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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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18/42

半サキュバス、デートに誘われました

元同級生と話し合った次の日の翌朝。

私は怜奈さんのベッドの上で、身動きが取れずにいた。

理由は簡単だ。怜奈さんに抱き枕にされているからである。


「……怜奈さん、朝ですよ」


返事はない。私の背中には怜奈さんの腕が回っている。

腰の後ろでは魔力補給のために伸ばしていた尻尾が怜奈さんの腕にゆるく絡まっていた。


昨日、協会で面談があったあと、私は思っていた以上に疲れていたらしい。

帰ってきて、温かいものを飲んで少し休むつもりでベッドに入り——気づけば朝だった。


そして、起きた時にはこうなっていた。


「怜奈さん。そろそろ起きないと……」

「……ん」


小さな声が返ってくる。

起きたのかと思ったけれど、怜奈さんは私を抱きしめる腕に少しだけ力を込めただけだった。

起きていない。全然起きる気配がない。

普段は冷静で、何でも淡々とこなして、私よりずっと大人っぽい人なのに。

意外なことに、怜奈さんは朝が弱いらしい。この家に居候するようになってから知った事実だ。


そして、どういうわけか私は最近、この家での仕事が増えた。怜奈さんの抱き枕である。


「……仕事なのかな、これ」


小さく呟いてみる。もちろん返事はない。しばらく頑張ってみたけれど、抜け出せそうになかった。

無理に動けば怜奈さんを起こしてしまうし魔力補給中の尻尾も絡まっている。

仕方なく、私は枕元に置いてあったスマホへ手を伸ばした。

片手だけで画面を開いて見れば、通知は昨日よりは少し落ち着いていた。


けれど、トレンド欄には私の名前があった。


『黒井彩音』

『冗談のつもりでした』

『探索者登録審査停止』

『半サキュバスちゃん』

『保護者代理』


「……うわぁ」


思わず変な声が出た。昨日までは自分の名前がトレンドにあるだけで心臓が跳ねていた。

怖くて、指先が冷たくなって、画面を見るのも嫌だった。でも今は、不思議と怖くはない。


もちろん、全部平気になったわけじゃない昨日のことを思い出すと、胸の奥はまだ少し重い。それでも、画面の中で流れている言葉を、少しだけ離れた場所から見られるようになっていた。

まるで、自分のことなのに他人事みたいに。


私はトレンドを開く。


『例の元同級生、学校から正式注意らしい』

『探索者登録審査停止、普通に重いな』

『個人情報晒しはライン越えすぎ』

『今年一番ダサい謝罪文で草』

『半サキュバスちゃん、何もしてないのに相手が勝手に沈んでいったな』


「勝手に沈んでいった……」


確かに、そうかもしれない。

私は何かをしたわけじゃないし、復讐しようとしたわけでもない。ただ、嫌だと言っただけだ。

それなのに、あの人は自分の言葉で自分を追い詰めていった。

少し前の私なら、それでも自分のせいだと思っていたかもしれない。


でも、今は違う。

大ごとにしたのは私じゃない。昨日、怜奈さんがそう言ってくれた。本当に怜奈さんには感謝してもしきれない。だが、なぜこんなにも親切に世話を焼いてくれるのだろうか? この家に来てから何回かそれとなくは聞いてみたが、分かっていないのか、はぐらかされているか、いつも顔を傾けてハテナマークを浮かべていた。


(天然ぽくて、可愛かったなぁ……)


あ、ダメだダメだ!変なこと考えるな、私。

とにかく、起きたらちゃんと聞いてみよう。


そう思って、私はスマホを閉じた。背中側では怜奈さんがまだ静かに寝息を立てている。

普段の怜奈さんからは想像できないくらい、無防備な寝顔だ。見ようとしても身体の向き的に見えないけれど、たぶん今も目を閉じたまま、私を抱き枕みたいに抱えている。


「……怜奈さん」


小さく呼んでみる。


「……なに」


返事があった。

どうやら、私が気づかなかっただけで、起きていたのかもしれない。


「起きてるんですか?」

「半分って……感じかしら」

「えっと、どっちなんですか? それ」


私は呆れながらも、少しだけ笑ってしまう。

それから、迷った。聞くなら今じゃない方がいいかもしれない。

寝起きの怜奈さんに真面目な話をするのは、少し卑怯な気がしたからだ。


でも、今なら聞ける気もした……。


「怜奈さん」

「なに」

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」


怜奈さんの腕が、ほんの少しだけ動いた。

私を抱きしめる力が強くも弱くもならない。

ただ、少しだけ空気が変わった気がした。

怜奈さんはしばらく黙っていた。寝ぼけているのか、起きているのか分からない声で、ぽつりと呟く。


「……似ていたから」

「似ていた?」

「助けてって言えないところ……」


その言葉に、胸の奥が小さく跳ねた。


「誰に、ですか?」


怜奈さんは答えなかった。

代わりに、私を抱きしめる腕に少しだけ力がこもる。


「……でも、今は違うわ」

「え?」

「今は——彩音だからよ」


(……今は、彩音だから。)


