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第2話 『 頭の上の特等席 』

『HAM STORY 』へようこそ。

「プロローグ(第2話)頭の上の特等席」スタートです。


記憶をなくしたアンドロイドと、自称ヒーローの白いハムスター。

一人と一匹の出会いから始まる、歌と心の物語。

連載がある程度溜まったところから映像化も同時進行予定です。

どうぞ、最後までお付き合いください。

「ミラが喋れるのは分かった! それで、」


 ROMは少女――ミラの頭の上で腕を組んだ。


「お前、立てんの?」


 ミラは顔を上げて、両手をベンチに置き立ち上がる素振りを見せた。


「起立……試行」


 動力はわからないが、内部ではモーターのような振動が、膝。腰。肩に伝達されていく。  身体がわずかに震え、ミラは腰をゆっくり持ち上げ立ち上がった。


「おっと」


 と振り落とされないように髪の毛にしがみつくROM。


 背筋が伸び、瞳の光が安定する。


「ROMを確認……」


 視線を頭の上にやり、ROMの存在を認識する。


「姿勢制御……安定」 「メインジェネレーター……オンライン」


 感情があるとは言えない口調で、言葉を並べるミラ。


「…………」


 ROMは瞬きをした。


「俺を確認って? なんかしたか?」


 ミラをもっとよく見ようと、ベンチの上に飛び降りた。  その瞬間、アラートが鳴り、さっきより早口でミラがしゃべる。  インジケータなのか、ミラの胸あたりから赤い光が点滅している。


「出力低下!」 「え?」


 ガクンとミラの膝が折れ、左に体が傾く。


「おおおい!? 何でそうなる?」


 ROMは慌ててベンチからミラの膝を伝い頭へ駆け戻る。


「システム復旧」


 赤い光は、水色の光へ戻った。  ミラは何事も無かったかのように、最初の起立姿勢に戻っている。


 ROMは固まった。


「…………もしかして俺を確認って……」


 「ちょっと実験な」と、もう一度肩へ降りる。


「出力低下!……」


 ぐにゃ。もう一度。


「出力低下!……」 「待て待て待て! わかったわかった。そういうことね」


 ミラの頭の上へ全速力で戻り、「システム復旧」を確認するROM。


「悪いね、こういうのは三回やるのが基本なんだ」


 ミラは無反応だが、ROMは自分の特別感に酔い始めていた。


「…………うぉい、俺重要パーツじゃん」


 ROMは頭の上で腕を組み、深く考え込んだ。  風が吹き、赤いマフラーが揺れる。


 五秒。  十秒。  そして。


「なるほど……と、いうことは?……」


 (そういや、あのボタン……俺が押したんだよな)


