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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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第4話 知らない天井と繋がれた手

目を覚ますと、知らない天井が見えた。白い天井。薄いカーテン。

微かに香る、洗剤みたいな匂い。ダンジョンの湿った石の匂いでも鉄臭い空気でもない。


柔らかい。そう思った。

背中に触れているのは、冷たい床ではなくベッドだった。身体を包む布団も妙に温かい。


「……どこ、ここ」


声が漏れる。高くて細い声。

その声を聞いた瞬間、ぼんやりしていた頭が一気に覚めた。


「……っ」


慌てて両手を見る。小さくて白い手。細い指には黒く伸びていた爪。

今は人間と同じくらいの長さに戻っている。

銀色の髪が、肩から胸元へさらりと落ちた。

変わっていない。戻ってはいない。


「……よかった」


胸の奥から、息が抜けた。

けれど、次の瞬間。

右手に温かい感触があることに気づいた。


「……え?」


視線を向けると私の右手は、誰かの手を握っていた。細くて、長い指。

その先にいたのは——黒髪の少女だった。

ベッドの横に置かれた椅子に腰かけ、腕を組んだまま目を閉じている。


氷室怜奈。Bランク探索者。

昨日、ダンジョンで私を助けてくれた人だ。


「……あ」


思い出した瞬間、顔が熱くなった。

魔力が足りなくて、訳が分からなくなって。

この人の手を掴み離したくないとか言って。


そのまま、気を失ってしまったんだ……私。


「……最悪じゃん」


いや、助かったのだから最悪ではないのか?

