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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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あと一日のはずだった

「よし、クロ。次いくよ」

「わふっ!」


黒牙狼のクロが駆け出す。

その後ろを追いながら、私は配信端末へ視線を向けた。


『成長はっや』

『前より明らかに動き良くなってる』

『もうCランクダンジョン慣れてるやん』

『えっど』

『最近配信なかったと思ったらこんな子に育っちゃって』


「どんな子ですか、それ」


思わずツッコミを入れながら飛び掛かってきた人型モンスターの腕を躱し、爪を振るう。

首筋を切り裂き、体勢を崩したモンスターへクロが飛び込んで、喉元へ噛み付いた。


魔石が転がる。

私はそれを拾い上げてポーチへ放り込んだ。


「よし。一体」


もう息も乱れない。少し前までなら、Cランクダンジョンの空気だけで緊張していた。

けれど今は違う——レベルも上がった。


ステータスも伸びた。

そして何より――魔力容量が増えた。


半サキュバス状態は以前なら二時間も維持できれば上出来だった。だが、今では五時間近く維持できるようになっている。もちろん油断はできない。魔力が尽きれば終わりだ。それでも、以前よりずっと余裕があった。


『家族の件はどうなったんや?』

『詳細喋れないんちゃうか』

『普通に個人の話やろ』

『妹ちゃん元気?』

『菜月ちゃん見たかった』


コメント欄が流れ、私は少しだけ苦笑した。


「元気だよ」


それだけ答える。今は詳しくは話せない。


「色々落ち着いたので大丈夫です」


そう言うと、コメント欄が少しだけ穏やかになった。


『よかった』

『安心した』

『幸せになれ』

『お姉ちゃん頑張れ』


なにそれ。思わず笑ってしまった。その様子を後ろから見ていた飛鳥さんが肩を竦めた。


「ほんと人気者になったわねぇ」

「なってませんよ」

「いや、なってるって」


今日は飛鳥さんとCランクダンジョンにレベル上げに来ている。七夕まであと一日。あと一日で氷室家に正式に保護される形になるから、何かあったらマズイと怜奈さんが飛鳥さんに私の護衛を頼んだらしい。


国内で最強と名高いクランのリーダーが私の護衛なんて国の損失では?とか考えていたが、飛鳥さんは「休みだ!」と喜んでいた。


「そういえば」


少し後ろを歩いていた飛鳥さんが、思い出したように口を開いた。


「昨日、蓮を紹介してあげたでしょ?」

「はい」

「どうだった? ちゃんとプレゼント見つけられた?」

「……見つけました」


思わず答えてから、私は配信端末の存在を思い出した。しまった。今、普通に喋ってしまった……いや、誕生日ぐらい知ってるのか?