「なぜかわからないが、俺がトリガーってことね」 「トリガー?」


 ミラが言葉の意味を考えている。


「そういうことだ」


 もちろん仕組みなど何も分かっていない。酔っているROMは直観で動く。


「俺がここに乗る。お前が動く」


 ROMは自分を指差した。


「つまり俺がキーパーツ。というかトリガーだ!」 「俺って天才じゃない?」 「天才なの?」 「聞き返されると恥ずかしいな」


 ミラの虹彩が、カシャ、と動いた。  ROMは自分の特別感にすっかり満足していた。


 謎の美少女アンドロイドを発見し、ボタンを押して起動。さらに名前もつけ、しかも自分が頭に乗っていると動ける。どう考えても自分専用のマシン。


「……これ、完全にヒーローの始まりじゃね? ヒーローと言えばロボットだよな」


 ROMはひとりでにやりと笑った。


   *


 問題は。  ミラが、まともに歩けなかったことである。


「右」 「次、左」


 ミラの右足が動く。そして左足も続く。


「そうそう」


 ぎこちなく昭和のSFアニメのロボットのような歩き方で、ミラは一歩ずつ前へ進んだ。  途中でバランスを崩し、小石につまずくように前のめりになる場面もあり、


「姿勢制御……エラー」


 急ブレーキがかかるミラ。


「うぉっと!」


 ROMは落とされないよう髪につかまり頭上をキープしたため、今度はアラートを聞かなかった。


「気にすんな。生まれたての小鹿も立つには二十分くらいかかるらしいぜ」


 ――また歩行訓練に戻る。


「右足」


 ミラは不満も文句も言わず指示通り動く。


「次、左」 「左足」


 ミラはまた一歩踏み出す。


「それを交互にやれば歩けるはずさ」 「アップデート……」 「そうそう。簡単簡単」


 (自分は四足歩行なのだが……)


 ミラは何度か歩いているうちに、少しずつ動きを滑らかにしていった。  一歩……もう一歩……また一歩。


 ベンチから離れ、街へ続く道へ出る。  遠くには夜の街明かりが見えてきた。


 ミラが歩きながら頭の上に視線を送る。


「どこ行くの……?」 「あー」


 ROMは頭をかきながら、高速思考を開始する。


 (ノープランをごまかすために……)


 このまま山に置いていくわけにもいかない。何者かも分からないし、記憶もない。俺がトリガーで、いないとまともに動けもしない。  どう考えても面倒事であるが、片足どころか首まで突っ込んだ感がある。


「連れてくしかないっしょ!」


 (でも、操縦している俺かっこいいよな)


 乗ってるだけのROMは得意気だ。決して操縦はしていない……。


 ROMは街の明かりを見て、それからミラを見る。


「とりあえず俺んち――」


 言いかけて止まる。


「いや、仲間のところへ行くぞ」 「仲間……」 「そう。困った時は仲間を頼る。ヒーロー界の常識だ」


 そんな常識があるかどうかは知らない。ハムスターがどこでそんな知識を?  だがミラは素直にうなずいた。


「了解」


 ミラが歩き始める。  余裕ができたのか、ROMはより操縦者っぽくあぐらをかいて頭の上に鎮座し、ミラへ指令をおくる。


「よし! 右足、左足、練習しながらいくぞ!」


 頭ではROMが夜風を受け、赤いマフラーが揺れている。


 (思ったより悪くない。高さがあって見晴らしもよく、風も気持ちいい)


「この特等席、悪くねぇな」 「特等席?」 「ヒーローがロボに乗り込むのは頭かお腹なんだぜ!」 「わたし、アンドロイド……」 「こだわりあんのかよ」


 けれどほんの少しだけ。歩くミラの足取りが軽くなったようにROMには見えた。  動けること、誰かとの会話自体が、稼働したてのミラには新鮮だった。そして、夜の峠を一匹で走り、誰にも邪魔されず、誰にも縛られず、それが最高だと思っていたROMにとってもまた新鮮なシーンだった。


 (とんでもない拾い物をしちまった、ポンコツのアンドロイド)  (でも、この頭の上の特等席、悪くない眺めだ)


 ROMはつぶやきながら歩く。  峠の下り道、街へ向かう道には、二人の影が伸びている。


 (どちらも一人とカウントしていいかは不明だが……)


 まだ「一人」と呼んでいいのかさえ分からない少女と、自称ヒーローの、小さなハムスター。二人はまだ知らなかった。


 なぜあの夜ROMがミラを見つけたのか。  なぜROMが頭に乗るとミラは動けるのか。  そして彼女がどこから来たのか。  何のために作られたのか。  この奇妙な出会いが、二人の運命をどこまで変えていくのか。  ROMが押したボタンは、少女のただの稼働ボタンか、運命のボタンなのか。

お読みいただき、ありがとうございます。


今回の場面を映像でも楽しみたい方へ。

アニメ版 「七色の夜 」

https://youtu.be/qvGfLHXw_TQ?si=D5jevEAve0Njs9Jo

※小説 第1話〜2話 の内容を含みます。


続きが気になったら、[ブックマーク/作品フォロー]で見守っていただけるとうれしいです。

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