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私の勇者様 ~勇者育成計画~  作者: 荒木 リザ
第四章 魔界進攻編
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第七十二話 

 竜也達は、再び作戦司令部のテントに帰っていた。水晶球を使った監視カメラの用意が出来たとの報告を受けたからだ。


 指揮机に無数に置かれた水晶球には、各箇所の様子が映し出されている。水晶球の一つ一つには、地図に書き込んである座標が振られていて、一目でどこの場所の様子か分かる様になっていた。


 その様子に、竜也は満足気に頷く。ここまで鉄壁に陣を引けば、再び魔物の軍団が攻めて来ようとも、そう易々と突破はされないだろう。


 そう思い掛けて、変なフラグは立てない方が良いと思い直し、気を引き締め直す。


 水晶球の他には、指揮机の奥にロベリアの『将軍ジェネラル』の技能スキルによって作り出された3Dマップが掲げられていた。テントの幅まで目一杯に引き延ばされていて、幾何かは見やすく改善されている様だった。


 その3Dマップには常時、敵味方の動向が映し出されている。竜也は、そのマップに映し出された黄色い点と、青色の点の様子を眺める。遥か東方に緑色の点が存在している事も確認できる。国家象徴色ナショナルカラーが緑色であるオセリア連邦の使い魔の様子だけでなく、地図を縮小さえすれば世界のすべてが映し出せた。


 ローレンスの使い魔である鷹のハヤトからの高々度探査のおかげだった。なんと成層圏ギリギリまでの飛行が可能だというのだ。


 現実世界で、最も高々度を飛ぶ鳥として知られる姉羽鶴アネハヅルもビックリの飛行高度だった。


 しかし、その性能をもってしても魔族の動向を伺えないのだ。その気になれば、全世界の知らない土地の様子や、もっと拡大して人々の様子まで確認できるのに、まったく姿が映し出せないというのは不気味ですらあった。


 嗅覚や聴覚での探査は、流石に距離に限界がある。隠密の基本である【姿隠し】(インビジビリティー)と【忍び歩き(スニーキング)】そして【消臭】(デオドライザー)を高次元で使いこなす敵の存在は、やはり油断できない。


 そう思い直し、緩みかけた気を引き締め直していると、ローレンスがやって来た。


 侯爵令嬢であるローレンスだが、威厳と気品に満ちたシェリルや、しっかり者のミルドレッドと違って、かなり気弱そうに見える。たれ目がその印象に拍車をかけていた。


 ローレンスは、作戦司令部であるテントの中を見回す。テントの中には、ロベリアの他にエレーナ、竜也、スティーブン、クリスティナが居た。その面々を見回しながら怖々といった感じで挨拶をする。


「そんなにかしこまらなくて良い。用件を聞こう」


 ローレンスは、それでも恐る恐るといった感じで話し始める。


「先程、私の使い魔のハヤトから連絡があったのですが、ウリシュラ帝国南西部の都市ハウゼンに、兵が続々と集まっていると報告がありました。ハウゼンより直接コルネホ山脈に進軍は出来ないと思いますが、ミューレ山脈を越えてコスタクルタ領へ進軍してくる恐れがある為、報告に参りました」


 竜也は、3Dマップを一旦ピンチインして縮小し、世界全土が見えるようにする。北方部をタップして焦点をウリシュラ帝国領に合わせる。ある程度ピンチアウトして拡大してからエレーナに視線を向ける。


 エレーナに思念で位置座標を教えてもらうと、そこに焦点を合わせて拡大していく。ハウゼンとおぼしき都市景観の様子が見えてくる。そこに焦点を合わせながら、どんどん拡大していく。


 人々が街路を行きかう様子が見えてくる。さらに拡大していく。人々の顔の表情までもが鮮明に映し出された。


 元の世界の、どんなマップサイトでも、ここまで高性能な事は出来ない。竜也は唖然あぜんとしながら、その街並みや人々の様子を眺めていた。


「なるほど……。確かに兵が集まって来ているな。コスタクルタ本国とミューレ山脈の国境警備隊に伝令を出そう」


 ロベリアは、指揮机上に置いてある鈴を鳴らした。すぐさまテント前に控えていた兵士が中に入ってくる。


「アマンチャを呼んでくれ」


 兵士が恭しくこうべを垂れてテントを出て行く。


「ミューレ山脈って?」


 竜也は、初めて聞く山脈の名前をエレーナに尋ねる。


「コスタクルタ王国と、ウリシュラ帝国を隔てている山脈よ。大陸の北西から中央部に向かって伸びている山脈で、魔力を秘めた魔晶石や、水晶球、ガラスの原料となる石英や珪石けいせきが豊富に取れるのよ。ちなみに、この山脈もコスタクルタ王国の領土なのだけど、ウリシュラ帝国も領有権を主張していて小競り合いが絶えないわね」


