第27話 冷血判事の求婚
「それで……これからどうするつもりだ、クララ」
初めて、彼が私の役職ではなく名前を呼んだ。
その声音には、冷徹な判事の響きはなく、一人の男としての、熱く不器用な感情が滲んでいた。
「まずは荒れ果てた領地の立て直しです。義母たちが使い込んだ帳簿を洗い出し、民のために正しい投資を行わなければなりません」
「手伝おう」
「……はい?」
ヴィンセントが一歩、間合いを詰めた。
夜風に乗って、上質な白檀の香りと男の熱い気配が私を包み込む。
彼の手が伸び、私の手すりに置かれていた手を、自らの大きな掌で包み込んだ。
「アンバーク領の法制度改革、財政再建……我がラドクリフ侯爵家の全リソースを自由に使って構わない。君の知性と、私の力があれば、王国で最も豊かな領地を築ける」
「それは……あまりにも破格の条件ですわ。対価として、私に何を求められるのですか?」
私が眉を上げると、ヴィンセントはふっと自嘲気味に口元を緩めた。
そして、その鋭く美しい瞳を、熱い情熱で細めた。
「私の妻の座だ」
「……え?」
「君という、美しく、恐ろしく、そして誇り高い女性を……誰の手にも渡したくない。私の生涯の唯一の相棒として、傍らに囲い込みたいのだ」
冷血と恐れられた男の、あまりにも情熱的で、重い告白。
私の心臓が、夜会のどんな騒乱よりも激しく跳ね上がった。




