第16話 仕組まれた乾杯
管弦楽の調べが『鏡の間』に満ちていた。
高い吹き抜けの天井から吊り下げられた数十基のクリスタル・シャンデリアが、眩いばかりの光を床の大理石へと投げかけている。
給仕が銀のトレイを掲げて回る中、アルフレッドがわざとらしく二つのクリスタルグラスを取り上げた。
中には黄金色に泡立つシャンパン。
「エリス、そしてクララ。我がランカスター家とアンバーク家の結びつきを祝して、乾杯しようじゃないか」
アルフレッドの琥珀色の瞳の奥に、獲物を追い詰めた猟犬の光が宿っていた。
彼の手元、グラスのステムを握る親指の動きを、私の胸元の「真実の反射鏡」は見逃さなかった。
指先から、微粉末状の痺れ薬がエリスのグラスへと音もなく落とされる。
(……自作自演の毒殺劇の開幕ね)
エリスは猫のように愛らしい笑みを浮かべてグラスを受け取り、私を挑発するように一口喉を鳴らした。
「とても美味しいわ、アルフレッド様。お姉様もどうぞ?」
「あ、ありがとう……エリス……」
私は怯えたように震える手で自分のグラスを受け取り、唇を湿らせる真似だけをした。
アルフレッドが義母ガートルードへ目配せを送る。
ガートルードは扇子の陰で酷薄な笑みを浮かべ、壇上の近衛隊長へと近づいていくのが見えた。
罠の歯車は、彼らの思い描いた通りに回り始めていた。




