第11話 義妹の夜這い計画
大夜会の二日前。
屋敷の中は、エリスの衣装合わせで朝から大騒ぎだった。
「お母様、見て! このルビーのネックレス、アルフレッド様が前祝いにと贈ってくださったのよ!」
サロンの中央で、胸元を大きく開けた真紅のドレスを着たエリスが、鏡の前でくるくると回っていた。
首元には、大粒のルビー。しかし、その輝きを一目見ただけで、私は心の中で吹き出しそうになった。
(……アルフレッド様、本当にお金がないのね)
手鏡を通さずとも分かる、粗悪なガラス玉に金メッキを施した模造品。
しかし、手鏡をかざすと、さらに愉快な事実が浮かび上がった。
『鑑定結果:模造ガラス。原価・銀貨三枚。……なお、アルフレッド・ランカスターは昨日、本物のアンバーク家伝来ルビーを質屋に入れ、三千ゴールドの借金返済に充てています』
私の母の形見のルビーを質に入れ、浮気相手の義妹には銀貨三枚の偽物を掴ませて悦に入っているのだ。
まさに似た者同士、お似合いの道化だった。
「クララ、何を突っ立っているの!」
ガートルードが睨みつけてくる。
「お前は夜会には出ないのだから、エリスのドレスの裾のアイロン掛けをしなさい!」
「ええ、喜んで」
私は素直に頭を下げ、ドレスの裾を受け取った。
その日の深夜。
屋敷を抜け出そうとするエリスの足音が、再び手鏡に捉えられた。
彼女が向かったのは、またしてもアルフレッドの待つ馬車。
手鏡に映し出された馬車の中で、エリスはアルフレッドの膝の上に跨がり、甘ったるい声を上げていた。
『ねえ、アルフレッド様。夜会の後……あの女が捕まったら、すぐに私の部屋へ来てくださる? お母様には内緒で、祝杯をあげましょうよ』
『ああ、もちろんだとも。あのみすぼらしいクララが衛兵に引きずられていく様を見届けたら、君を本当の伯爵夫人として抱いてやる』
二人は人目を憚らず、馬車のシートの上で乱暴に唇を奪い合っていた。
その乱れた吐息、エリスのドレスがはだける様子、そして二人が交わした下劣な会話のすべてが、手鏡の水晶核の中に「動かぬ刻印」として克明に刻まれていく。
(ええ、祝杯をあげましょうね。……鉄格子の向こう側で)




