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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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9/10

初めての同族交流

Dクラスダンジョン入口前。

黒い歪みがゆっくりと揺れるその前で、私は今、知らない女性に抱きしめられていた。


いや、知らないと言っても、たぶん怜奈さんの関係者だとは思う。

黒い長髪を後ろでゆるくまとめた、背の高い女性。

怜奈さんと同じように整った顔立ちをしているのに、雰囲気はまるで違う。


怜奈さんが氷みたいに静かな人なら、この人は太陽みたいな人だった。


「怜奈! この子、可愛いねぇ!」

「姉さん。離して」


怜奈さんの声が、いつもより少し低い。けれど女性はまったく気にしていない。

むしろ私を抱きしめる腕に、さらに力を込めてきた。


「銀髪! 尻尾! しかも半サキュバス! なにこの情報量! 実物の方が可愛い!」

「む、むぐぅ……」


顔が埋まっている。というか、息がしづらい。

柔らかい感触が近すぎて、何をどうすればいいのか分からない。

逃げようにも、腕の力が強い。さすが日本屈指のギルドを率いる探索者。


抱きしめるだけで拘束力がすごい。


「姉さん」


怜奈さんがもう一度言った。


「その子は身体が不安定なの。潰さないで」

「潰さないよ。こんな可愛い子、潰すわけないじゃん」

「今、息ができてない」

「え……?」


ようやく腕の力が緩む。

私は解放された瞬間、慌てて息を吸った。


「はぁっ……はぁ……!」


空気がおいしい。ダンジョン入口前の重たい空気なのに今はものすごくおいしく感じる。

危うく、ダンジョンに入る前に致命傷を負うところだった。


「ごめんごめん。つい」


女性は悪びれた様子もなく笑った。

そして、改めて私の顔を覗き込む。

距離が近い。近すぎる。


「私は氷室飛鳥。怜奈の姉で、ギルド黄昏のリーダーやってます」

「あ、えっと……黒井彩音です」

「知ってる知ってる。配信で見た」

「見たんですか……」

「もちろん。魔石食べてたところも、怜奈の手を握ってたところも、尻尾が出たって聞いたところも」

「最後のはまだ配信されてないです!」


思わず叫ぶ。すると、私の腰の後ろで尻尾がぴんと跳ねて飛鳥の目が、きらりと光る。


「動いたぁ!」

「いや、これは!」

「可愛い。可愛いねぇ〜」


怜奈さんが私の前に一歩出た。さりげなく、飛鳥さんの視線から私を隠すように。


「彩音は見世物じゃないわ」

「もう、分かってるって。ちょっと反応が可愛かったから揶揄っていただけよ。まぁ、本人は私の魔力を欲しがってたっぽいけどね」


その言葉を聞いた時、私はようやく気づく。

微力だが魅了を発動させて、飛鳥さんに自ら抱きついていたことに。

尻尾を太ももに絡まらせて、魔力を少し吸っていた。


「あっ……ちが、あぅ……」


顔が赤いとか、そういう騒ぎじゃない。

恥ずかしすぎて、言葉が出てこない。


「ち、違います! 今のは、その、勝手に……!」

「うんうん。分かってるよ。半サキュバスの本能反応でしょ?」


飛鳥さんはあっさりと言った。


「でも、反応速度はかなり早いね。接触した瞬間に魔力を探して、尻尾で捕まえに来た。魅了も微弱だけど出てた。探索者としても、サキュバスとしても伸びしろあるね!」


完全に診断されていた。さっきまで可愛い可愛いと言って抱きしめていた人が、急に探索者としての顔をした。と思えば、可愛い物を話す時の女子の顔になったりと忙しい人だ。


「姉さん」


怜奈さんの声が低くなる。


「彩音で遊ばないで」

「遊んでないよ。確認確認」

「抱きしめる必要はなかった」

「接触反応を見るには必要だった」


怜奈さんの声がさらに冷たくなる。

飛鳥さんは楽しそうに笑いながら、ようやく私の尻尾をそっと外した。


「ごめんね、彩音ちゃん。驚かせた」

「い、いえ……」

「でも、これで分かった。あなたの身体、思ってたよりサキュバス寄りだね」


