16.花と時代劇
「ただいまー」
……ん? 今日は静かだな。
というより、いつもならトテトテとやってくるはずの花が来ないな……むっ――
「……蜜柑?」
シュルルと飛んできた物体を掴んでみれば、それは酸っぱい夏の蜜柑。
てか、食べ物を粗末にしちゃいけません!
む? 花のヤツ、あんなところに隠れてやがる……バレバレなんだが何してんだ?
「……」
テレビの音が聞こえるな……これは――ははぁ、そういうことか。
ま、合わせてやるか。
「――むっ! 何奴!?」
悪役っぽい声色を作って、蜜柑が飛んできた方向に目を向けてやる。
ゆっくりとガラス戸の横から登場する花、威厳を見せるようにやってるんだろうが絶望的に似合ってねぇ……。
「ぷっ!」
「な、何がおかしいんですかっ!?」
「悪ぃ悪ぃ。それより、次は花の台詞だぞ?」
「あ、そうですね。えーと……おろかものっ! 余の顔を見忘れましたかっ!!」
無理矢理繋げるな……しっかし、ホント似合わんよな……こんな可愛い上様どこにもいねぇって!
「余? 余じゃと……はっ!? そのお顔はまさか――上様じゃ!? ははぁー!!」
とりあえず口だけ言っとくか、花も気にしてないようだしな。
「高橋屋優夜乃彦左衛門、そのほう……えーと……んー……何にしましょう?」
「ズコーッ!」
「んー?」
思わず口に出しちまったじゃねぇか!
「ああ、罪状か? 別になんでもいいんじゃねぇか?」
「そうですか? じゃあ……そのほう、きのう花のラムレーズン・アイスを食べてしまった罪、断じて赦せません! いさぎよく腹を斬りなさいっ!!」
軽犯罪以下で切腹だった! つか……――
「罪をでっち上げるな! 昨日アイスなんてどっちも食べてねぇだろが!!」
「えー、なんでもいいって優夜言ったじゃないですか」
「そりゃ、言ったけどよ……実際ある罪にしろよ!」
「むー……優夜ならやりかねないからこれでいいんですっ!」
この女、あとでシメてやろうかぃ!?
……まぁ、いいがな。
「チッ、しゃーねぇな。う……上様が、かような場所に来られる筈がない! 者ども、出あえ出あえぃ!! ――此奴は上様の名を騙る偽者じゃ! 斬れぃ! 斬り捨てぃ!! ――と続くんだが2人しかいないから無理だな、時代劇見てたのか?」
「おかえりなさい、優夜。はい、今ちょうど『暴れん○将軍拾』が再放送されていたので」
「ただいま、花。ああ、暴れ○坊将軍拾か。確か……シリーズ最終だったなー」
結構好きだったんだが、長すぎてネタ切れしたのか、それとも何かのイザコザがあったのか知らんが明らかにおかしい終わり方したシリーズだ。
つか、花時代劇好きだったのか……食玩の件といい、ホント趣味が渋いよな、花は。
「これから『必殺○事人弐』やるみたいです。優夜もいっしょに見ませんか?」
「お、いいねぇ。じゃ、俺は茶淹れ直すわ。渋い番組には渋いお茶、だろ?」
「いいですねー。花は番茶でおねがいします」
「あいよ。俺も番茶にしようっと」
ごそごそっと、番茶の葉っぱあったっけなー。
――その後、見終わって。
「よし、明日は『殺しの場面』で優夜をむかえてあげますっ」
「マジで勘弁してください……」
はぁ……また明日も似たようなモンやるのかよ……。
そう溜息を吐きながら、少しげんなりしている俺だった。
「次から『小さな暴れん坊将軍』が始まります」
「嘘だっ!!」
今回短めです、4以来の3kb以内だったりします。




