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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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プレゼント選びは高級下着屋で

御堂蓮。怜奈さんと飛鳥さんの昔からの幼馴染で、飛鳥さんの将来の旦那さん(自称)の男。


第一印象は正直に言えば軽かった。初めての怜奈さんとのデートに揶揄ってきたからだ。話し方も軽いし、距離感も近いし、人の恋愛事情に首を突っ込む速度が異常に早い。


けれど、悪い人ではない。

むしろ面倒見はいい。


飛鳥さんの話になると分かりやすく顔が緩むし、怜奈さんのことになると、からかいながらも妙に真面目になる。うまくいけば将来的に義理の兄になるかもしれない人、だと思う。


……その予定の人に、私は今、高級下着屋へ連れてこられている。


「彩音ちゃん。これとかどうよ?」


蓮さんが指差したのは、淡い青の石がついた小さなピアスだった。


「あー、悪くないですね。怜奈さんなら似合いそう」

「だろ? 怜奈って派手なのはあんま好まねぇけど、こういう控えめなやつは好きだと思うぞ」

「……詳しいですね」

「まぁ、幼馴染だからな」


軽い口調なのに妙に説得力がある。それが少しだけ悔しい。私はまだ、怜奈さんの好きなものを全部知っているわけではないから。


「それと、これとかどうよ?」


次に蓮さんが指差したのは、ピンクのネグリジェだった。薄いベールのような生地がついた、大人っぽい下着。いや。下着というより、もう完全にそういうやつである。


「いや、これ渡すのは……」

「馬鹿、お前!」


蓮さんは即座に首を横に振った。


「渡すんじゃなくて、お前が着て怜奈に見せるんだよ」

「はい?」

「前も言ったけど、アイツはむっつりだからクソ喜ぶぞ」


喜ぶか……いや、待てよ。仮にこれを着て見せたら、変態だと思われないか? 

でも最近の怜奈さんは、こっちが思っているよりずっと積極的だ。浴室でのキス。昨日の義妹発言。平然と人の心臓を破壊してくる態度。


思い出しただけで顔が熱くなる。


「……いやいやいや」


私は慌てて首を振った。危ない。

一瞬、本気で買うか迷ってしまった。


「お、今ちょっと揺れたな?」

「揺れてません」

「嘘つけ。顔赤いぞ」

「下着屋にいるからです!」

「じゃあ似合うと思ったわけだ」

「そこまで言ってません!」


私は思わず声を上げた。周囲にいた店員さんが、にこにこと微笑んでいる。

やめてほしい。その優しい目が一番つらい。


……どうしてこうなったのか。


話は、数刻前に遡る。


* * *


日常になりつつあるいつも通りの朝だった。


怜奈さんと、菜月と、私。それから足元で尻尾を振っているクロ。三人と一匹で朝食を囲む光景にも、少しずつ慣れてきた。


慣れてきた、はずだった。


「あっ……そういえば」


味噌汁を置いた怜奈さんが、思い出したように口を開く。


「あなたたちを正式に家へ迎える日が決まったわ」

「「え?」」


私は箸を止めて、菜月も顔を上げる。


「三日後。七月七日よ」

「七夕じゃん」


菜月がぽつりと言う。

怜奈さんは小さく頷いた。


「ええ。それと、まさかの私の誕生日でもあるわ」

「はっ! 誕生日!?」


私は思わず声を上げた。初耳だった。いや、冷静に考えれば、怜奈さんの誕生日を知らないこと自体がおかしい気もするけども。でも、今までそんな話をする余裕がなかったのだ。


「だからその日は、家で簡単なパーティーをする予定よ」

「パーティー……」

「ええ。正式に家族として迎える日でもあるから」


その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

家族。まだ少しむず痒い言葉だ。けれど、嫌ではない。むしろ嬉しい。嬉しいのだけれど。


「……プレゼント」


私は小さく呟き、怜奈さんが首を傾げる。


「何か言った?」

「い、いえ! 何でもないです!」


やばい……何も用意していない。誕生日。しかも、家族になる日。そんな日に何も贈らないのは、さすがにどうかと思うし、何よりいつも頂いてばかりだし私も何か返したい。


朝食の味が、急に分からなくなった。



朝食後。私は自室に戻るなり、スマホを握りしめてとある人物に電話を掛ける。

相手は飛鳥さんだ。怜奈さんの姉なのだから、好きな物も知っているはずだ。


だが、そんな私の思いとは裏腹に通話越しの飛鳥さんは困ったように唸った。


『怜奈さんへの誕生日プレゼントかぁ……』

「はい。何がいいと思います?」

『うーん。あの子は昔から真面目ちゃんだったから好きな物とか欲しがってるの見たことないのよね。私が服とかアクセサリーをプレゼントしても真顔でありがとうって言うだけだし……てか、どちらかと言えば男勝りだし』


それは分かる。失礼だけど分かってしまう。


『でも、怜奈のことをよく知ってて、女友達も多い奴ならいるわよ』

「え?」

『御堂蓮。怜奈と私の腐れ縁』

「ああ……」

『あいつなら、怜奈の好みも分かるかもね。ちょっと軽いけど、悪い奴じゃないから』

「ちょっと?」

『……かなり軽いけど、悪い奴じゃないから』


言い直した。そこは否定しないらしい。その後、飛鳥が連絡を取ってくれて、蓮さんからの返事は驚くほど早かった。


『駅前来れる? 暇だから見繕ってやるよ』


行動力が凄い……陽キャっぽいもんな。別に予定はなかった私はすぐに蓮さんと合流することになった。最初は普通だった。


アクセサリーに香水。女性が使う小物。

怜奈さんが使いそうな上品なマグカップ。


蓮さんは軽口を叩きながらも意外なくらい真面目に選んでくれた。だから少し油断した。


思ったよりちゃんとしているのでは?


