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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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49/50

知らない女

「それでは皆さん! 今回のコラボゲストを紹介しましょう!」


明るい声が、ダンジョン内に響いた。


隣にいるのは、女性探索者兼配信者の人だ。明るくて話が上手く、初心者向けのダンジョン解説動画で人気があるらしい。


今回はその人とのコラボ配信だった。


正直に言えば、私はまだこういう紹介のされ方に慣れていない。半年前までは、自分が誰かに紹介される側になるなんて思ってもいなかった。むしろ、目立ちたくないと思っていたくらいだったから。


氷室彩音。


その名前で呼ばれるようになってから、半年が経った。


最初は呼ばれるたびに少しだけ違和感があった名前も、今では普通に返事が出来るようになっていた。氷室家での生活にも慣れた。

と言っても基本は怜奈さんのマンションで生活して、土日にお母さん達のいる屋敷へ帰る感じのローテーションだ。屋敷にいる時の朝から騒がしい食卓も、怜奈さんに抱き枕みたいに抱え込まれて眠る事も変わりはしない。


……最後のだけは未だに心臓に悪いけれど。


探索者としての活動も続けている。配信も、以前よりずっと増えた。


氷室家の娘になった半サキュバス探索者。

黒牙狼を連れた女配信者。

そして、怜奈さんの義妹兼恋人。


気付けば私は、色々な肩書きを背負うようになっていた。だから最近は、普通にダンジョンへ入るだけでも少し目立つ。


今日みたいに。


カメラの向こうでは、リスナーたちが私の登場を待っている。配信端末のコメント欄は、既に凄い勢いで流れていた。


『来るぞ』

『まさか本当に!?』

『氷室彩音!?』

『半サキュバスちゃんだ!』

『犬サキュキタァー』

『大型コラボ助かる』

『怜奈さんは!?』

『浮気ですか?』


……最後のコメントは見なかった事にした。


「今回来ていただいたのは――今や知らない人の方が少ない探索者!」


配信者さんが大げさに両手を広げる。


「氷室彩音ちゃんです!」


その瞬間、コメント欄が爆発した。


『本物だあああ!』

『かわいい』

『半年前より雰囲気変わったよな』

『角ちょっと伸びてない?』

『羽見せて』

『クロは!?』

『怜奈さんの恋人きた!』


「最後の肩書きで呼ばないでください」


思わず突っ込む。

するとコメント欄はさらに盛り上がった。


『反応早いw』

『そこ拾うんだ』

『事実だから仕方ない』

『公式恋人じゃん』

『照れてる?』

『顔赤くない?』


「赤くないです」


まぁ、たぶん赤いでしょうね……けれど認めてしまうと、もっと赤くなっちゃいそうだから否定させていただく。コメントに反応しながらも頭の片隅で考えてしまう。


半年。たった半年。

けれど私にとっては、大きな時間だった。


角は以前より少しだけ大きくなった。尻尾の扱いにも慣れて、腰の辺りに生えた小さな羽も今では多少なら自分の意思で動かせる。

飛行も出来るようになった。ただし、協会からは「市街地での無許可飛行は禁止」ときつく言われている。


まあ、あれは私が悪い。交差点に突っ込んだ件は、今でも定期的に配信で擦られている。


半サキュバス化は、今も少しずつ進んでいるらしい。協会の検査では、暴走状態ではなく安定した変化だと言われた。いつの日か「半」は消えて本当のサキュバスになるのではとリスナーや研究者からは言われている。


昔なら、もっと怖がっていたと思う。けれど今は違う。菜月がいる。クロがいる。氷室家の人たちがいる。そして、怜奈さんがいる。


だから私は、少しずつ変わっていく自分を受け入れられるようになっていた。


「彩音ちゃん、今日はよろしくね!」


配信者さんがにこにこと笑う。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


私はそう言って頭を下げる。コメント欄ではまだ私の名前が流れ続けていた。氷室彩音。もう、その名前で呼ばれる事に違和感はない。半年経って、私はようやく少しだけ思えるようになっていた。


ここが、今の私の居場所なのだと。



* * *



それからしばらくして、コラボ配信は無事に終わった。途中で少し大きめの魔物と遭遇したり、コメント欄に何度も怜奈さんの名前が流れたり、コラボ相手の配信者さんに「本当に仲良しなんだね」と笑われたりもしたが、特に大きな問題はなかった。


いや、問題がなかったと言うと少し嘘になる。


『魅力使いすぎて、なんかエロ配信みたい』

『それ目的で見てる奴も居るやろな』

『誘惑だけでも戦意喪失させてますやん』

『流石、サキュバスやで!』

『彩音ちゃん、羽ぱたぱたしてる』

『照れてる時だけ羽動くのかわいい』


などとリスナーに散々いじられたので、精神的にはかなり削られた。配信ではサキュバス特有の技は使わないようにしていたが、流石に隠しきれないから、最近は普通に使っているのだが、側から見たらエロいらしい……。


