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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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怜奈さんの手料理

食堂へ向かう廊下は、やけに長く感じた。


隣には、いつの間にか綺麗に毛並みを整えられたクロが歩いていた。

首元には仮登録用らしい細い首輪がつけられている。


「……君も綺麗にされたんだね」

「わふ」



クロが小さく鳴く。その声が妙に可愛くて、思わず歩きながら背中を撫でてやった。

そんなやり取りをしながら歩いている間にもメイドさんが静かに立ち止まった。


「こちらで皆様、お待ちになっております」


皆様。つまり、怜奈さんだけではない。

怜奈さんのお父様やお母様がいる。


私は深呼吸した。

メイドさんが扉に手をかける。


「どうぞ」


扉が、静かに開いた。

視界に飛び込んできたのは広い食堂だった。

長いテーブル。白いクロス。高そうな食器。天井にはシャンデリアと言われる照明器具。


その奥に、三人が座っている。一人は怜奈さん。そして、筋肉質で背筋の伸びたTシャツ一枚の男性。

座っているだけなのに、ものすごく強そうだった。そして、もう一人は、怜奈さんによく似た綺麗な女の人。ただ、雰囲気は怜奈さんよりずっと柔らかい印象で、ふわふわしているというか、にこにこしているというか。


怜奈さんが氷ならこの人は綿あめみたいだ。

いや、何を考えているんだ私は。


「く、黒井彩音です。本日は、その……ご招待して頂き、ありがとうございます」


私は慌てて頭を下げた。

すると、隣のクロも真似するように頭を低くする。


「わふ」


クロは調教された犬の如く綺麗なおじきに披露してみせた。

頭が良い子だ。こんな状況でも無ければ、体を撫で回してあげるのだが。


「まあ」


最初に声を上げたのは、怜奈さんのお母様らしき人だった。


「とってもお利口さんなのねぇ」


ファーストコンタクトは悪くない。クロを連れて来たのは失敗かな思っていたが、ご両親の表情が少し緩んだ気がするぞ。その中でも、真顔で見ている怜奈さんが怖いけど……


「あなたが彩音ちゃんね。怜奈から話は聞いているわ」

「は、はい」

「本当に可愛らしい子ね」

「あ、ありがとうございます……」


今のは、私のことだろうか。

それともクロのことだろうか。


「母さん」


怜奈さんが小さく声をかける。


「彩音が困っているわ」

「あら、ごめんなさい。怜奈が誰かを連れてくるなんて初めてだから、嬉しくて」


怜奈さんが、わずかに視線を逸らした。耳が少しだけ赤い。

……初めて。その言葉に、なぜか私の胸が少しだけ跳ねた。


腰の後ろで、尻尾がふわりと揺れる。

その動作にお母様が楽しそうに笑った。


「まあ。本当に素直なのね」

「す、すみません……」

「謝ることではないわ。可愛いもの」


この家の人たち、真顔や笑顔で心臓を攻撃してくるな。

席に案内されると、怜奈さんのお父様らしき人が静かに口を開いた。


「氷室征司だ。怜奈の父だ」

「く、黒井彩音です」

「知っている。配信は見ていたからな」

「やっぱり、見られてましたか……」


お父様は真顔のまま頷く。


「面白い戦い方だった」

「お、面白い……ですか?」

「ああ。ダンジョンに居るボスモンスターをテイムした奴は珍しい。会社の研究者達が大興奮しただろうよ」


うーん、責められているのか、褒められているのか分からない。

でも、少なくとも怒っているわけではなさそうに感じる。

というかお父様も真顔でちょっと怖いな。


「あなた」


お母様がふわりと笑う。


「初対面の女の子をそんな顔で見つめたら怖がらせてしまうわ」

「……そうか」

「ええ。とても怖いわ」

「……気をつけよう」


お父様は真顔で頷く。なんとなく分かった。

怜奈さんの表情はお父様譲りかもしれない。


「それにしても、彩音ちゃん」


お母様が私の服を見る。


「そのドレス、とても似合っているわね」

「あ、ありがとうございます」

「尻尾の位置もぴったりでしょう?」

「ぴったりですけど……」

「よかったわ。怜奈がずいぶん細かく指定していたからね。気合い入れて作ったのよ」

「母さん、やめてよ……」


怜奈さんの声が一段低くなった。


「ふふ。だって本当のことだもの。尻尾の位置、ツノ飾りとの相性、肌の色に合う生地、全部確認していたわ」

「母さん」

「それに、彩音ちゃんには薄水色から紺色までが似合うって、ずっと言っていたものね」


私は思わず怜奈さんを見れば、怜奈さんの耳が赤かった。まるで、ゆでダコみたいだ。

怜奈さんと目が合えば、無表情のまま、そっと視線を逸らされた。


……怜奈さん。あなた、やっぱりかなり前から準備していたんですね。

私的に嬉しかったから別に良いけど……体の隅々まで把握されているのは、やはり恥ずかしくもある。


怜奈さんは何も言わなかった。ただ、耳だけがさらに赤くなっていくだけで、無言。

否定もしない。つまり、そういう事なのだろう。


「あら。怜奈、黙っていたの?」

「……必要だと思っただけよ」

「必要?」

「彩音が困らないように」


怜奈さんはいつもの声で言った。

けれど、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと熱くなってしまう。


困らないように。私が急に呼ばれても、着られる服があるように。尻尾も、ツノも、全部込みでちゃんと可愛く見えるように。そんなところまで考えてくれていたのだと思うと、嬉しい。嬉しいけれど、恥ずかしすぎる。