その言葉に、背筋が少しだけ冷える。


「……サキュバス寄り」

「うん。見た目だけじゃない。魔力の探知、接触吸収、魅了、尻尾の自動反応。かなり本能側に引っ張られてる感じに見えた」


飛鳥さんは笑っている。けれど、その目はもう、さっきまでの軽いものではなかった。


「だからこそ、今日ここに連れてきてもらって正解だったかも」

「……どういう意味ですか?」

「このDクラスダンジョンで、サキュバスの目撃情報があるのよ」


飛鳥さんは、背後の黒い歪みを見る。


「遭遇した探索者は魔力を吸われてる。でも命は取られてない。だから敵対確定ではない」

「……つまり?」

「私達だと吸われて眠らせられるから、半サキュバスの彩音ちゃんに、接触してほしい」

「えっ、私が!?」


思わず声が裏返る。


「私、まだ自分の尻尾も制御できてないんですけど!?」

「だからこそじゃない? 向こうも興味持つかも」

「理由が雑!」


助けを求めるように怜奈さんを見る。

怜奈さんは小さく息を吐いた。


「危険だと判断したら、すぐ撤退する」

「……本当ですか?」

「本当よ。戦わせるつもりはない」


その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

でも、知りたいと思った。この身体のこと。

半サキュバスという存在のこと。その手がかりが、この先にあるかも……。


「……分かりました」

「いい返事」


飛鳥さんが笑う。


「じゃあ行こうか。銀髪半サキュバスちゃん、初めての同族交流へ」

「言い方!」



* * *



Dクラスダンジョンの空気は、EクラスやFクラスとは明らかに違っていた。

肌にまとわりつく魔力の密度が濃い。

通路の壁には黒紫色の苔が生え、ところどころに淡い光を放つ花が咲いている。

綺麗なのに、どこか不気味な空間だった。


「彩音。私から離れないで」


怜奈さんが言う。


「はい」


飛鳥さんたち黄昏のメンバーは軽い足取りで先を進んでいる。

けれど、その動きに隙はない。

さっきまで軽く笑っていた飛鳥さんも、今は別人みたいだった。


「反応ある?」


飛鳥さんが振り返る。


「えっと……」


私は胸の奥に意識を向ける。

接触以外にも私に与えられた役割は探知。

同じ種族なら、何か分かるかもしれないという話だ。

魔力の匂い。魔石とも、怜奈さんとも、飛鳥さんとも違う。


甘い。でも少し冷たい感じ。

奥の方から、何かがこちらを見ているような気がした。


「……います」


自分の声が震えた。


「たぶん、この先に」


その瞬間、腰の後ろの尻尾がぴんと立った。

怜奈さんの表情がわずかに険しくなる。


「彩音」

「大丈夫……です」


大丈夫。そう言いたかった。けれど、身体は正直だった。

胸の奥がざわつき喉が渇く。知らない魔力に、半サキュバスの本能が反応しているのだと思う。


通路の奥。

黒紫の光の中に、人影が見えた。


細い身体。ピンクの長い髪。頭に小さな角。

腰から伸びる黒い尻尾。人間のようで、人間ではない。

その存在が、ゆっくりとこちらを振り返る。


ピンク色の瞳が、私を見た。


「人間……いや、同族?」


甘い声が、暗い通路に響いた。

私は息を呑み、周りは警戒態勢に入った。

目の前にいたのは本物のサキュバスだった。


ゆっくりと近づいてくる。私を守るように円陣を組んだ黄昏のメンバーや隣にいる怜奈さんには目もくれずに私の前まで歩いてくる。そして一歩前まで来て、私の匂いをくんくんと嗅いできた。

まるで犬が知らない相手を確認するみたいに、鼻先を近づけてくる。


私は彼女の目を見て、判断を待っていた。

周囲の警戒は最大になっている。

怜奈さんも、飛鳥さんも、いつでも動けるように身構えていた。


そんな中、彼女はふっと笑う。

そして、意外すぎる言葉を口にした。


「ふふ。貴女、同族なのに随分うぶなのね」

「……はい?」


緊張で張り詰めていた空気が、一瞬で変な方向に吹き飛んだ。

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