でも、初対面の相手に手を握ったまま寝ている状況は普通に考えてかなりまずいぞ。

そっと手を離そうとする——その瞬間。


「離すと、不安定になるかもしれないわよ」

「ひゃぁぁっ!?」


怜奈さんの目が、開いていた。冷たい、けれど澄んだ瞳。

寝起きとは思えないほど落ち着いた顔で、彼女は私を見ていた。


「起きたのね」

「お、起き、ました……」

「体調は?」

「えっと……たぶん、大丈夫、です」

「そう」


怜奈さんは、繋いだ手を見下ろす。


「ならいいわ。あなた、寝ている間も魔力を少しずつ吸っていたから」

「……え」


私は固まった。


「ご、ごめんなさい!」


慌てて手を離そうとする。

けれど、その前に怜奈さんが軽く握り返した。


「怒ってない。勝手に渡したのは私だし」

「で、でも」

「あなた。魔力が切れたら危険でしょう?」


淡々とした声。

責めるわけでも、慰めるわけでもない。

ただ事実だけを並べるような声だった。


「昨日の貴女は明らかに普通じゃなかった。他人の魔力に反応していた。たぶん初期スキルで特殊なものを選んだんでしょ」

「はい……たぶん、そうです」


私は視線を落とす。自分でも、何が起きたのか全部分かっているわけじゃない。

けれど、視界に出た文字だけは覚えている。


「性転換スキルを選んだら、身体が変わって……それで、半サキュバスって表示が出て女性形態を維持するには魔力が必要だって」

「半サキュバス……」


怜奈さんの眉が、わずかに動いた。


「本当に種族が変わってたのね」

「……はい」

「性転換スキルは、昨日見つかったばかりの新スキルだったわね。たぶん、協会にも詳しい情報はないはずよ」


怜奈さんは少し考えるように目を細めた。


「まして、種族変化なんて前例がない」

「……前例、ないんですか?」

「少なくとも、私は聞いたことがない」


その言葉に喉が詰まった。自分が手に入れたものが、ただの便利な力じゃないことは分かっていた。でも、改めて他人の口から言われると、急に怖くなってしまう。


「私……どうなるんですか?」

「分からない」


怜奈さんは迷わず言った。

その正直さに、胸が少しだけ冷える。


「ただ、一つだけ分かることがある」

「……なんですか?」

「放っておくと危ない……と思う」


怜奈さんは私の手を握ったまま静かに言う。


「だから、しばらく私のところにいなさい」

「え……?」

「あなたが家に戻って、また昨日みたいな状態になったら危ないわ。家族を傷つける可能性もある」


怜奈さんは、繋いだ手を見下ろしながら静かに続ける。


「脅しているわけじゃないからね? 今のあなたは、それくらい不安定なのよ」


そんなに危ない状態なのか。自分では、もう落ち着いているつもりだった。

けれど、昨日のことを思い出すと何も言い返せない。魔石を食べても足りなくて。

怜奈さんの魔力に反応して気づいた時には手を掴んでいた。


あれがもし、家族相手だったら。

そう考えた瞬間、背筋が冷えた。


「……分かりました」


小さく頷く。


「しばらく、お世話になります」

「そう」


怜奈さんは短く返した。

そのまま少しだけ沈黙が落ちる。次に彼女は、ちらりと私の制服を見た。

ダンジョンの床を転がったせいで、袖も裾も汚れている。髪にも細かい砂が絡んでいた。


それから、自分の服にも視線を落とす。

黒い探索者用ジャケット。

昨日、ダンジョンで見た時と同じ服だ。


「……とりあえず、お風呂ね」

「え?」


怜奈さんが立ち上がる。手は繋がれたまま。

当然、私の身体も引っ張られる。


「え、ちょ……怜奈さん?」

「あなた、ダンジョンの汚れがついたまま寝ていたのよ。私も昨日から着替えていない」

「そ、それは……すみません」

「謝るより先に洗う」


淡々と言われ、私は反射的についていく。

廊下を抜け、洗面所らしき場所へ。


白い壁。綺麗に畳まれたタオル。生活感はあるのに、どこか整いすぎていて、

怜奈さんらしい部屋だと思った。そこでようやく、私は自分がどこに連れてこられたのか理解する。


ここは、脱衣所だ。


「……え?」


頭が止まる。いや待て。脱衣所といえばお風呂。

手を繋いだままってことは、つまり——


「ま、待ってください!」

「何?」

「何、じゃないですよ! お風呂って、その……!」

「入るだけよ」

「それは分かってますけど!」


顔が熱くなる。自分でも何に慌てているのか分からない。

いや、分からなくはない。身体は女になったが、昨日までの感覚が完全に消えたわけじゃない。

それに相手は昨日会ったばかりの綺麗な女の子で。しかも手を繋いだまま脱衣所にいる。


落ち着けるわけがないじゃん……。

怜奈さんは、そんな私をじっと見ていた。


「女同士で何を赤くなってるのよ?」

「そ、それは……!」


言い返せない。確かに今の私は女だ。女、なのだけど。

その事実に、まだ心が追いついていない。


「昨日まで男だったので!」


勢いで言ってしまった。

怜奈さんが、ほんの少しだけ目を瞬かせる。


「……そういえば、そうだったわね」

「そういえばで流さないでください!」

「でも、手を離すと不安定になるかもしれない」

「ううっ……」


それを言われると弱い。実際、手を離そうとしただけで不安になったのも事実だ。

怜奈さんの魔力は、まだ繋いだ手からゆっくり流れてきている。

安心するから離したくない。そう思ってしまう自分が、少し恥ずかしい。


「じゃあ、せめて背中向けててください」

「分かった」


即答だった。怜奈さんは余計なことを言わず、すっと背を向ける。

その動きがあまりにも自然で、逆にこっちが恥ずかしくなる。


「タオルはそこの棚。着替えはあとで私のを貸すわ」

「……はい」

「倒れそうなら言いなさい」

「はい……」


私は小さく返事をしながら、繋いだ手を見下ろす。怜奈さんの手は相変わらず温かかった。

恥ずかしいし、気まずい。落ち着かない。

けれど、不思議と怖くはなかった。


「……怜奈さん」

「何?」

「……ありがとうございます」


背中を向けたまま、怜奈さんは少しだけ黙った。

そして、いつもの冷たい声で言う。


「お礼は、ちゃんと安定してからでいいわ」


その言い方が少しだけ優しく聞こえて、私はまた顔が熱くなった。

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