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[第二章:結成、災祓いのトリニティ]その4

 三人の前方、逃げてきた方向で蠢く者達がある。

『グッパパパパパ!!』

 マシンガンゾンビだ。

 脚がやや遅い彼らは少し時間をかけ、ミコたちを今追い詰めようとしていた。

 数は、イルカネに倒された分減っているがまだそれなりにいる。そして、マシンガンゾンビ達は今、彼女らに襲い掛かろうと、再び迫ってきている。

『グパッパッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 異様な叫びが、小さな街に広がり、反響していく。


▽―▽


「…また、来たか」

「なのですね」

 イルカネとミコは、まだ見えはしないが、確実に近づいて生きているマシンガンゾンビ達の声を聞き、言う。

「…さて、どうするか。また倒すか…」

 顎に手を当てて考えるイルカネに、ミコは言う。

「それもありではあります。…けれど、それでは根本的解決にならないなのですね」

 ミコは考える。

 先ほどはやられかねない状況であったために戦うこととなったが、その行為では、この事態の根本的解決にならない。

 この[奇災]を解決するためには、場当たり的に彼らを打ち倒すのでは、いけないのだ。

「なら、根本的な解決をしようではないか」

 ミルは、二人を見てそう言う。

「…ミコの言う通り、このまま奴らを迎え撃ってもどうにもならん。だからこそ、この事態の原因に一発かますのじゃ」

「事態の原因…[災塊]を打ちに行く、ということなのですね」

(この事態を解決する。それにはこの[奇災]を発生させている[災塊]に接触し、叩いて鎮静化させる他に、ないなのですね)

 端から分かっていた手段、それを実行に移すことこそが、今最も有効な一手だ。

(…そして、そのための準備はほとんどできている)

 ミコはイルカネとミルを見る。

 今しがた、二人は使う者、使われる者の関係になった。ミルが主を得た今、三人は[災塊]に仕掛けるという最も有効な一手を選択することができる。

「イルカネを主として得た、儂の力を開放する。それによって、この街に災いをもたらす[災塊]をぶん殴りに行くのじゃ」

 ミルはイルカネを見上げる。

「それが、最も簡単で、単純明快な、解決法と言う奴じゃ」

「確かに、な」

 ミルの言葉に、イルカネは答える。

「それがもっともいいだろうな。…が」

 そこで、イルカネは腕を組んで少し考える。そして、言う。

「…ここは、報酬出ないんだよな?」

「はい?まぁ、出ないなのですね。今発生したばかりの[奇災]解決の報酬金が、街から出たりはしないです。そもそもここは出すところもないので」

 ここは[マガヒー]が一定数住んでいるだけの小さな街だ。

 である以上、イルカネが言っている、大きな都市で出されているような報酬金を出せるようなところがそもそも存在しない。

 そのため、ここでの[奇災]を解決したところで、得られるのは元に戻った市民の感謝の言葉と僅かな物品が精々だろう。

「…だよな。報酬は出ない。ミルの力と言うのを試してみたいのはあるが、報酬が出ないのはな…。だったらこのまま逃げるのも…」

(…さて)

 ミコは目を細める。

(これは良くないなのですね)

 イルカネは報酬が出ないことで目の前の[奇災]の対応に迷いを見せている。

 だが、確実にマシンガンゾンビが迫っている以上、悠長に迷っている暇はないし、 万が一逃げる方向に行かれても困る。

 全ての[奇災]を解決したいミコとしては、そうなられるわけにはいかない。

(…では、仕方ないなのですね)

