第30話 真実の鏡の微笑み
初夏の爽やかな風が、アンバーク領の丘を吹き抜けていた。
教会で執り行われた、私とヴィンセントの結婚式。
集まった領民たちの祝福の歓声と、青空に鳴り響く鐘の音。
純白のウェディングドレスに身を包んだ私の左手薬指には、ヴィンセントから贈られた、青く澄み渡る大粒のサファイアの指輪が光っていた。
控室の大きな姿見の前で、私は一人、ドレスの裾を整えた。
鏡の中に映っているのは、もう誰かの顔色を窺い、震えて耐えるだけの気弱な令嬢ではない。
自らの足で立ち、悪を討ち滅ぼし、愛する人と共に未来を切り拓く、誇り高い一人の女性の姿だった。
胸元の銀の手鏡を取り出し、姿見の前にかざす。
鏡面が、ふわりと温かな金色の光を放った。
『——契約満了。契約者の魂は、真実の幸福を獲得せり』
頭の中に響いた澄んだ声とともに、手鏡の枠に施されていた薔薇の蔓が、美しい純金の輝きへと変化した。
扉が開き、正装を纏ったヴィンセントが迎えにやってくる。
「行こうか、クララ」
「ええ、ヴィンセント」
私は手鏡を愛おしそうにドレスのポケットに忍ばせ、差し出された最愛の夫の手をとった。
我慢の季節は、完全に終わった。
光り輝く新しい世界へと、私は誇り高く、確かな一歩を踏み出していった。
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