半サキュバス、初配信します
今回はスマホで書いたので、読みづらいかもしれません。後ほど、パソコンで改行等、修正致します。
「どうも、彩音って言います。半サキュバスやらせてもらってます」
言った瞬間、コメント欄が爆発した。
『本人きたああああ』
『半サキュバスやらせてもらってますは草』
『自己紹介が強すぎる』
『銀髪ちゃんだ』
『ツノ生えてる!?』
『尻尾! 尻尾見せて!』
『怜奈ちゃんはいる?』
「……あの、速い。コメント速いです」
目で追えない。
文字が流れているというより、濁流だった。
今、私の前には定点カメラと配信用の画面が映ったパソコンがある。私のではないが、怜奈さんのを借りての配信だ。
視聴人数は、軽く十万を超えていた。
しかも、一秒ごとに数字が増えている。
意味が分からない。
昨日まで、私はただの高校生だった。
いや、正確には一週間前まで男だった。
それが今は銀髪で、尻尾があって、ツノまで生えて、十万人以上の前で話している。
人生、何が起きるか分からなすぎる。
「落ち着いて」
横から怜奈さんの声がした。画面には映らない位置に座っている。右手だけを繋ぎながら
何かあったらすぐ止められる距離だ。
「えっと……今日は、性転換スキルについて話します」
コメント欄の流れが、少しだけ変わった。
『性転換スキル?』
『え、彩音ちゃんって性転換スキルなの?』
『元男ってことか?』
『マジ?』
『タイトル回収きた』
『性転換スキル選ぼうとしてたから助かる』
心臓が嫌な音を立てた。自分で言うと決めたが、それでも怖いものは怖い。
「私は、ダンジョンで初期スキルを選ぶ時に、性転換スキルを選びました」
声が震えそうになる。
けれど、止めなかった。
「女の子になれると思ったからです」
コメント欄がまた加速する。
『え』
『ガチじゃん』
『そんなスキルあるの?』
『性転換スキルって都市伝説じゃないのか』
『選びたい』
『羨ましい』
『いや待て、半サキュバス化してる時点でヤバくない?』
「たぶん、羨ましいって思う人もいると思います」
私は画面を見る。カメラの向こうにいる誰かを見るつもりで、言葉を続けた。
「私も、そう思って選びました。説明欄をちゃんと読まずに、すぐ選びました」
あの時のことを思い出す。迷わなかった。
他のスキルなんて見えなかった。
女の子になれる——それだけで十分だった。
「でも、このスキルにはランダムデメリットがあります」
コメント欄の流れが少し鈍った気がした。
「私の場合は、半サキュバス化でした。女性形態を維持するために魔力が必要で、魔力が足りなくなると飢餓状態になります。魔石を食べたり、誰かから魔力を分けてもらわないと不安定になります」
言いながら、自分の尻尾が不安そうに揺れるのが分かった。
画面の中の私は、どう見ても普通の人間ではない。銀髪。黒いツノ。後ろで揺れる尻尾。
この姿を見れば、言葉以上に伝わるはずだ。
「これでも私は運が良かった方らしいです」
喉が少し詰まる。
でも、言わなきゃいけない。
「他の人には、寿命が一日になるデメリットが出たケースもあるそうです。魔力が切れた瞬間に身体が崩壊するケース。女性形態を解除した瞬間に生命活動が止まるケースもあったそうです」
コメント欄の雰囲気が変わった。
『は?』
『寿命一日?』
『それデメリットじゃなくて呪いだろ』
『選んだら終わりじゃん』
『怖すぎ』
『マジで?』
『性転換スキル狙ってたんだけど』
私は、膝の上で手を握った。
「だから、簡単に選ばないでください」
自分でも驚くくらい、真っ直ぐな声が出た。
「女の子になりたいとか、男の子になりたいとか、今の身体から変わりたいとか。そう思うこと自体が悪いとは、私は思いません」
そこだけは、否定したくなかった。
私自身が、その気持ちで選んだから。
「でも、選ぶ前にちゃんと考えてください。
相談できる人がいるなら相談してください。
それでも選ぶなら……本当に、そのデメリットを背負っても後悔しないか、考えてからにしてください」
息を吸う。画面の向こうに、昔の私みたいな誰かがいるかもしれない。今すぐ選びたい。
戻りたくない。変わりたい。
そう思っている誰かが。
「私は、生きてます。でも、本当に運が良かっただけです」