けれど配信自体は盛り上がったらしい。


「今日はありがとうございました!」

「こちらこそ、ありがとうございました」


ダンジョン出口の前で、コラボ相手の配信者さんに頭を下げる。


「いやぁ、本当に助かったよ。彩音ちゃんがいると安定感が違うね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


最初のダンジョンに入ってから8ヶ月。

私も探索者としても少しは成長したと思う。

半サキュバス化が進んだ影響なのか、魔物の魔力の流れも以前より感じ取りやすい。

魔力容量が増える度に魅力の強さは上がって、Aランクモンスターに効くまでになった。


「それじゃあ、また機会があったらよろしくね! 怜奈ちゃんにも言っといて」

「分かりました。お疲れ様です」


女性配信者さんが手を振りながら離れていくのを見守りながら、私は軽く息を吐いた。


「……終わった」


この半年で、怜奈さん経由の探索者や配信者の方とコラボする機会が増えたが、やはりいつまで経っても緊張してしまう。そして配信に関しても、今でも私は大勢の人に見られることに慣れていない。


『お疲れ様』

『今日も面白かった』

『怜奈さんによろしく』

『またコラボして』


流れていく最後のコメントを見ながら配信を終了する。

画面が暗くなった瞬間、肩の力が抜けた。


「ふぅ……」


今日はもう帰ろう。


そう思った瞬間、少しだけ気分が軽くなる。

理由は簡単——今日は二人きりだからだ。

菜月は今日は氷室家の屋敷に泊まる予定で、

試験が近いらしく、飛鳥さんに勉強を教わるらしい。クロも一緒だ。最近はすっかりお父さんに懐いてしまって、屋敷へ行くと真っ先に飛んでいく。


つまり。

今日はマンションに帰れば怜奈さんと二人。


「……」


考えた瞬間、少しだけ顔が熱くなる。別に変なことを考えているわけじゃない。

ただ、一緒に夕飯を食べたり。映画を見たり、ソファでのんびりしたり。

そういう時間も最近は意外と少なかった。


あと、夜のアレもご無沙汰だったし……


「……帰ろ」


自然と足取りも軽くなる。ダンジョンから自宅のマンションへ歩き出す。

三十分もすれば見慣れたマンションが見える。エレベーターに乗って。自宅の前へ。


「ただいまです」


返事があるはずもないのに、そう呟きながら鍵を開ける。カチャリと、扉が開いた。


その瞬間、私は足を止めた。


「……え?」


玄関に見慣れない靴があった。女性物だ。


それも一足ではない。知らない匂いもする。

怜奈さんでもない。飛鳥さんでもない。

お母さんでもない。菜月でもないはずだ。


色々な可能性が頭を過る。けれど、どれもしっくりこない。最近の怜奈さんは忙しかった。

だから今日は珍しく仕事は何もいれずに休むと言っていたはずだ。私にも休んで欲しいと言われたが、私は先約だからと断った。


「……」


胸の奥が妙にざわつく。嫌な予感がする。

知らない靴。知らない匂い。知らない女だ。


「……浮気?」


ぽつりと呟く。


いや。そんなわけない。怜奈さんだ。

そんなことをする人じゃない。

分かっている……分かっているのに。


胸の奥のざわつきは消えてくれなかった。

私は靴を脱ぎ、足早に廊下を進む。

リビングから声が聞こえた。聞き慣れた怜奈さんの声。そして、知らない女性の笑い声。


「だからさぁ、怜奈って昔から――」


知らない声。


私の足が止まる事はなかった。むしろ速くなる。そして、そのままリビングの扉を開く。


「ただいま――」


言葉が途中で止まった。


ソファの上——そこには怜奈さんに抱きついている女性がいた。金髪のセミロング。整った顔立ち。そして、やたらと主張の激しい胸。


女性は怜奈さんの腕に抱きつきながら楽しそうに笑っている。怜奈さんはというと、珍しく少し困ったような顔をしていた。


私に気づいた女性がこちらを見る。

怜奈さんもこちらを見る。


そして――


「……はっ?」


自分でも驚くほど低い声が出た。気づいた時には尻尾を唸らせて床を叩いていた。

部屋の空気が凍り、女性の笑顔が固まる。

私は怜奈さんに絡みつく腕へ視線を落とす。


それから女性を見る。


「何してるんですか?」


その声は自分でも驚くほど冷たかった。

女性が目をぱちくりとさせる。

怜奈さんが小さく目を見開く。


そして次の瞬間。


「あっ」


女性が何かに気付いたように声を上げた。


「もしかして、あなたが彩音ちゃん?」


——嫌な予感しかしなかった。


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