディザ・スター)]というものだ」

「ディザ…スター?なのですね」

「ああ」

 ジージは頷き、続ける。

「[奇災]…その中でもここのように、発生から年単位の時間が経ち、規模が大きくなった[大奇災]と呼ぶべきものには、人々を苦しめることだけを目的とした、悪意の権化のような、一つの意識が発生する。それが形を成したものが、[災獣(ディザ・スター)]というものだな、ん」

 さきの扉に近い方に立つミータが続く。

「[災塊]のもたらす災いの力から発生したアレらは、言葉通りの災いの化身よ。そして、ここにいる[災獣(ディザ・スター)]の全ては、一個の意識がそれぞれの体で振る舞いを表面的に変えたもの。本質的には、アレらは全て同じもので、記憶も何もかもを共有しているわ」

(あれらは…一つ。つまり、大きな単体の悪意が、この都市には存在しているということ…)

 ミコが思う中、ジージが今度は言う。

「…で、だ。その[災獣(ディザ・スター)]の意識は、[奇災]…災い全体を制御する存在でもある」

「制御じゃと…?」

「腐っても災害のくせに、意思で自由に変わるっていうのか?」

「ええ。と言っても、災いの内容が変わったりするわけじゃなく、[奇災]が発生している範囲内で、誰をどのタイミングで苦しめるか決めているだけではあるけどね」

「ここで言うなら、住民の誰がいつ、その首から上が離陸するか決めているということ、なのですね?」

「そういうことだな、ん。そして[災獣(ディザ・スター)]は、災いの化身だからこそ、とにかく人を長く苦しめることだけを望み、ひたすらに動く」

 故に。

「アレらはその邪魔を許さない。[奇災]を途中で終わらせることを、人々が苦しみから解放されることを許しはしない。だから…」

 瞬間、拠点の扉が吹き飛ぶ。

 直後、先の“漆黒”が姿を現す。

『お前たちを、排除する!!』

 “漆黒”…いや、[災獣(ディザ・スター)]は宙を舞い、口を大きく開ける。そして、一番近くにいたミータに嚙みつこうとする。

「甘いわよ!」

 ミータは跳躍。[災獣(ディザ・スター)]の顎は空を切る。

 直後、空中で一回転したミータの踵落としが、[災獣(ディザ・スター)]の頭に当たる部分に叩きこまれる。

『ぐぁぁ!』

 [災獣(ディザ・スター)]は声をあげて床に叩きつけられる。

 それなりのダメージが入ったように、傍からは見えた。

 …だが。

『…やるなぁ…。だ、が』

何事もなかったかのように、[災獣(ディザ・スター)]はすぐに首を起こす。

ミコ達が地上で戦ったように、異常なまでにタフなようだ。まともにミータの攻撃を二度食らっておきながら、全く弱った様子がない。

むしろ今まで以上に力強く動き、ミータへと攻撃を仕掛ける。

それに回避などをして対応しつつ、ミータは鋭い声でミコ達に言う。

「ここは任せて地上に行きなさい!拠点が見つかった今、すぐに[災獣(ディザ・スター)]達が集まってくる。私達を確実に殲滅するために!もう悠長に話している時間も、休んでいる時間もないわよ!」