腰の後ろで、尻尾が小さく揺れる。
頭のツノが、少しだけ疼いた気がした。
「だから、お願いです。性転換スキルを選ぶ前に、ちゃんと考えてください」
数秒だけコメント欄を見る余裕がなかった。
部屋が静かになる。聞こえるのは、自分の呼吸と、パソコンの小さな駆動音だけ。
すると、横から怜奈さんの声がした。
「よく言えたわ」
それだけだった。
でも、その一言で胸の奥が少しだけ緩んだ。
コメント欄が、また動き出す。
『ちゃんと聞く』
『ありがとう』
『選ぶ前に知れてよかった』
『銀髪ちゃん、ちゃんと伝えててえらい』
『笑うつもりで見に来たけど普通に大事な話だった』
『性転換スキル、怖すぎる』
『協会の情報ページ見てくる』
『怜奈さんの声入った?』
『今のよく言えたわ、よすぎる』
『保護者ァ!』
「保護者って何ですか」
思わず反応してしまった。
その瞬間、コメント欄がまた加速する。
『反応したw』
『保護者認定』
『怜奈さん映して』
『尻尾揺れてる』
『褒められて尻尾揺れてる』
『かわいい』
「揺れてません!」
慌てて尻尾を押さえる。でも、画面の中の尻尾は明らかに揺れていた。
終わった。大事な話をしたはずなのに、結局こうなるのか……。
横で怜奈さんが小さく息を吐いた。
「彩音。落ち着いて」
「落ち着いてますよ!」
「尻尾は落ち着いてないわ」
「尻尾を証拠にしないでください!」
自分でもビックリするぐらいに尻尾が自我を持ったように揺れて、画面外にいる怜奈さんの方へ触れようと伸びている。
「とりあえず、伝えたい事は伝えられたし、チャンネル登録者も10万人ぐらい増えたわね。これで申請したらスパチャ貰えるわ」
「いや、別にお金の為に始めたわけじゃ……」
「何言ってるのよ。貴女の身体には魔力が必要なんだから、お金があれば魔力ポーションを大量に買えるようになる。そうすれば貴女も長時間一人で行動できるわ」
「……それは、確かに助かりますけど」
言われて、少しだけ黙る。魔力ポーション。
今の私にとっては、ただの回復アイテムじゃない。女性形態を維持するための命綱みたいなものだ。
怜奈さんに頼らずに済む時間が増える。
一人で外に出られる時間が増える。
ダンジョンに潜れる時間も増える。
それは、かなり大きい。
「でも、私が配信で稼ぐって……なんか変な感じです」
「変ではないわ。探索者の配信収益は立派な活動資金よ」
「怜奈さん、急に現実的……」
「現実は大事よ」
コメント欄がまた流れる。
『急に金の話w』
『でも魔力ポーション代なら納得』
『半サキュバス維持費かかるんだな』
『チャンネル登録した』
『スパチャ解禁待ってる』
『魔力ポーション代に使ってくれ』
『怜奈さんマネージャーみたい』
「マネージャー……」
思わず呟くと、怜奈さんが画面外で首を傾げた気配がした。
「必要なら管理するわ」
「本当にやる気ですか!?」
「貴女は放っておくと無茶しそうだから」
「信用がない……」
いや、実際にないのかもしれない。
ダンジョンに入って性転換スキルを選んで、半サキュバスになって、魔石を食べて、配信事故を起こしている。
冷静に考えれば信用される要素が少ない。
「とにかく」
怜奈さんの声が少しだけ真面目になる。
「今日の配信は成功よ。伝えるべきことは伝えた。あとは無理に続けなくていい」
「……はい」
私は画面を見る。
コメントはまだ流れ続けている。からかうようなものもある。でも、それだけじゃない。
『ちゃんと考える』
『性転換スキル、選ぶ前に協会に確認する』
『ありがとう』
『助かった』
『自分も焦って選ぶところだった』
そういう言葉も確かに混じっていた。
胸の奥が少しだけ熱くなる。配信なんて怖かった。自分のことを話すのも怖かったし、
変な切り抜きも、たぶんまた作られるかもだけど——
「……やってよかった、かも」
そう小さく呟いた瞬間、腰の後ろの尻尾がふわっと揺れた。
そして、怜奈さんがそれを見る。
「尻尾もそう言ってるわね」
「だから尻尾を証拠にしないでください!」
コメント欄が、また爆発した。そして私はこの日、初配信で注意喚起をしたはずなのに。
翌日にはなぜか、
『半サキュバスちゃん、保護者に褒められて尻尾ぶんぶん。犬系サキュバスか?』
という切り抜きが、一番伸びていた。




