表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/42

ツノが生えちゃいました

翌朝。


目を覚ました私は、怜奈さんと繋がった手を解いて、洗面所に向かった。

そして——鏡の前で固まってしまっていた。


「……生えとる」


銀色の髪の間から、小さな黒いツノが二本、生えていた。

尻尾が生えた時点で、ほんの少し嫌な予感はあったが、本当に当たってしまうとは……


「やけに艶がいいな。これ」


両手でそっと触れてみると、硬い。当たり前だけど、髪ではない。

骨とも爪とも違う、つるりとした感触。小さいくせに妙に存在感がある。


「……これ、どうやって隠せばいいの?」


髪で隠れるかと思って、前髪を寄せてみる。

無理だった。銀色の髪の隙間から、黒いツノがしっかり主張している。


尻尾の次は——ツノ。

もう完全に人間の範囲からはみ出している。


「……いや、今さらか」


昨日、本物のサキュバスにうぶな同族さんとか言われた時点で、だいぶ手遅れだった気もする。

そう思いながら鏡を見ていると、洗面所の扉が開いた。


「彩音。起きて……」


怜奈さんの声が途中で止まる。鏡越しに、怜奈さんと目が合った。

怜奈さんの視線が私の頭へ向かう。数秒の沈黙のあと——


「……可愛らしいわね」

「感想そこですか!?」


思わず叫ぶと、腰の後ろの尻尾がびくんと跳ねた。

それを見た怜奈さんが、ほんの少しだけ目を細める。


「尻尾は喜んでるみたいだけど?」

「うぅ……見ないでください」


私は両手でツノを押さえる。押さえたところで消えるわけじゃない。

でも、なんとなく隠したかった。


「状態表示は?」

「あ、はい……」


視界に意識を向ける。

いつもの半透明の文字が浮かんだ。


『半サキュバス特性:角部顕現』

『成長反応により発現』

『魔力制御補助器官の為、解除不可』


「……解除不可」


尻尾の時と同じく嫌な文字が見えてしまう。


「また、解除不可みたいですね」

「そう。でも、魔力制御補助器官ということは悪い変化ではないかもしれない」

「ツノが生えた時点でだいぶ悪い変化なんですけど……」


怜奈さんは少しだけ考えるように私のツノを見る。


「触ると痛い?」

「痛くはないです。ただ、変な感じがします」

「変な感じ?」

「頭の奥が、少しむずむずするというか……魔力が通ってる感じがするというか」


言いながら自分でもよく分からない。でも、確かにそこには感覚があった。

ただの飾りじゃない。尻尾と同じで、私の身体の一部として繋がっている大事な部位のはずだ。


「また、サキュバス寄りになったのかしら」


怜奈さんが小さく呟く。

その言葉に、私の胸の奥が少しだけ冷えた。


サキュバス寄り。


昨日、本物のサキュバスにも言われた。私は普通の人間ではなく、半サキュバスになっている。

頭では分かっていたはずなのに、こうして目に見える形で増えていくと、どうしても不安になる。


「……私、どこまで変わるんですかね」


鏡の中の私は、銀髪で、黒いツノがあって。

腰の後ろには尻尾が揺れている。

女の子になれた。それは嬉しい。

でも、女の子というより、だんだん別の何かになっている気がした。


怜奈さんは、少しだけ黙った。

それから、私の頭にそっと手を置く。


ツノには触れないように。

髪だけを撫でるように。


「分からないわ」

「……ですよね」

「でも、変化があるなら記録する。危険なら止める。対処法があるなら探す」


怜奈さんの声は、いつも通り冷たい。

でも、不思議と落ち着く。


「一人で考えなくていい」

「……はい」


その時だった。リビングの方で怜奈さんの端末が鳴った。怜奈さんが画面を確認する。

表示された名前を見て、わずかに眉を動かした。


「姉さんからね」


飛鳥さん。

昨日、サキュバスと一緒にダンジョンの奥へ向かった人。怜奈さんが通話を繋ぐ。


『おはよー、怜奈。彩音ちゃん起きてる?』

「起きてるわ。ツノが生えた」

『あー、やっぱり進行してるか』

「やっぱり?」


