第15話 大夜会の幕開け
王宮の巨大な鉄扉が開き、馬車が車寄せへと滑り込んだ。
馬車を降りた瞬間、周囲の貴族たちの視線が一斉に私たちへ突き刺さった。
真紅のドレスで得意満面に胸を張るエリスと、その後ろを歩く、色褪せた灰色のドレスを着た私。
「見なさい、あれがアンバーク家の長女よ」
「まあ、本当に地味でみすぼらしい……妹の方ばかり着飾らせて、噂通り冷遇されているのね」
「アルフレッド卿が愛想を尽かすのも無理はないわ」
嘲笑と憐憫のささやき声。
エリスはその視線を羨望と勘違いし、ますます誇らしげに顎を上げた。
大広間——『鏡の間』へと足を踏み入れた瞬間、その圧倒的な光の洪水に息を呑んだ。
数十本の巨大なシャンデリアが放つ光が、壁面を埋め尽くす三十枚の大鏡に乱反射し、まるで光の神殿の中にいるかのような錯覚を覚える。
広間の最奥、一段高くなった壇上には、王室の席が設けられていた。
そしてその脇、法曹貴族の筆頭席に、黒の正装に身を包んだヴィンセントが立っていた。
彼の冷徹な藍色の瞳が、群衆の中の私を捉えた。
男は微かに、ほんのわずかに右の眉を上げ、合図を送ってきた。
(準備はすべて整った、と)
その時、人混みをかき分けて、白銀の礼装を着こなしたアルフレッドが歩み寄ってきた。
腰にはランカスター伯爵家の宝剣、胸元には偽りの笑み。
「エリス、今宵の君は世界で一番美しいよ」
アルフレッドは私の存在など視界に入っていないかのようにエリスの手を取り、その甲に口づけを落とした。
そして、わざとらしく私の方を振り返ると、侮蔑を隠そうともせずに吐き捨てた。
「……クララ。君も来ていたのか。その薄汚い格好で、我がランカスター家の名誉に泥を塗る気か? まあいい、今夜で君の役目も終わりだ」
「……はい、アルフレッド様」
私は消え入りそうな声で俯いた。
「本当に。今夜ですべてが終わりますわ」




