第7話 冷徹なる共犯者
証拠は集まりつつあった。
しかし、これらをただ公表するだけでは足りない。
相手は現職の貴族と、その息のかかった悪徳商人。地方の裁判所に持ち込んでも、握りつぶされる恐れがある。
必要なのは、教会の権威にも、地方貴族の圧力にも屈しない、中央の絶対的な「法の執行者」。
翌日、私は「実母の墓参り」と称して、一人で王都の中央神殿へと足を運んだ。
みすぼらしい平民のようなフード付きの外套を羽織り、向かったのは神殿の奥にある貴族専用の法務記録所。
そこに、男がいた。
黒い法官服に身を包み、書類の山に向き合っていた青年。
ヴィンセント・フォン・ラドクリフ侯爵。
若くして王立最高裁判所の首席判事代行を務め、「情実を一切挟まぬ冷血の天秤」と恐れられる男。
「……何の用だ。ここは一般の陳情を受け付ける場所ではない」
ヴィンセントは顔も上げず、冷ややかに告げた。
銀髪を後ろで撫で付け、銀縁の眼鏡の奥から覗く藍色の瞳は、刃物のように鋭い。
私はフードを外し、静かに一歩前へ進み出た。
気弱な令嬢の声音は、どこにもなかった。
「陳情ではありません、ラドクリフ閣下。……極上の告発案件を、持ち込みに参りました」
ヴィンセントの眉が、わずかにピクリと動いた。
彼が顔を上げた瞬間、私は懐から取り出した一枚の硝子板を、彼の机の上に静かに滑らせた。
そこには、「真実の反射鏡」から転写した、義母と闇金業者の裏契約書、そして偽造委任状の全容が、鮮明な光の文字となって浮かび上がっていた。
「……これは?」
ヴィンセントの藍色の瞳が、驚愕で見開かれた。
「アンバーク子爵家の財産横領、ならびにランカスター伯爵家による殺人予備・冤罪工作の証拠です」
私は冷徹に、寸分の狂いもない論理で告げた。
「来週の王宮大夜会にて、彼らは私を毒殺未遂の罪で断罪する予定です。……閣下。法の手続きに従って、彼らを一網打尽にする罠に、一枚噛んでいただけませんか?」
冷血の裁判官が、初めて眼鏡の位置を直し、私を値踏みするように見つめた。
その薄い唇に、獲物を見出した獣のような、残酷で美しい笑みが浮かんだ。
「……面白い。詳しく聞かせてもらおうか、アンバーク令嬢」