 ミコは、必要と思ったことを、躊躇わず実行する。

「イルカネ。報酬なのですが、私が出しましょう」

「…なに?それはホントか?」

 急に食いつきが良くなったイルカネに、ミコは頷き、続ける。

「先ほど奮発した以上、やや少ないなのですけどね。ですが、確実に出しましょう。だから、やるなのですね」

「この[奇災]の解決を、じゃな。の、主様よ?」

 ミルは、念を押すようにイルカネに言う。

 それに彼は、一瞬考えた後、答える。

「…いいだろう。少ないとはいえ、報酬は出る。力を試せるし、やろうじゃないか!」

「では、早速、行動を開始するなのですね」

 ミコは、徐々に街並みの中に見え始めるマシンガンゾンビを視界の端に捉えつつ、言う。

 イルカネはそれに頷き、

「だな。…で、ミル。どうやればお前の力とやらを開放できる?」

「あ、そりゃ簡単じゃよ」

 言って、ミルはイルカネの真正面に立つ。

「ほれ、少し顔を下げよ」

「?あ、ああ…」

 とりあえず言われるがままに頭を下げるイルカネ。

 そこにミルは…いきなりキスをした。

「なぁ…!?」

 瞬間的に、イルカネの顔は真っ赤になる。

 が、それは気にせずミルは己の口を話し、彼の両手に手を添えて言い出す。

「…儂は、今ここに契約しよう。

 全ての災い祓う我、道具たる我は、そなたを主と認め、使われるものとなる。

 使い手たるそなたは、全ての災いを祓うものとなれ。

 我を振るい、この神気と共に、そのために行くことを、誓え…」

「あ、ああ…?ち、誓う…」

 未だキスの衝撃が抜けない中、イルカネはほぼ流されるがままにそう言う。

 それに、ミルはにっこりと笑い、

「…これにて契約は完了。では、儂を使うが良い」

 その言葉の直後、ミルは軽く飛び跳ね……イルカネに再びにキスをする。

「…!?」

 それは、一度目のものと同じではない。今のものは一度目の口と頬ではなく、口と口。マウストゥマウスの、恋人同士がするようなものだ。

 ただでさえ頬にキスをされて動揺していたのに、さらにそんなことをされ、イルカネの動揺は最高潮に達する。

「むぅ…!?!?」

「おお。大胆なのですね」

 それを、完全に傍観者の意識でミコが見る中、突如ミルの姿に変化が起きる。

「!これは…」

 思わず呟き、ミコが見る中、ミルの纏う神気が金の輝きとなってあたりを包む。


「グパッパパパパ!?」


 突如発生した眩い光に、根本的にはただの市民であるマシンガンゾンビ達は驚き、思わず目を覆う。

 そして、そんなことが起こる最中、ミコの目の前で光は収束していき、イルカネの姿が見えてくる。

「……?こいつは…」

 イルカネは首を傾げ、先ほどまでミルの小さな手が添えられていた両手を見る。

 そこには、金色の光を薄っすらと纏った樹のような、鋏の片割れのような、剣でもあるような不思議な物体が握られている。

 そして、それを持つイルカネの上半身には、ミルが着ていたしめ縄のようなものが幾らかついている。

「これはまた不思議なのですね」

 イルカネの変化を見、ミコはそう呟く。

 同時に、イルカネの周囲から声が発せられた。

『その手にあるものが、解放された儂の力の一つじゃ』

「!?ど、どこから喋っている、キス魔!」

 突如として発せられた声に、イルカネはあたりを見回す。

 そんな彼に、声が響く。

『儂はお主の周囲の空間から喋っておる。意識だけ、お主の周囲に漂っておる感じじゃな。体はその武器、みたいなものになっとる。どうやらこれが、儂が力を開放した形態のようじゃな』