「…だな。そろそろやるときだ」

「やるとき…」

 ミコはジージを見る。

 その表情は、笑みの浮かんだ余裕のあるものだ。だが、その軽そうな雰囲気に対し、目には強い意志が宿っている。

 それをミコが感じ取る中、ジージは言う。

「…原因の[災塊]を叩き、この[奇災]を終わらせに行くときだ」

「…決着をつけにいく、ということなのですね」

「ああ。そのために、今から地上に上がる。唯一[奇災]解決の手段を持つお前達を、地上に送り届ける」

「…伯母さんは?」

「…大丈夫だろう。そう簡単にやられはしない」

「…分かったなのですね。行きましょう!」

「だな」

「のじゃ」

 ミコの言葉にイルカネとミルは頷く。

 その様子を見、ジージは言う。

「では行くぞ。…我妻よ!必ず耐え切れ!」

「ええ!耐えきって見せるわ!」

「ああ!」

 妻に言って、ジージはミコ達と共に上への階段を上り始める。

『逃がすか…特に、そこのガキ!』

「のじゃ!?」

 [災獣(ディザ・スター)]は[奇災]解決に必須のミルを仕留めようと、階段へ向かって飛び上がる。

 だが、ミータがその進行方向に飛び上がり、踵落としを叩き込むことで[災獣]を床に再度叩きつける。

『ぬ、ぅ!』

「行って!」

 ミータが言う中、四人は階段を駆け上がる。

 そうして、彼らは時期天井部分を通過し、上の吹き抜け階層の壁を伝う、狭い階段を上っていく。

「…さて」

 順調に階段を上り、地上が徐々に近づいてくる中、ふとジージは言う。

「…お前達には、まだ一つ教えておくことがある」

「…なのですね?」

 ジージが話すため、上る速度を緩めたことで、ミコ達も上る速度を緩める。

 そんな彼女らを背に、ジージは言う。

「ああ。[災獣(ディザ・スター)]の情報だけではなくて、だな。そしてそれを知っておくことが、地上で[奇災]の解決を成すことに繋がるな、ん…」

「…伯父さん、繋がるというのは?」

 ミコの問いに、ジージは言う。

「…地上には、多数の[災獣]がいる。そして、お前たちの生存を、さっきの個体経由で知ったアレらは、お前達を何としてでも排除しに来る。その状況下で、お前たちは[災塊]を叩きに行かなければならない」

「…そうじゃな。あんなタフな連中がいっぱいの中で、じゃ」

「…倒した方も分からん、しかもやたら数が多い連中を相手することになるのか」

 ミコ達の筆頭戦力であり、一番積極的に戦うことになるイルカネは、渋い顔をしてそう言う。

「…なのですね」

ミコは先刻の戦いを思い出す。

 あのとき、[災獣(ディザ・スター)]たちはやたらにタフで、全く倒れなかった。

 先ほどのものも、二度もミータの攻撃をまともに食らいながら、全く弱ることはなかった。

 それほどのものが多数、襲って来る。

「倒し方の分からないものを、相手しなければならない…ですか」

 [災獣(ディザ・スター)]という強敵の性質に、ミコ達の表情は少し暗くなる。

 …と。そこで、ジージは笑って言った。

「いや?相手することは、ない」

「…なに?」

「どういうことなのですね?」

 首を傾げるイルカネとミコ、彼女の言葉に頷くミルに、ジージは言う。

[災獣(ディザ・スター)]というのは、災いの化身ではある。だがそれは、災いそのものであるだけで、災いの原因ではないと言うことだ」

「原因ではない…」

 それが意味するところは。

「アレらは、[災塊]ではないということ。つまり、アレらを相手し、倒したところで[奇災]は解決されない。やるだけ無駄と言うことだな、ん。別の[奇災]の例だが、倒しても、[奇災]が発生している限りは、勝手にまた発生するもののようであるし」

(なら…)

「無視しろと?」

「その通りだな、ん。お前たちがやるべきことは、[災塊]を露わにし、それを叩き、沈静化させることだけだな、ん…」

「…なるほど、なのですね」

 ミコの街でやったことと同じこと。それをやればいいのだ。

「そうすれば、所詮は[奇災]という現象の一部でしかない[災獣(ディザ・スター)]は、[奇災]の終息と共に消えることだしな、ん」

 ジージはそこで、話を最初に戻す。

「そのために。お前たちに…ん、いやミコに、教えておくことがある」

「私に…?」

 自身を指定しての言葉に、ミコは驚く。

 ジージは、そんな彼女を見ながら笑う。

 そして、彼は言った。

「それはお前の、不幸中の幸いの特性についてだな、ん」 

 その言葉に、ミコは目を見開いた。


▽―▽


 地上で、[災獣]達は蠢く。

 一つの巨大な悪意は、それぞれの体から声を発する。

『必ず』

『必ず』

『必ず』

『排除する…』

 災いの化身にして、悪意の権化。

 その在り方に忠実に、[災獣]たちは邪魔者を待ち構えていた。

 今度こそ、確実に殺しきるために。

 絶対に、[奇災]を解決などさせないために。


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