第19話 冷血判事の介入
「——待たれよ」
低く、氷を割るような怜悧な声が、凍りついた広間に響き渡った。
壇上の貴賓席から、黒い法官服を翻して歩み出てきた男。
ヴィンセント・フォン・ラドクリフ侯爵。
彼が歩を進めるだけで、貴族たちが畏怖して左右に道を開ける。
アルフレッドの顔に、わずかな苛立ちと警戒が走った。
「ラドクリフ閣下……? これは我が伯爵家とアンバーク子爵家の身内の不祥事。司法院が口を挟む筋合いは——」
「王宮の夜会における毒物使用は、王室治安維持法に抵触する国家重大犯罪だ」
ヴィンセントは眼鏡を押し上げ、近衛兵の手にある青い小瓶を指先でつまみ上げた。
「ランカスター卿。貴殿はこれが『蒼海蛇の涙』という猛毒だと断定されたな?」
「あ、ああ、そうだ! その瓶の刻印を見れば分かる!」
「妙だな」
ヴィンセントは冷ややかに唇の端を吊り上げた。
「蒼海蛇の涙は、王立薬師院の指定特級毒物。一般の貴族令息が、なぜ瓶の形状を見ただけで即座にその毒物名を言い当てられるのだ?」
アルフレッドの喉が、ピクリと詰まった。
「そ、それは……以前、書物で読んだことがあったからだ!」
「ほう。では、その毒性を確認しよう」
ヴィンセントは躊躇なく小瓶の栓を抜き、鼻を近づけた。
そして、周囲の悲鳴を制するように、指先に一滴垂らすと——ペロリと舌先で舐めてみせた。
「閣下!?」
近衛隊長が叫ぶ。
だが、ヴィンセントは平然とした顔のまま、ハンカチで口元を拭った。
「……強烈な辛味。ただの濃縮ショウガ水だな」
「な……っ!?」
アルフレッドの顔から血の気が引いた。