「…そ、そうなのか?」

「なのですね?」

『じゃな。儂も初めての事じゃから、あんまり事細かな説明も出来んがの。とにかく、この形態になった今、イルカネは儂の力が自由に使えるのじゃ』

「…なるほどなのですね。それで、どうすれば?」

『のじゃ。イルカネよ。その剣…サキノツルギを掲げ、振れ。それでミコ含めて、見える(・・・)ようになるのじゃ!』

 そう言うミルに、イルカネは戸惑いつつも従う。

「ええい、なんか発動しろ、力とやらー!」

 少しヤケクソ気味に、イルカネは剣を掲げ、思い切り宙に振り下ろす。

 すると、剣が纏っていた光があたりに拡散する。

 同時、一瞬空間が切り裂かれたかのように裂け目を生じさせて歪み、その直後…あるものが出現する。


 ‥‥ ‥‥… …


「あれは…!」

 ミコは見る。空の一角、二人(三人)がいる方へやや近い位置の街の真上に、浮かぶものがある。

 完全とまで言えないが、限りなく完全な球体に近い、全てを飲み込む漆黒の色をした大きな球が、空に三つ。一か所に集まり、一塊となったそれらが、目に見えて分かるぐらいに震えながら、全てを見下ろすように存在しているのを、ミコは知覚する。

「まさか、あれは…」

 ミルの持つ力と、それを振るう行為、さらにはそれらによって出現したこと。そこから、ミコは三つの漆黒球の正体を悟る。

 そして、同じように悟ったらしいミルは言う。

『どうやら、そのようじゃな。あれこそが[災塊]。ミコが、我らが祓うべきこの奇妙なる災害の元凶であり、災い・不幸の原因存在じゃ!』

 

 …  …… …  ‥‥

 ‥‥  …

     …… …


 三つの漆黒球…[災塊]はそこにある。

 活性化した状態で、普通は見えないその姿を晒し、存在している。

「あれか。あれを思い切り叩けばこの[奇災]が収まると言うことか!」

『そうじゃ!それで全て終わるはずじゃ!』

「なのですね。…しかし、あんな高いところにどうやって…」

 [災塊]は地上八階ぐらいの高さのところに浮かんでいる。

 しかし、周囲の建物はほぼ全て民家であることも相まって一番高くても三階が精々だ。

 近くには丘も、高い木もなく、明らかにあの[災塊]のところまで行くことはできない。

 そう思ってのミコの言葉に、ミルは素早く応える。

『大丈夫じゃ!儂の力は、これだけではない。イルカネ!』

「なに!?」

『叫び、呼ぶのじゃ!ツバサと!』

「ツバサ…!?」

『そうじゃ!それでもって、儂の第二の力が解放される!』

 急な言葉に戸惑いつつも、二度目であることも相まって、イルカネはすぐに答える。

「…いいだろう、ツバサ!開放でも何でもされろぉぉぉ!」

 イルカネは叫び、剣をなんとなしに掲げる、その瞬間だ。

 彼の周囲、ミコも取り巻く空間で剣の纏う光が渦巻き、変化が起きる。

 そうしてすぐに、二人の足元にあるものができあがる。

 …それは。

『のじゃー!』

 両腕に翼が生えた、ミルに似た顔つきの鳥にも似た生き物だ。

 それは二人を背に乗せた状態で、寝起きのように体を伸ばす。

『これが儂の第二の力。空の[災塊]に向かうためのツバサじゃよ!』

 イルカネとミコの周囲より、ミルの声が響く。

 それに反応するように、ツバサは小さく鳴き声を上げ、二人の重量をものともせずに体を起こす。

「…ほほう。足になるものをつくる、か。便利だな」

「確かに」

 イルカネの言葉に頷きつつ、ミコは思う。

(…もしかして、[リーチュ]でつかった鋏とか翼って、これらのために?粘土と藁人形はミルの体用?)

 [リーチュ]で求められたあの意味の分からない素材にも、もしかしたら意味があったのかもしれない。

 ミコは一瞬そんなことを思う。

「…それはともかく。これなら」

 [災塊]の在処、姿は暴いた。

 宙高くあるそれらに向かうための足もできた。

 条件は、全てクリアされている。

「ミル、イルカネ。これならば、行けますね。あの[災塊]を叩きに」

『じゃな』

「だな」

 ミコの言葉に、二人は肯定の返事をする。

 それを受け、ミコは空の[災塊]を見据える。

 それから、力強く言った。

「ならば、二人とも。行きましょう、この街を襲う[奇災]を祓いに!」

 そして、彼女らは飛び立つ。

 災いの源へと。

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