 竜也は理解したというように頷く。次にハウゼンと呼ばれる都市について、もっと詳細を聞こうとした時に、アマンチャがやって来てしまった。


「お呼びでしょうか?」


 アマンチャは学院式の優雅な挨拶では無く、軍隊式の片膝を地に付ける挨拶をして来る。軍隊に馴染んでいる様だった。


「お主の使い魔に、伝令を頼みたい」


 ロベリアは小さな水晶球を手渡す。書簡のような物だった。


「これをコスタクルタ城に居るサリアに渡してもらえるかな?」

「お任せ下さい」


 アマンチャの肩に、ツバメのショウタが飛来する。ショウタは水晶球を口にくわえると、そのまま飲み込んだ。


 竜也が唖然あぜんとする中、ショウタはコスタクルタ城に向かって飛び立って行った。


「ショウタのスピードは軽くマッハ二を超えます。口に物を咥えたままだと、空気抵抗が大きすぎて空を飛べないのです」


 竜也の表情から疑問を読み取ったアマンチャが釈明をする。


 竜也は唖然あぜんを通り越して愕然がくぜんとなっていた。気圧や温度によって音速は変わるので、実際にはどれだけのスピードが出ているのか分からないが、少なくても千kmは出ている筈だ。マッハ二という事は、時速二千kmという事になる。ソニックブームを発生させながら飛翔するツバメというものを想像して脳味噌のうみそが昇天しかける。


 しかしよく考えてみたら、どんな物にでも穴をあけられるモグラや、雨を降らせる事が出来るカエル等、みんな特殊能力は凄まじい物を持っているのだ。

 その中で、何も特殊能力を持っていない自分というものをかんがみて、たまれない気持ちになる。


 竜也の様子が、非常に沈んだ物になってしまったので、周りの皆は不思議そうに彼を見やる。


「どうしたの?」


 エレーナが、心配気に声を掛ける。


「いや……。特殊能力を何も持ってない自分が恥ずかしくなってね……」

「何を言ってるんだい……」


 項垂うなだれる竜也に声を掛けたのは、有翼猫ウイングキャットのミノルだった。いつの間に現れたのか、クリスティナの足元でくつろいでいた。


「キミは、とんでもない技能スキルを持ってるじゃないか。どんな修業をすれば、そんな技能スキルが身に付くのか、世の男性全員が知りたいと思ってる筈だよ」


 ミノルは気怠けだるげに起き上がると、前足を伸ばして大きく伸びをした。それから竜也の真正面にチョコンと行儀よく座り直すと、まじまじと竜也を見上げる。その眼が大きく見開かれる。


「おっぱい鑑定二級って、昨日よりランクが上がってるじゃないか!」


 ロベリアは、3Dマップをメニュー画面に戻し、竜也のステータス画面に切り替えると、問題の技能スキルの欄を凝視する。確かにおっぱい鑑定の技能スキルは二級になっていた。


 意を決して特殊技能である所の『おっぱい鑑定 二級』の欄をタップする。


 —— エクストラスキル。ブラジャーを触っただけで、誰の持ち物か識別できる。


 その文章を読んだエレーナは、全ての物を焼き尽くしてしまいそうな憤怒の視線を竜也に向ける。自分はブラジャーを付けていないのだ。いったい何処で誰の物で、そんな修行をしていたのか問い詰めてやりたくて仕方が無かった。


 竜也は、此方こちらの世界の標準語を読めない。なんて書いてあるのか気になったが、エレーナの様子から恐れ多くて聞く事は出来なかった。


 しかし、だいたいなんて書いてあるのかは理解していた。その能力を使って、五十二枚のカードの中から一枚のカードを引き当てたのだから……。


 正確にはブラジャーでなくても、おっぱいに触れていた物なら何でも良いのだ。そのぬくもりから誰のものか判別できるのだ。

 その能力を逆利用して、胸の谷間から取り出されたカードを探り当てたのだった。


 かすみがかかっていた記憶が、鮮明に呼び覚まされる。夢だと思っていた出来事が、現実味を帯びて思い出された。


 —— あのおっぱいの感触は、本物だったのか……?


 まずショックを受けたのは、その事柄だった。神様が居た事とか、チート能力をもらい損ねたとかでは無かった。


 —— どのおっぱいの感触ですって……?


 エレーナは、竜也の記憶からロリ巨乳娘のおっぱいをつついていた事を読み取っていた。


 —— いや、あれは夢の話だよ。


 竜也は慌てて言い訳をする。核弾頭のミサイル発射ボタンが、あんなに軽い筈が無い。おっぱい鑑定三級……いや、二級の名に懸けて、あのおっぱいの感触は夢での出来事だと断定していた。


 竜也は知らなかった。あのおっぱいは偽物であるが故に、本物の感触では無かった事に……。


 —— 私の思念が感じ取れなかったからと言って、貴方は、いったい何をやっているのかしら!


 エレーナは、竜也の頬をつねり上げる。


「痛いイタイ……。本当にアレは夢での出来事なんだよっ!」

「夢でも何でも、私以外の胸に触る事はおろか、見つめる事も許しません!」


 テント内に居る皆は、大画面に映し出されたエクストラスキルの説明と、二人の様子を冷やかな視線で見つめながら溜め息を吐いていた。

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