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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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8/9

尻尾が生えました

あれから一週間。

私は怜奈さんの元で居候しながら、ダンジョンでレベルを上げる日々を過ごしている。

最初はスライム相手にすら怯えていたけれど、今ではEクラスの魔物相手でもある程度は戦えるようになった。角犬の突進も避けられる。甲羅虫の硬い外殻も、爪の入れ方を覚えれば裂ける。

火蜥蜴ひとかげの火球も、直線で飛んでくるなら見てから避けられる。


もちろん、怜奈さんにはまだまだだと言われている。


「動きが雑」

「突っ込みすぎ」

「魔力残量を見なさい」


毎日そんなことを言われながら、転がされて立ち上がって、魔石を食べて、また戦う。

そのおかげか、私の魔力値はGからFに上がった。

たった一段階。でも私にとっては大きな一歩だった。

活動限界も、三十分弱から四十分近くまで伸びた。怜奈さんと手を繋ぐ回数も、少しだけ減った。

……まあ、それでも一日に何度も手を繋いで魔力補給しているわけだけど。


順調。少なくとも、私はそう思っていた。

だったのだが。今、私はとある問題に直面していた。


「可愛らしい……尻尾、ね」


怜奈さんが、私の腰の後ろを見ながら静かに言った。


「可愛らしいとか言わないでください!」


私は半泣きで叫ぶ。リビングの中央。

姿見の前に立つ私の腰の後ろから、黒く細い尻尾が生えていた。

いや、生えていたという表現でいいのか分からない。


根元は腰の少し上あたり。細くしなやかで、先端は小さなハートみたいな形をしている。


完全に人間のものではない。

完全に、サキュバスっぽいやつだ。


「……本当に出てる」


私は震える声で呟く。自分の意思で動かしているつもりはない。

なのに、その尻尾はゆらゆらと左右に揺れていた。

まるで、私の動揺をそのまま表すみたいに。


「もう! どうしよう」


思わず振り返る。その瞬間、尻尾の先がぴんと跳ねた。

怜奈さんの視線が、尻尾を追う。

私はゆっくりと、自分の腰の後ろを見る。


尻尾が、ふるふる震えていた。


「……これ、私の意思じゃないです」

「そうみたいね」

「冷静に観察しないでください!」

「動揺するとよく動くのね」

「メモしないで!」


怜奈さんは本当に端末に何かを打ち込み始めた。

この人、私の身体の変化を全部データにするつもりだ。


「状態表示は?」

「あ、えっと……」


視界に意識を向ける。

すると、いつもの半透明の文字が浮かんだ。


『半サキュバス特性:尾部顕現』

『成長反応により発現』

『魔力制御が未熟なため、解除不可』


「解除不可って書いてありますね……」


私は尻尾を両手で押さえようとする。

けれど触れた瞬間、変な感覚が背筋を走る。


「ひゃっ!?」


思わず変な声が出る。

尻尾が、びくんと跳ねた。

怜奈さんの眉がわずかに動く。


「触られると敏感なの?」

「自分で触っただけです!」

「なら、他人が触るのはやめた方がいいわね」

「絶対やめてください!」

「触らないわよ」


淡々と返される。当たり前の返事なのに、少しだけほっとした。

けれど、怜奈さんの目線は私の細長い尻尾に釘付けになっていた。


なんか怖いなぁなんて思いながら、いったんこの場を離れようと後ろを向いた時だった。

グイッと、腰の後ろを引っ張られるような感覚に襲われた。


「ひゃっ!?」


変な声が出て、足が止まる。

というか、進めない。何かに引っかかったみたいに、腰の後ろが引っ張られている。


「な、何……?」


恐る恐る振り返る。

そこには怜奈さんがいた。

正確には、怜奈さんの手首に、私の黒い尻尾が絡みついていた。


「…………」

「…………」


時間が止まった。怜奈さんは無表情のまま、自分の手首に巻きついた尻尾を見ている。

私は、自分の尻尾を見ている。

尻尾だけが、まるで当然みたいに怜奈さんの手首をきゅっと掴んでいた。


「ち、違います!」


私は反射的に叫んだ。


「違います! これは違います!」

「何が?」

「私じゃないです!」

「あなたの尻尾でしょう」

「そうですけど!そういう意味ではなく!」


顔が熱い。ものすごく熱い。

尻尾は私の意思とは関係なく、怜奈さんの手首に絡みついたまま離れようとしない。

それどころか、安心したみたいに先端をゆらゆら揺らしている。


「……魔力に反応しているのかしら」


怜奈さんが静かに呟いた。


「魔力……ですか?」

「あなた、魔力が欲しい時に私へ近づくでしょう。その延長かもしれない」

「つまり、尻尾が勝手に魔力補給先を捕まえにいってるってことですか?」

「そういうことになるわね」

「嫌すぎる……!」


その場にしゃがみ込みたくなった。女の子になれたのは嬉しい.

でも、半サキュバスの身体は、私の想像よりずっと厄介だった。

爪は伸びるし、魔力は足りない。魅了が漏れて相手を変にどきどきさせるし、

今度は尻尾まで生えて、魔力補給先を勝手に捕まえようとしている。


順調だと思っていたのに全然順調じゃない。


「……彩音。今からDクラスダンジョンだけど、欠席はなしだからね。姉さんたちのパーティーが来て、あなたの状態を見てくれるんだから」

「ですよね……せめて明日にしたいところですけど、怜奈さんのお姉さんが診てくれるんですもんね」


怜奈さんの姉、氷室飛鳥さん。

日本屈指の探索者ギルド黄昏たそがれを率いる有名探索者らしい。

今日は、その黄昏が調査する未確認Dクラスダンジョンの遠征に同行する予定だった。

もちろん、私は戦力扱いではない。あくまで怜奈さんのお姉さんに状態を見てもらうための同行だ。

表向きは怜奈さんの力を借りたいという話。けれど実際は、配信でプチバズりした私を気に入って、『銀髪半サキュバスちゃん、連れてきて』と、軽い感じで言ってきたらしい。


日本屈指のギルド、フットワークが軽すぎる。


「そろそろ時間ね。あと、今回は私は配信しないけど、姉さんたちはするわ」

「え?」

「覚悟しておきなさい。たぶん、あなたは確実にオモチャにされる」

「嫌な予告しないでください!」


気分が落ち込む私とは裏腹に、私の尻尾は元気に怜奈さんの手首に絡みついていた。



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