『プレゼント?』

『誰への?』

『あっ、怜奈さん?』

『明日七夕やん』

『怜奈さんって誕生日配信しないもんな』

『なんか顔赤くない?』


コメント欄が一気に反応する。

私は慌てて首を振った。


「秘密です。これは秘密です」

「へぇ」


飛鳥さんが楽しそうに目を細める。

その顔は完全に私をからかう時の顔だった。


「でも、蓮と買い物したんでしょ?」

「しましたけど」

「変な物買わされなかった?」

「……」


その瞬間、脳裏に小さな紙袋が浮かんだ。

ルームウェア。それから——アレの紙袋。


「彩音ちゃん?」

「な、何でもないです」

「顔赤いけど」

「ダンジョン内が暑いだけです」

「ここ涼しいけど?」

「気のせいです」


『草』

『絶対なんか買ってる』

『蓮さん何買わせたんだよ』

『顔赤いぞサキュバスちゃん』

『蓮ってAランク配信者の、あの蓮?』

『男やんけ! 浮気やぞ犬サキュバス』


「コメント欄も乗らないでください! てか、蓮さんって配信者だったんですか?」

「あれ、言わなかったっけ? 探索者じゃないけど、ゲームとかしてる配信者ね」


飛鳥さんはくすくす笑っていた。


「まぁ、蓮は置いといて。怜奈が喜ぶなら何でもいいんじゃない?」

「そうですね」

「で、喜びそうな物なの?」

「まぁ……たぶん」

「ふーん。やっぱり顔が赤いわよ〜」

「赤くないですって!」


後1日だけなのに体も心も浮き足立っているようにソワソワしている。家族になり怜奈さんの誕生日をみんなでお祝いする。

そして夜は2人きりでプレゼントを渡して、いい感じの雰囲気になったりしちゃったり……


そんな欲望丸出しの想像に耽っていた。


その時だった。


「……わふん」


クロが、低く唸った。さっきまでコメント欄に反応するように尻尾を揺らしていたクロの毛が、ゆっくりと逆立っていく。


「んっ、クロ?」


私は足を止める。

飛鳥さんの表情も変わった。


「彩音ちゃん、下がって」


さっきまでの軽い声ではなかった。私はビクリと肩を振るわせ反射的にクロの傍へ寄る。

コメント欄も異変に気付いたらしい。


『どうした?』

『飛鳥さん?』

『なんかあった?』

『クロの様子おかしくね?』


ダンジョンの通路に静寂が落ちる。魔物の気配ではない。もっと嫌な何かだった。


飛鳥さんは前へ出る。

視線の先――薄暗い通路から人影が現れた。


一人、二人、三人、四人。


全員が黒いフルフェイスマスクを被っていて顔は見えない。年齢も性別も分からない。

探索者用の装備を身に着けているが、所属を示すエンブレムもクランマークも見当たらなかった。


「……」


誰も喋らない。四人はゆっくりと足を止め、そして先頭の一人が手を上げる。それだけの合図で、残りの三人が自然に散開する。


左右へ。そして後方へ。私達を囲むように。

その動きは妙に滑らかだった。訓練された探索者。それも、かなり場数を踏んでいる。


「彩音ちゃん」

「は、はい」

「配信はそのまま」


私は思わず飛鳥さんを見る。


「え?」

「切らないで」


飛鳥さんは視線を前から外さない。


「その方が都合がいい」


コメント欄が一気に流れ始めた。


『は?』

『人間?』

『誰だよ』

『囲まれてる?』

『これやばくね?』

『通報した方がいい?』


クロが低く唸る。黒い毛並みが完全に逆立っていた。対する四人は無言のまま私達を観察している。嫌な視線を全身で感じる。


先頭の男が腰の武器へ手を伸ばした。

その瞬間、飛鳥さんが小さく息を吐く。


「面倒ね。せっかくの休日だったのに」


飛鳥さんの言葉を皮切りに、四人が同時に動いた。

速い。そう思った時にはもう、一人が目の前にいた。


「っ!」


反射的に腕を上げる。黒い短剣が振り下ろされ、私の爪とぶつかった。

金属音と共に腕に重い衝撃が走る。


「重っ……!」


Cランクの魔物とは違う。速さも、重さも、何もかもが違った。私が体勢を崩しかけた瞬間に横からクロが飛び込んでくる。


「わぅっ!」


黒い影が男の腕へ噛み付こうとする。

けれど、男は一歩だけ下がってそれを避けた。


「クロ!」


私が叫ぶより早く、別の一人がクロへ向かって踏み込んだ。その刃がクロへ届く直前。

飛鳥さんが間に入った。


「させないわよ」


短い声。

次の瞬間、男の身体が横へ吹き飛んだ。


何をしたのか分からなかった。飛鳥さんが軽く腕を振ったように見えただけだ。

けれど、吹き飛ばされた男は壁に叩きつけられ、すぐに体勢を立て直す。


『はっや』

『今何が起きた?』

『飛鳥さん!?』

『相手強くね?』

『通報した』

『協会に連絡した』


コメント欄が流れる。

でも、見る余裕なんてほとんどなかった。


「彩音ちゃん」


飛鳥さんが前を向いたまま言う。


「下がって」

「で、でも」

「いいから下がりなさい」


その声に身体が勝手に動いた。私はクロと一緒に一歩下がる。四人の襲撃者は無言のまま再び動き出した。狙いは私かもしれない。


そう思った瞬間、背筋が冷えた。

でも、次の瞬間にはもう終わっていた。


「遅い」


飛鳥さんが消えた。いや、消えたように見えただけだ。気づいた時には、正面にいた男の腕が捻り上げられていた。


鈍い音がして、男の膝が崩れる。


一人。


横から回り込んだ男が短剣を振るう。飛鳥さんはそれを見もしないで、肘で受け流した。

そのまま肩を掴み、地面へ叩きつける。


二人。


残り二人が同時に動く。一人は飛鳥さんへ。

もう一人は——私へ。


「クロ!」

「わふっ!」


私は爪を構える。けれど、私が動くより先に、飛鳥さんが間にいた。いつ移動したのか分からない。本当に分からなかった。飛鳥さんは私へ向かってきた男の手首を掴み、引いた。


それだけで男の身体が宙に浮く。

次の瞬間、壁へ叩きつけられた。


三人。


最後の一人が、後退する。

逃げようとしたのだと分かった。


けれど、飛鳥さんは逃がさなかった。

床を蹴る音が一度だけ響く。距離が消える。

そして、飛鳥さんの拳が男の腹へ入った。


声も上げずに男が崩れ落ちる。瞬く間に襲撃してきた全員が沈んでしまった。


私はただ立ち尽くす。一人相手でも、私は押されていた。クロと一緒でも、たぶん勝てるかどうか分からない。

なのに飛鳥さんは、四人をまとめて沈めた。

それも、私とクロを守りながらだ。


「……強すぎません?」


思わず呟くと、飛鳥さんは息ひとつ乱さず肩を竦めた。


「休日を邪魔されたからね」


理由が軽い。けれど目は笑っていなかった。

飛鳥さんは倒れた四人を見て、静かに言う。


「ねぇ、彩音の家って裕福?」

「え……?」


唐突な質問に、私は一瞬反応が遅れた。


「いえ。普通、だと思いますけど」

「そう」


飛鳥さんは倒れた四人を見下ろしたまま、目を細める。


「この人たち、少なくとも安く動く連中じゃないと思うんだけどな……」


その言葉に背筋が冷たくなった。私は、倒れた黒いマスクの四人から目を離せなくなる。

誰が。何のために。私を狙ったのか。


七夕の前日——私が氷室家に入る、その一日前。


そんな日を邪魔する人間なんて、私には一つしか心当たりがなかった。


ようやく落ち着いたと思っていた日常に、また嫌な影が差した気がした。

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