第12話 鏡の間の設計図
大夜会の前日。
私は再び、王都の中央神殿の裏手でヴィンセントと合流していた。
停車した黒塗りの辻馬車の中。
ヴィンセントは、一枚の巨大な羊皮紙の図面を座席の上に広げていた。
「これが、明晩の舞台となる王宮『鏡の間』の平面図だ」
縦五十メートル、横二十メートル。
壁面には三十枚を超える長大なヴェネツィアン・ミラーが嵌め込まれ、天井からは無数のクリスタル・シャンデリアが吊り下げられている。光の屈折と反射を利用した、王宮で最も華麗で、最も豪奢な大広間。
「完璧な会場ね」
私の唇から、感嘆のため息が漏れた。
「ああ。これほどガラスと鏡が密集した空間は他にない」
ヴィンセントは眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「君の『真実の反射鏡』の出力で、この広間のすべての鏡に同時投影することは可能なのか?」
「手鏡の魔力核と、シャンデリアの主クリスタルを一度共鳴させれば、可能です。広間全体が、一つの巨大な幻灯機になります」
「結構だ」
ヴィンセントは冷酷に笑った。
「国王陛下ならびに王太子の臨席も確定した。さらに、ランカスター伯爵の不正融資に怒りを燃やす貴族院の重鎮たちも、最前列の席へ誘導してある。……逃げ場は一切ない」
「ありがとうございます、ヴィンセント閣下」
私が頭を下げると、ヴィンセントは不意に手を伸ばし、私の顎を指先で軽く持ち上げた。
手袋越しに伝わる、冷たくも確かな体温。
「明日は、君自身が泥を被る役回りで始まる。……耐えられるか?」
「泥を被るのは、十七年間ずっとやってきたことですわ」
私は男の藍色の瞳をまっすぐに見つめ返した。
「ですが明日被る泥は、敵を全員道連れにして地獄へ叩き落とすための化粧ですもの。一秒たりとも苦にはなりません」
ヴィンセントはわずかに目を見張り、それから低く、喉を鳴らして笑った。
「……恐ろしい令嬢だ。味方でよかったと、心から思うよ」




