第4話 鏡の眼
翌朝。
私はいつも通りの、色褪せた灰色の普段着に身を包んでいた。
髪もわざと地味にまとめ、視線を斜め下に落とし、怯えた気弱な令嬢の仮面を完璧に被り直す。
「クララ、朝のお茶がぬるいわよ! 淹れ直しなさい!」
食堂のテーブルで、義母ガートルードが甲高い声を張り上げた。
「も、申し訳ありません、お義母様……すぐにお持ちします……」
私は消え入りそうな声で縮こまり、ティーポットを手に取った。
その拍子に、エプロンのポケットに忍ばせた「真実の反射鏡」の角度を、わずかに義母の顔へと向けた。
ポケットの内側で、鏡面が微かに熱を帯びる。
私の視界に、不思議な文字が浮かび上がった。
義母の頭上に、インクの文字が滲むように現れていたのだ。
鏡が視覚を通じて脳内に投影している、対象の「本音の独白」だった。
『——まったく、ノロマな娘。今日、高利貸しのドレクスラーが屋敷に来るわ。あいつの母親の持参金口座から、また三千ゴールド引き出させなきゃ。印鑑の隠し場所は突き止めたから、あとはあいつに委任状へ無理やりサインさせるだけよ』
(へえ……高利貸しから借金までして贅沢をしていたのね)
私は伏せた睫毛の奥で、冷ややかに唇の端を歪めた。
表面上は怯えたように震える手で紅茶を注ぎ、深々とお辞儀をする。
「お義母様、本日は午後から来客の予定があると伺いましたが、お茶菓子は何を用意いたしましょうか」
「お前が知る必要はありません! 自分の部屋に籠もって刺繍でもしていなさい!」
「……はい、かしこまりました」
部屋を出た私は、廊下の陰で手鏡を取り出した。
鏡面には、義母が自室の金庫に隠している「裏帳簿」の保管場所と、ダイヤル鍵の番号が、克明な映像となって再生されていた。
「すごいわ……。見たこともない部屋の中まで、ガラスを通じて見通せるのね」
『当然です』
鏡が涼やかに告げる。
『光が反射する場所、ガラスや水面がある場所ならば、世界中のどこであれ我の視界の内にあります。……さらに、過去の記録を定着させ、別の鏡へ転送することも可能です』
「別の鏡へ……?」
私の頭の中で、一つの完璧なシナリオが音を立てて組み上がり始めた。