その一言で、怜奈さんの声が低くなった。

私も、思わず息を止める。


『性転換スキルの取得者について、追加情報が出た』


飛鳥さんの声は、いつもの軽さを少しだけ失っていた。


『彩音ちゃん、近くにいる?』

「います……」

『じゃあ聞いて。性転換スキル、思っていたよりずっと危険かもしれない』


洗面所の空気が、一気に冷えた気がした。


『性転換スキル取得者が他にも確認されたんだけど、全員が彩音ちゃんみたいに生き残ってるわけじゃないらしいのよ』

「……え?」


思わず声が漏れる。


『取得と同時にランダムで、デメリットが付く。取得前の説明にそう書かれてたでしょ?それが、性別が変わるだけじゃない。身体の維持条件とか、種族変化とか、代償みたいなものが一緒についてくる』

「代償……」

『寿命が一日になるケースがあった』


一瞬、言葉の意味が分からなかった。

寿命が一日。それはもう、デメリットなんて言葉で済むものではない。


『他にも、魔力がゼロになった瞬間に身体が崩壊するケース。女性形態を解除した瞬間に生命活動が停止したケース』


飛鳥さんの声が淡々と続く。


『馬鹿げてるけど、実際に起きてる話よ』


私は何も言えなかった。性転換スキル。

私にとっては、欲しかったものだった。

女の子になりたくて私は取得の際のスキル説明欄なんて読まずに即取得を選んだ。

でも、同じスキルを選んで死んだ人がいるのか……


『彩音ちゃんが気にすることじゃないけど、貴女はスキル保有者だから伝えようと思ってね』

「……ありがとうございます。自分がいかに恵まれているか知れて良かったです」


口に出した言葉は、思ったより重かった。

恵まれている。半サキュバスになって、魔力が足りなくて、尻尾が生えて、ツノまで生えて。

それでも生きているから恵まれている。そう思わなければならないくらい、このスキルは危険なのだ。


『それで、ここからが本題なんだけど』


飛鳥さんの声が、少しだけ明るく戻る。


『彩音ちゃん、配信とかしてみない?』

「……はい?」


さっきとは別の意味で、頭が止まった。


「今、その流れで配信の話します?」

『するよ。むしろ今だからする』


怜奈さんの目が細くなる。


「姉さん。説明して」

『性転換スキルを選ぼうとしてる人、たぶんまだいる。危険性がちゃんと広まってない。彩音ちゃんは、今一番注目されている半サキュバスの探索者だと思うのよ』

「注目のされ方が最悪なんですけど……」

『かもね。でも、彩音ちゃんが性転換スキルでそうなったことは、まだ誰にも伝えてないでしょ? だからこそ、今なら意味があるのよ。銀髪半サキュバスちゃんが「実際に何が起きたか」を話せば、少なくとも何人かは立ち止まると思う。協会は、これ以上、性転換スキルで死人が出るのを防ぎたいのよ』


私は何も言えなかった。

配信。昨日までの私なら、絶対に考えなかったものだ。ただでさえ切り抜きで変な方向に拡散されている。尻尾レッスンだって、たぶん今もネットで笑われている。


そんな場所に、自分から出る。

嫌すぎる。ものすごく嫌だ。


でも——寿命が一日になる。魔力が切れた瞬間に身体が崩れる。解除した瞬間に死ぬ。

そんなデメリットを知らずに、誰かが性転換スキルを選ぶかもしれない。

それを考えると、嫌だだけでは済ませられない。


「……分かりました。やって、みます」


自分で言っておきながら声は少し震えた。

配信なんて怖い。また変な切り抜きが作られるかもしれない。笑われるかもしれない。

それでも、知らずに性転換スキルを選んで死ぬ人がいるかもしれないなら。


私が話す意味は、きっとある。


「彩音」


怜奈さんが静かに私の名前を呼んだ。


「無理はしなくていいわ」

「はい。でも、少しだけ頑張ってみます」


鏡の中の私は、銀髪で、黒いツノがあって、腰の後ろでは尻尾が不安そうに揺れていた。

どう見ても普通じゃない。どう見ても性転換スキルの成功例なんて綺麗なものじゃない。


でも。

この姿だから、伝えられることがあるのかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