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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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19/42

可愛い服が足りないそうです

デート当日の朝。


私はいつもの探索者用の服に着替えようとしていた。動きやすくて、汚れても問題ない。何よりも尻尾を出すための穴も開けてもらっている。つまり、今の私にとっては一番安心できるスタイルの服だ。


「彩音」


背後から怜奈さんの声がした。


「今日はそれじゃないわ」

「え?」


振り向くと怜奈さんは紙袋を持っていた。


「これを着て」

「……これ、何ですか?」

「服よ」

「それは、見れば分かりますけど」


受け取った紙袋の中から出てきたのは、白いブラウスと淡い色のスカートだった。

それから、薄手のカーディガン。ツノが目立ちすぎないようにするための帽子。

そして、尻尾を出すために背中側が少し加工された服。


「これ、私のために用意したんですか?」

「ええ」

「いつの間に……」

「デート用の服がなかったでしょう」


怜奈さんはいつも通りの顔で言う。

けれど、服の選び方が妙に細かい。

サイズも合っている。尻尾の位置もちゃんと考えられている。


それに、全体的に可愛い。


「……こういう服、久しぶりです」


思わず呟くと、怜奈さんが少し目を細めた。


「久しぶり?」

「小さい頃は、こういう服も着てたんです。女の子として育てられてた時期があったので」


口にしてから、少しだけ胸の奥が重くなる。

あの頃は何も気にしていなかった。

可愛い服を着せられてもそれが普通だった。

スカートも、リボンも、白いブラウスも。

自分がそれを着ていることに、違和感なんてなかった。


でも、両親の関心が少しずつ私から離れて周りに合わせるようになって。

いつの間にか、そういう服は着なくなった。だから、今こうして目の前にすると、変な感じがする。


懐かしいと思う反面、恥ずかしさもある。


「……今の私は女の子なんだから、恥ずかしがる必要ないはずなんですけどね」


そう言いながら、私は服を胸元に抱えた。


「大丈夫よ。似合うと思うわ」

「ふふ、まだ着てませんけど」

「絶対に似合う。似合う服を選んだもの」

「怜奈さん、ちょっと自信ありすぎません?」


怜奈さんは少しだけ視線を逸らした。

なんか隠している感じがするが、私の為に買ってきてくれた服だし、追求しないでおこう。


「じゃあ、着替えてきますね」

「ええ。待ってるわ」


私はリビングを出て、脱衣所で服を着替えることにした。

脱衣所に入ってから、今着ている服を脱ぎ、買ってもらった服へ着替える。


白いブラウスに淡い色のスカート。薄手のカーディガン。小さい頃に着ていた服とは違う。

けれど、どこか懐かしい感じがする。鏡の中には、銀色の髪に黒いツノ。腰の後ろには尻尾。


普通の女の子とは少し違う私が立っていた。

でも。ちゃんと、女の子に見えた。


「……うわ」


嬉しいのだが、やはり恥ずかしい。

落ち着かない。小さい頃は、こんな服を着ても何とも思わなかった。けれど今は違う。

自分で女の子になりたいと思って。その願いが叶って。その上で、こういう服を着ている。


それが、どうしようもなく恥ずかしい。

だが、その反面、嬉しくも感じていた。


「……怜奈さん」


脱衣所の扉の前で、私は小さく声をかけた。


「着替えました」

「そう。出てきて」


返事はいつも通り落ち着いている。

なのに、なぜか私の方が妙に緊張していた。

別に変な服ではない。露出が多いわけでもない。

白いブラウスに、淡い色のスカート。薄手のカーディガン——普通に可愛い服だ。


私は一度だけ深呼吸して、扉を開けた。

リビングにいた怜奈さんが、こちらを見る。


1秒。5秒。10秒。長い……長すぎない?


「あ、あの……変ですか?」


思わず聞くと、怜奈さんは瞬きをしてから。


「……いいえ」

「じゃあ、何か言ってください」

「似合っているわ」

「本当ですか?」

「ええ」


怜奈さんの声は、いつも通り冷静だった。

視線が泳いでいるように見えるけどね。


「……怜奈さん?」

「何?」

「今、ちょっと間がありましたよね?」

「確認していただけよ」

「何をですか?」

「似合っているかどうか」

「本当にそれだけですか?」


怜奈さんは答えない。

代わりに、私の頭から足元までをもう一度見てから、私の周りをくるくると回り、全体を確認してくる。


「……やっぱり、似合っているわ」

「その見方は恥ずかしいんですけど」


腰の後ろで、尻尾がふわふわと揺れた。

自分では止めようとしているのに止まらない。

怜奈さんがそれを見て、ほんの少しだけ目を細めてからスカートを見る。


「その……インナーパンツも履いたのかしら?」

「あ……はっ、履きましたけど、あれって何ですか? 最近の女性の流行りなんですか?」


私はスカートの裾を軽くつまむ。スカートだけでも落ち着かないのに、その下に履く専用の短いズボンまで用意されていた。いや、必要なのは分かる。尻尾があるし、動くと裾が揺れるし、探索者として考えれば安全対策なのも分かる。


でも。


「なんか、こう……すごく女の子用って感じがして、恥ずかしいんですけど」

「必要よ」

「本当に必要ですか?」

「尻尾が動くでしょう」

「うっ……それはそうですけど」

「それに、風が吹いた時も安心だわ」

「急に実用的な話に戻さないでください」


怜奈さんはいつも通り真顔だった。

けれど、その視線が一瞬だけスカートの裾へ向いた。


「怜奈さん」

「何?」

「今、見ましたよね?」

「状態確認よ」

「便利ですね、その言葉」

「便利ではなく必要な確認よ」

「絶対に違うと思います」


私は顔が熱くなるのを感じながら、スカートの裾を押さえた。別にきわどい服ではない。

むしろ、怜奈さんが用意してくれた服はかなりちゃんとしている。

尻尾の穴もあるし、ツノが目立ちすぎない帽子もあるし、動いても困らないように考えられている。

でも、考えられすぎている。


「……怜奈さん、もしかして結構前から考えてました?」

「何を?」

「私にこういう服を着せることです」

「……必要だと思っただけよ」

「今、間がありました」

「なかったわ」

「ありましたって」


怜奈さんは少しだけ視線を逸らした。

その反応で、なんとなく分かってしまった。

この人、たぶん本当に前から考えていた。

私に似合う服とか、尻尾の位置とか、ツノの見え方とか、そういうものをかなり真剣に考えていた。


……それは嬉しい。

嬉しいけど、少し恥ずかしい。


「でも……ありがとうございます」

「何が?」

「服。ちゃんと私のことを考えて選んでくれたんですよね」

「……ええ」


短い返事だった。

けれど、怜奈さんの耳が少しだけ赤かった。


「耳、赤いですよ」

「照明のせいよ」

「リビングの照明で耳だけ赤くなります?」

「なる……と思うわ」

「いえ、ならないと思います」


腰の後ろで、尻尾がふわふわ揺れる。

文字通り命の恩人である人が、私のために服を用意してくれて、その姿を見て耳まで赤くしている。

そんな怜奈さんを見ていると、私まで顔が緩みそうになる。私は顔を隠すように怜奈さんの手を引き、廊下から玄関へ向かう。


「デートなんでしょ? 時間がもったいないですから、行きましょう」


そう言うと、怜奈さんは目を丸くした。

それから、すぐにいつもの無表情に戻る。


「ええ。行きましょう」


握った手が、少しだけ強く握り返された。


その瞬間、腰の後ろで尻尾がまた揺れた。


……もう今日は、尻尾を止めるのを諦めた方がいいのかもしれない。

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