腰の後ろで尻尾がブンブンと揺れている。

お母様が私の尻尾を見て楽しそうに笑った。


「本当に可愛いわねぇ」

「母さん」


怜奈さんがまた止めに入る。

けれど、お母様は気にした様子もなく、今度は私の隣にいるクロへ視線を向けた。


「それで、この子が今日テイムした黒牙狼ちゃんね〜」

「は、はい。クロです」

「女の子なのよね?」

「狼です」

「女の子、なのよね?」

「……狼です」


なぜだろうか……さっき怜奈さんとも同じ会話をした気がする。クロは自分の話をされているのが分かっているのか、私の隣で大人しくおすわりをしていた。


お父様がクロを見て、静かに頷いた。


「良い個体だ」

「分かるんですか?」

「ああ。毛並み、魔力量、反応速度。どれもDクラスのボスとしてはかなり上位だろう」

「やっぱり強い子なんですね」

「強い。だが、それ以上に賢い」


そう言われた瞬間、クロが少し誇らしそうに胸を張った気がした。


「……君、褒められてるの分かるの?」

「わん」


遂に鳴き声まで犬みたいになっちゃったよ。

そんなクロを見て、お母様が目を細める。


「まあ、本当にお利口さん」

「はい。怖かったですけど、今はすごく大人しくて……」


そこまで言ってから私は慌てて口を閉じた。

怖かった。それはつまり、ボス戦で私が危ない目に遭ったということでもある。

怜奈さんの視線が、静かに私へ戻った。


「彩音」

「はい」

「あとで、詳しく聞くわ」

「……はい」


逃げ場はなかった。けれど、怜奈さんの声は怒っているというより心配している声だった。

それが分かってしまうから、私は素直に頷くしかなかった。


お母様が手を合わせる。


「でも、まずは食事にしましょう。彩音ちゃん、ダンジョンで疲れているでしょう?」

「あ、はい。少し……」

「たくさん食べてね。魔力の回復にもいいものを用意してあるから」

「魔力の回復……」

「怜奈が言っていたの。彩音は魔力が減りやすいから、食事にも気をつけたいってね。ちなみに怜奈が作った手料理よ。これ」


その言葉を聞いて、私は目の前にある豪華な食事を見る。名前すら分からないような高そうな料理の数々。綺麗に盛り付けられた肉料理、湯気の立つスープ、小さな焼き菓子みたいなものまである。


……女子力が高すぎる。


怜奈さんは自宅では料理を焦がしたり、洗濯してはいけない服を洗濯してしまったりと意外にも、おっちょこちょいなところがある。だから、少しだけ思っていたのだ。もしかして、生活力だけなら私の方が上なのではと。


……ごめんなさい。

完全に思い上がりでした。


本気を出した怜奈さんは、普通に強かった。

探索者としても強いのに、料理まで強いのは反則ではないだろうか。


「……女として、負けた気がします」

「何に?」


怜奈さんが不思議そうに首を傾げる。


「料理力です」

「必要だから作っただけよ」

「必要だからで、このレベルは出ませんよ」


私がそう言うとお母様が楽しそうに笑った。


「怜奈、今朝こっちに来てから、ずっと厨房にいたものね。彩音ちゃんが食べやすいように、魔力が強すぎないように、でもちゃんと回復できるようにって、料理長にまで相談していたわ」

「母さん」

「それに、見た目が可愛い方が喜ぶかもしれないって」

「お母さん!」


怜奈さんの声が、少しだけ大きくなった。

珍しい。いつも冷静で、何を言われても表情を崩さない怜奈さんが今だけは明らかに慌てている。


耳は真っ赤に染まり、視線は逸れている。私は目の前の料理を見る。私のために、食べやすいように。魔力が強すぎないように。でも、ちゃんと回復できるように。


そこまで考えて作ってくれた料理。


「……怜奈さん」

「なに」

「ありがとうございます」

「必要だっただけよ」

「はい。でも、嬉しいです。本当に……」


そう言った瞬間、腰の後ろで尻尾がぶんぶん揺れた。

食卓なので止めようとする。けれど、止まらない。


お母様がにこにこと笑う。


「まあ。本当に分かりやすい子ねぇ」

「す、すみません……」

「謝ることではないわ。怜奈も嬉しそうだもの」


怜奈さんの手が止まる。でも、否定はしなかった。

私は顔が熱くなるのを感じながら、スプーンを手に取る。まずは、スープを一口。



「……っ」


温かくて、優しい味がする。それだけじゃない。喉を通ったあと、胸の奥にじんわりと魔力が広がっていく。ポーションみたいに一気に満たされる感じではない。カフェで食べた魔力パンケーキよりも、もっと柔らかい。身体に染み込むような魔力だった。


「……美味しいです」

「……そう」


短い返事だった。

けれど、耳がさらに赤くなったので、たぶん伝わったのだと思う。


私はもう一口、スープを飲む。怜奈さんの料理は思っていた以上に優しかった。

味も、魔力も。そして、それを作ってくれた理由も。


腰の後ろで揺れる尻尾は、今日もまったく隠す気がなかった。


ちなみにクロも小皿に料理を分けられて美味しそうに食べていた。

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