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優夜と花  作者: 瑞代 杏
16/18

15.田舎でのひととき

 ――ああ、なんて静かなんだろうか。

 小鳥のさえずり、虫が奏でる音はあるが、街にはない静けさがある。

 水を一口飲む……家のとは比べ物にならん良い味だ。

「あはは! 優夜ー!」

 こっちに手を振っている花に手を振り返してやる。

 花は、今までにないくらいの満面の笑顔で、木にとまっている虫を眺めている。

 あ、花の周りを飛んでいる蝶を追いかけてった、平和だねぇ……。

「優夜や、西瓜切ってきたんばってくだな?(優夜、西瓜切ってきたんだけど食べるか?)」

「ああ、いいな。いただくよ、婆ちゃん」

 婆ちゃんから受け取ったスイカを一口齧る。

 うん、季節的にまだ早いからそれほど甘くないかもしれないと思ったが、十分に甘い。

「甘くて美味いな」

「んだな? いがったいがった。お代わりはまだまだあるはんで、ずっぱどけの(そうか? よかったよかった。お代わりはまだまだあるから、いっぱい食べてな)」

「ああ、遠慮なくもらうよ」

 婆ちゃんが渡してくれた、ふた切れ目のスイカにムシャムシャやりながら花を見る。

 ――俺達は、土日の連休を利用してお袋方の爺ちゃん婆ちゃん家に避暑もかねて遊びにきていた。

 こっちのほうが山に近い分涼しくて、夏の間は過ごしやすいからだ。

 冬になると寒さが堪えるが、それでも雪かきや雪遊びが楽しめるので悪いものじゃないが。

 親父のほうの実家にも行きたいところだが、少し遠いので夏休みとかのほうがいいだろう。

「優夜や、望美のぞみしげるは元気さしてらな?(優夜、望美や茂は元気にしてるか?)」

「ん、親父とお袋か?」

「んだ(そうだ)」

「お袋は分からんけど親父は元気そうだったよ。この前、花のことで話したけどさ」

「んだな。まったぐ、茂もたまさは、電話の一本ぐれ入れろ、どかっちゃがへってたって伝えてぐれな?(そうか。まったく、茂もたまには、電話の一本くらい入れろ、と母が言っていたと伝えてくれるか?)」

「ははは、言っておくよ」

「お願いすら(お願いするわ)」

 婆ちゃんは、そのまま視線を花に向ける――俺も釣られて花を見る。

 花は、まだ花の周りの蝶と戯れていた。

「花ちゃんの……茂はあのわらしば何んぼすらつもりなのかきゃ……(花ちゃんか……茂はあの子とどんな感じで知り合ったのかね……)」

 花を見ている婆ちゃんの目がわずかに細くなる、怒っているのか?

 いや、違うな……親父が何を考えているのか分からないだけだ。

 幾ら親子といえども、数年も会ってなければ勘や諸々も鈍るというものだろう。

 だが、俺は――

「俺も、親父が何を考えているかは分かんねぇけど、あいつを不幸にするためとか……そういうのじゃないのは確かだと思うんだ」

「んだか? わさはよぐわがんねが(そうか? 私じゃよく分からないが)」

「俺も、よくは分からねぇよ。ただ、花の表情を見てるとそんな気がするんだ」

 俺は、ただ楽しそうに蝶と戯れる花を見る。

 ――俺の家に来たばっかりの花は、表情の起伏がとても少ない女の子だった。

 それが、山本や疋田達と出会い、遊び――様々な場所に出かけるようになってから、こんなにも表情を表に出すようになった、それは……とても良いことじゃないか。

 親父が何を考えているかは早めに知りたいが、そこまで慌てることもない、と俺は思っている。

「……優夜がへるんだばんだんだべな。だば――(優夜が言うならそうなんだろうな。では――)」

 婆ちゃんはすっくと立ち上がって、

「花ちゃんやー! 西瓜あるはんでかなー!(花ちゃん! 西瓜あるから食べなー!)」

 70近いご老人とは思えない大きな声で花を呼んだ。

「あ、はーい! 今行きまーす!」

 いつものトテトテ走りでこっちに向かってくる花。

 思うんだが、あの走り方でよくコケないと感心するわ……。

「優夜んど今日はうちさ泊まっていぐんだべ? だば、わは先にえの中に入ってまんま作らないとだの(優夜達、今日はうちに泊まっていくんだろう? なら、私は先に家入って夕飯作らないとな)」

 婆ちゃんと入れ替わるようにして、花が俺の前に駆け寄ってくる?

「はぁはぁ、お待たせしました。あれ? おばあちゃんはどこへ?」

「メシ作るからって花と入れ替わりに家ン中入っちまったよ。今日のメシはきっと豪勢だから楽しみにな!」

「えー、がっかりです……花もおばあちゃんとお話したかったのに……」

 がっくりと頭を垂れる花を、俺は苦笑しながらも軽く撫でてやる。

「なにしょぼくれてんだ、メシの後に幾らでも話せるだろ? うりうりー」

 くしゃくしゃ――

「わ、なにするんですか、優夜! やめてくださいー!」

「はっはっは!」

「うー……花の髪がぐちゃぐちゃになってしまいました! 優夜っ、ばつとして花と遊んでください!!」

「はいはい、仰せのままに。お姫様」

 わざとらしく恭しい態度を取る俺。

「むーっ、なんかくやしいからこうしてやります!」

 むにーっ!

「イテテテテッ!!」

 コラッ! ホッペを引っ張るなっ!

「これくらいでゆるしてあげます」

「痛ってぇな……」

 さすが花、ホッペが千切れるかと思ったぞ……すぐに解放してもらえたが痛みは暫く続きそうだ。

「ふう、すっきりしました。さぁ、優夜。花と遊んでくださいね」

「ああ。なぁ、花?」

 俺は立ちあがって花を見る。

「はい?」

ここ(・ ・)は楽しいか?」

 俺の問いに花は――

「――はいっ!」

 夕日に照らされる花々に負けない笑顔で頷き、俺の手を引いて花畑に走り出す。

 日が暮れて、婆ちゃんが呼びに来るまで俺達は遊んでいた。




 ――この後の夕食時、仕事から帰ってきた爺ちゃんが花をえらく気に入ってしまった勢いで酒を飲ませて、そのときにまた一騒動あったんだが……それはまた別の機会に語るとしよう。

えー、作中の津軽弁ですが……突っ込みはナシでお願いします(汗

一応私と面識がある方々のを参考にしてますが、北津軽弁と弘前津軽弁が混じってます。あと、表現できなかった箇所もありますのでそこも少しおかしくなっているかもしれません。

というか、自分の出生地の方言とはいえ、こんなに難解だとは思いませんでした……。


何はともあれ、これでおでかけ編は終了です。

今回は少しお待たせしてしまってすみませんでした。

16~20は多分、花が興味を持ったものに関することを書いていくと思います。

よろしければ、引き続きお付き合いくださいませ。

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