そう思った私が甘かった。



* * *



そして現在。私は高級下着屋で、ピンクのネグリジェと向かい合いながら唸っている。


「……蓮さん」

「ん?」

「義理の兄になる予定の人が、妹分を高級下着屋に連れてくるのはどうかと思います」

「安心しろ。俺は飛鳥さん一筋だ」

「そういう問題じゃないです」

「それに、これは完全に怜奈攻略会議だ。俺は妹分の恋路を応援してるだけ」

「応援の方向性が間違ってます!」


蓮さんは悪びれもせず笑う。軽い人だ。

だが、不思議と嫌な感じはしない。

たぶん、この人は本気で私と怜奈さんのことを応援してくれている。方法はアレだが。


「まあ冗談はこのくらいにして」

「冗談だったんですか?」

「半分な」

「半分!?」

「まぁ、こっちの方が現実的だろ」


蓮さんはそう言って別の棚を指差した。指先は淡い色のルームウェアで止まっている。

柔らかそうな生地で、派手すぎず、けれど少しだけ可愛い。怜奈さんに贈るものというよりは私が着るものに近い感じがした。


「……これ、私用ですよね?」

「そうだな」

「結局そうなんじゃないですか」

「でもさ」


蓮さんは珍しく真面目な顔になる。


「怜奈が一番喜ぶのって、高い物じゃなくて彩音ちゃん自身だと思うぜ」

「……」

「だから、そういう意味では間違ってない」

「……じゃあ、これにします」


私はルームウェアを抱えながら頷く。プレゼントとしては少し変かもしれない。けれど、高価な物を渡すよりも、怜奈さんが見た時に少しでも喜んでくれるものの方がいい気がした。


「おう。それが一番無難だな」


蓮さんも満足そうに腕を組んだ。これでプレゼントは決まりだろう。

そう思った時だった。視界の端に、さっきのピンクのネグリジェが入る。


「…………」

「……気になる?」


隣で蓮さんがニヤリと笑った。


「気になってません」

「目線が三回行ったぞ」

「勘違いじゃないですか」


私は慌てて視線を逸らす。気になっていない。

本当だ。ただ、どんな人が買うんだろうと思っただけである。決して自分が着たらどうなるとか、そんなことは考えていない。


たぶん……。


「まあ記念に買っとくか?」

「買いません」

「即答かぁ〜」


私は断言した。断言したのだが――数分後。

レジ前に立つ私の手には、ルームウェアと小さな可愛らしい紙袋があった。


「……」

「……」

「一応です」


誰にも聞かれていないのに言い訳が口から出た。


「何の?」

「一応です」

「あぁ……なるほど?」


蓮さんは大きく頷く。


「一応なら、仕方ねぇな」


絶対に納得していない顔だった。


私たちは買い物を終えてから最初に待ち合わせた駅前まで戻ってきた。夕方の駅前は人が多い。学校帰りの学生や、買い物帰りの人たちが行き交っている。その中で、蓮さんは相変わらず軽い調子で歩いている。そして、隣にいる私はずっと落ち着かなかった。腕に抱えた紙袋が、妙に存在感を放っているからだ。


自分から女性用の服を買ったのは、これが初めてだった。


今までは、怜奈さんが必要なものを揃えてくれていた。普段着も、下着も、部屋着も。私の好みを確認しながら、けれど私が困らないように、全部自然に用意してくれていた。


だからレジに立った時、思っていたよりずっと緊張した。店員さんは普通に対応してくれたし、蓮さんも特に茶化さなかった。


……いや、茶化しはした。

でも、肝心なところでは何も言わなかった。

それが少しだけありがたかった。


腕に抱えた紙袋を見る。ルームウェア。

それから——一応の紙袋。


「じゃあな、彩音ちゃん」


駅前の広場で足を止めると、蓮さんが軽く手を振った。


「誕生日、ちゃんと祝ってやれよ」

「はい」

「怜奈、ああ見えて結構喜ぶと思うから」

「……分かりました」


蓮さんは満足そうに笑い、人混みの中へ消えていった。軽い人だ。チャラいし、余計なこと言うし、最後まで私を揶揄ってきた。


けれど、たぶん本当に悪い人ではない。


私は蓮さんの背中が見えなくなるまで少しだけ見送って、それからもう一度、紙袋を見下ろして口角を上げた。


三日後。


私と菜月が正式に家族になる日で、怜奈さんが生まれた日。


その日が、少しだけ怖くて。


それ以上に、楽しみだった。

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