第14話 灰かぶりの出立
夕刻。馬車に乗る直前、ガートルードは私に一枚のドレスを投げつけた。
「これを着ていきなさい。王太子殿下の招待だからといって、身の程をわきまえぬ華美な格好は許しませんよ」
渡されたのは、三年前の型遅れの、色褪せた灰色のモスリンドレス。
装飾のレースは黄ばみ、裾にはほつれがあった。
対するエリスは、真紅のシルクに金糸の刺繍、胸元には偽物の大粒ルビーを輝かせ、まるで女王のように着飾っている。
「まあ、お姉様、本当にお似合いよ。まるでお屋敷のお掃除婦のようね!」
エリスが扇子を広げて嘲笑う。
「……ありがとうございます、エリス。お義母様」
私は大人しくその灰色のドレスに身を包んだ。
宝飾品は一切身につけず、髪もシンプルなシニヨンにまとめるだけ。
しかし、その胸元の合わせ目の奥深くには、銀の鎖に通した「真実の反射鏡」が、冷たい刃のように忍ばされていた。
王宮へ向かう馬車の中、義母とエリスはずっとアルフレッドとの甘い未来を語り合っていた。
私を一言も会話に交えず、まるで空気か荷物のように扱いながら。
馬車の窓ガラスに、夜の王都の街並みが映る。
窓ガラスの向こう、遠く王宮の尖塔が見えてきた。
『契約者よ。鏡の間の全反射面との同調、準備完了しております』
胸元の手鏡が、頭の中に直接囁きかけてきた。
「ありがとう。……今日で、すべてを終わらせましょう」