その言葉が、胸の奥の深い場所に残った。似ていたから。助けてと言えないところ。それは、怜奈さんにとって誰かのことなのだろう。昔、助けられなかった誰か。あるいは今でも忘れられない誰か。

けれど、怜奈さんは今、私のことを見てくれている。

似ているからではなく、私だから——そう言われた気がして、顔が熱くなる。


私は怜奈さんに助けられてばかりだ。

住む場所も、魔力補給も、配信のことも、昨日の面談のことも。数え始めたらきりがない。


だから、ふと思った。

私も、怜奈さんの力になりたい、と。


「怜奈さん」

「なに」

「私にできることって、ありますか?」

「……できること?」

「はい。いつも助けてもらってばかりなので。何か、怜奈さんがしてほしいこととか」


そう言うと、背中側の怜奈さんが黙った。

寝たのかと思った。けれど、私を抱きしめている腕に、ほんの少しだけ力が入った。


「……本当に?」

「はい。本当に、です」

「後悔しない?」

「そんな危ないお願いなんですか?」


少し不安になって聞き返す。

怜奈さんはしばらく黙ったあと、ぽつりと言った。


「じゃあ」

「はい」


「デート」

「……はい?」


変な声が出た。今、何と言ったのだろう。

デート。デートと言った気がするぞ?


「え、あの、怜奈さん?」

「嫌ならいいわ」

「嫌ではないですけど! いや、嫌ではないですけど、急に!?」

「あなたが聞いたのよ」

「聞きましたけど、もっとこう、買い物を手伝うとか、掃除とか、想像してました」

「それは普段からすればいいわ」

「普段からするんですか?」

「居候でしょう」

「あっ……はい……」


物凄く正論だった。でも今はそこじゃない。


「デートって、本当にデートですか?」

「他に何があるの」

「いや、探索者活動の打ち合わせをデートと言い張るとか——」

「違うわ」


怜奈さんの声は、いつも通り冷静だった。

でも、少しだけ耳が赤い気がした。

見えていないけれど、たぶん赤い。


「普通に出かけるの。ダンジョンでも協会でもなく」

「……私と? 怜奈さんが?」

「そう」

「デート……」

「何度も言わないで」

その声が、少しだけ低くなった。

照れているのかもしれない。

いや、怜奈さんに限ってそんなことは……あるかもしれない。


腰の後ろで、尻尾がふわふわと揺れる。


「尻尾、嬉しそうね」

「……今日は否定しません」

「そう」

「嬉しい。だと、思います」


そう言うと怜奈さんが一瞬だけ黙った。


「……そう」


短い返事だった。

けれど、私を抱きしめる腕が、ほんの少しだけ強くなった。


「じゃあ、行きましょう。デート」

「ええ」


そこで話は終わると思った。

だが、怜奈さんは、さらに続けた。


「服も選ぶわ」

「服?」

「あなたの服。外出用」

「いや、私、一応ありますけど」

「足りないわ」

「足りない?」

「可愛い服が」


「……怜奈さん?」


今、かなり自然に変な事を言われた気が……


「……状態確認よ」

「絶対違いますよね?」

「違わないわ」

「可愛い服って言いましたよね?」

「聞き間違いよ」

「しっかり聞こえましたけど!?」


怜奈さんは答えてくれなかった。

代わりに、私を抱きしめる腕に力を込め、足まで絡めて私を捕まえる。

これ、完全に二度寝する時の体勢じゃないですか……。


私はため息をつきながら、スマホを置いた。

昨日より少しだけ息がしやすい朝。そして、なぜか怜奈さんとのデートが決まった朝。


……この人、本当に朝が弱いのだろうか。

それとも、朝だからこそ本音が漏れやすいのだろうか。

どちらにしても。腰の後ろで揺れる尻尾は、しばらく止まりそうにないし、私自身も動けそうにない。


だから。


もう一度だけ、惰眠を貪ることにした。



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