第6話 歓声のあとで
『HAM STORY 』へようこそ。
第6話 「 歓声のあとで」スタートです。
記憶をなくしたアンドロイドと、自称ヒーローの白いハムスター。
一人と一匹の出会いから始まる、歌と心の物語。
初ライブを終えて。ミラの成長はどうなる?
歓声は、まだCAGEの中に残っていた。
拍手に口笛。床を踏み鳴らす音。
低い天井も、黒い壁も、ステージの床も震えている。
そして、その振動はMIRAの中にも残っていた。
「……熱い」
MIRAはステージ中央で、自分の右手を見つめた。
指先が、かすかに震えている。
頭の上にいるROMが身を乗り出した。
「まだ興奮してるか?」
MIRAは右手を胸へ移した。
「回路が、まだ……脈打ってる。商店街の時とは全然違う。」
顔を上げ見渡すと、客席ではまだ何人もの観客が手を叩いていた。
みな笑顔でこちらを見ている。
知らなかった人たち。
違うバンド目当てのお客さん。
「これが……『盛り上がる』?」
言葉を探すようにMIRAが尋ねると、ROMがにやりと笑った。
「そういうことだ」
「……盛り上がるね」
新しく覚えた言葉を、MIRAはもう一度口にした。
検索すれば意味はすぐわかる。
熱狂?興奮?活気?
今、感じているものはどれとも言えない。
もっと曖昧で。
もっと温度があって。
内側からこみあげてくるもの
「おい!」
低い声が飛んできた。
ステージ袖を見ると、CAGEの店長が立っている。
呆れた顔でこちらを見ている。
「……やばい」
フグ姫が小声で呟いた。
「怒られるんじゃない?」
「五分って言われてたからな」
SODAも淡々と同意。
「ROMの前口上だけで一分使った」
「そこ数えてたの!?」
「正確には五十八秒」
「お前ら細けぇこと気にすんな!初登場なんだ。挨拶いるだろ?」
ROMは当然といった顔。そして、
「ライブは時間じゃねぇ! 魂だ!」
フグ姫が謎の持論を展開するROMと店長を交互に見る。
「ライブハウスは時間で動いてんのよ!」
店長がゆっくり近づいてきた。
三匹は沈黙した。
MIRAも、なんとなく黙った。
店長はMIRA、ROM、フグ姫、最後にSODAの順に見回すと、
「お前ら……」
ROMが身構え、この一瞬で言い訳を10個考えていが、
「とんだ食わせ物だな」
「……へ?」
「野菜の歌で、ここまで客を沸かせた奴は初めてだ」
店長の口元が、わずかに上がった。
とんだ肩透かしにROMは崩れ落ちる。
「この箱の空き枠なら、また使わせてやる」
(これは褒められてる??)
ROMの耳がぴくりと動く。
「また来い」
一秒。
「よっしゃあああああ!」
ROMがMIRAの頭の上で飛び跳ねた。
「聞いたか! 認められたぞ!」
さっき考えた言い訳をすぐに捨て、叫ぶROM。
「声がでかい!」
すぐさまピンクが介入。いつものカフェの空気だ。
「俺様のプロデュースに狂いはない!」
「ほぼノープランだったじゃないか!」
SODAはカフェでのやり取りを思い出す
「結果がすべてさ!」
「ノープランの結果は偶然って言うのよ!」
フグ姫が即座に突っ込む。
そんな二匹を横目に、SODAが店長を見上げた。
「本当にいいのか?」
「ああ。準備不足でこれなら、次から楽しみだ」
「歌は本物だったぜ」
少し遠い目で、まだ熱の残るステージを見る。
MIRAは、その言葉を聞いていた。
――歌は……本物……
本物って何??
(たぶんこれも検索しただけじゃ分からないやつ)
分からないけど、
その言葉は心拍数を上げた。
――嬉しいってこと?
MIRAは胸に触れた。
そこにまた一つ、新しい未登録の感覚が生まれていた。
*
その頃、客席の一番奥。
照明の届かない柱の陰に、一匹のハムスターがいた。
ROMとは正反対の黒い毛並み。
細い目。手には望遠レンズ付きのスマホを持っている
画面には先ほどまでステージ中央で歌っていたMIRAの姿が映っている。
黒いハムスター(KURO)は録画を止めると、壁へ目を向けた。
そこには大きな文字で、
『撮影禁止』
と書かれている。
「撮影禁止だって?プロじゃないでしょ?」
KUROは再び手元の画面へ視線を戻し、
動画をアップロード。
「いけ!」
進行バーが伸びる。
73%……85%……100%
続いて画面に文字が表示された。
「 UPLOAD――100% 」
「まあ、この街が少し面白くなるなら、ルール違反くらい……スパイスだよね」
KUROは小さく笑い端末をしまうと、
そして誰にも気づかれることなく、黒い影はCAGEを後にした。
*
さらに、もっと高い場所。
CAGEが視界に入る、ネオンを見下ろすビルの屋上に、
一人の女が立っていた。
風が吹くたび、長い着物の袖が揺れる。
額から伸びる二本の赤い角。
少なくとも、普通の人間ではない。
遠くでサイレンが鳴った。
その音に合わせるように、赤い角がかすかに震える。
ムラサキは眼下の街を見つめていた。
風に乗って、CAGEから漏れてくる歌声が届く。
キャベツ……ブロッコリー……にんじん……野菜の歌…
「……変な歌だね」
興味などない素振りを見せつつ
歌が終わるまで、ムラサキは屋上を離れなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回の場面を映像でも楽しみたい方へ。
アニメ版 「苦くて、温かいもの 」
https://youtu.be/33f2Ax85eVA
※小説第6話〜8話 の内容を含みます。
続きが気になったら、[ブックマーク/作品フォロー]で見守っていただけるとうれしいです。




