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ダンジョンに入れば女の子になれる? 勉強してる場合じゃねぇ!! 〜性転換スキルで銀髪半サキュバスになった俺、魔力が足りません〜  作者: pen


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尻尾レッスン

「……なんか、ちょっと艶っぽいわね」


飛鳥さんが、ぽつりとそんなことを言った。紫色の光が揺れるDクラスダンジョンの通路。

その中央で、私は本物のサキュバスと向かい合っていた。正確には向かい合っているのは身体だけで。

問題は、腰の後ろにある。私の黒い尻尾と、目の前のサキュバスの尻尾。

二本の尻尾が、先端だけを軽く絡ませるように触れていた。


「い、言わないでくださいよ!」


顔が、ものすごく熱い。ただ尻尾同士が触れているだけ。本当にそれだけのはずなのに背筋が妙に落ち着かない。自分の身体の一部なのに尻尾だけは感覚が違う。

手を繋ぐのとは違う。指先で触れるのとも違う。

もっと直接、魔力の流れに触れられているような初めて体験する感覚がする。


「姉さん」


怜奈さんの声が低くなった。


「余計なことを言わないで」

「ごめんごめん。でも、見た目がねぇ」

「見た目の問題じゃない。これは訓練よ」

「はいはい。分かってるって」


飛鳥さんは笑っている。

黄昏のメンバーの何人かは、気まずそうに視線を逸らしていた。


やめてほしい。

本当にやめてほしい。

ただでさえ配信中なのだ。空中に浮かぶコメント欄は既にものすごい勢いで流れている。


『尻尾プレイきた』

『これ大丈夫なやつ?』

『サキュバス同士のエッ……』

『通報したわ↑』

『怜奈さんの声が低くて心地いい』

『飛鳥さんは正直すぎるって』


いや、分かる。自分でも絵面が妙なことになっているのは分かる。

でも、違うのだ。

これは訓練だ。サキュバスとしての身体の使い方を覚えるための、真面目な訓練なのだ。


……たぶん。

自分で言っていて自信がなくなってきた。

私は心の中で訓練と呟き、前を見据える。


「力、入りすぎ」


目の前のサキュバスが言った。

彼女は周囲の空気などまったく気にしていない。

ピンク色の瞳で、私の尻尾だけをじっと見ている。


「もっと抜いて。尻尾は腕じゃないわ」

「そんなこと言われても、今朝生えたばかりなんですって……」


彼女の尻尾が、するりと動く。

私の尻尾の先を軽く撫でるように押した。


「ひゃっ!?」


変な声が出た。

一瞬で、黄昏のメンバーの視線が集まる。


「見ないでください!」


叫んだ瞬間、私の尻尾がびくんと跳ねた。

その動きに引っ張られるように、サキュバスの尻尾も揺れる。

揶揄っているわけではないのだろうが、その顔はオモチャで遊ぶ幼児のようだった。


「ふふ。反応しすぎ。今のは触られた感覚に驚いただけ。魔力の流れを見ていないからよ」

「魔力の流れ……ですか?」


サキュバスは小さく頷いた。


「尻尾は、ただ動かすためのものじゃない。魔力を感じるための器官でもあるの。目で見ない。手でもない。尻尾の先で感じなさい」

「尻尾の先で……感じる」


私は息を吸う。

触れているサキュバスの魔力は甘くて冷たくて夜を連想させる魔力だった。

怜奈さんの魔力とはまるで違う。怜奈さんの魔力は澄んでいて、静かで触れていると胸の奥が落ち着く。

けれど、このサキュバスの魔力はもっと甘い。

甘いのに冷たくて、奥へ奥へと引き込まれるような感覚がある。


似ている。

私の中にある、半サキュバスの魔力と。そう気づいた瞬間、尻尾の先が勝手に震えた。

欲しいと思った。ほんの少しだけ、吸ってしまいたいと思った。

でも、吸わない。ただ、そこにあるものとして感じるだけ。


「……っ」


胸の奥がざわつき、喉が少し乾く。

けれど、私は奥歯を噛みしめた。


「……分かってきました。我慢、できます」


そう呟くと、サキュバスの目が少しだけ丸くなった。


「へぇ。思ったより飲み込み早いわね」

「褒めてます?」

「半分くらい。じゃあ、このまま続けて魔力に慣れてもらうわ。吸わないようにね」



* * *



訓練が終わる頃には、足元が少しふらついていた。戦ったわけじゃない。

魔物を倒したわけでもない。ただ、尻尾で魔力を感じて、吸わないように我慢していただけ。

それなのに、頭の奥がじんわり重い。


「彩音」


怜奈さんがすぐに気づいた。


「今日はここまでね」

「え、でも……」

「無理をする段階じゃない」


その声に反論できなかった。

飛鳥さんが、奥の通路へ視線を向けた。


「じゃあ、彩音ちゃんと怜奈は一度戻って。私たちはこのまま奥を確認する」

「姉さん」

「大丈夫。サキュバスちゃんも案内してくれるって」

「仕方ないわね。案内するわよ」


サキュバスはあっさり言った。


「奥に、まだ変な魔力があるもの」


その一言で、空気が少しだけ変わった。

変な魔力。それはサキュバスの事ではない。

このダンジョンには何かあるということだ。


怜奈さんは少しだけ迷ったように見えた。

けれど、すぐに私の方を見る。


「彩音を戻す方が先ね」

「……すみません」

「謝らなくていい。今日の目的は達成した」


怜奈さんはそう言って、私の手を取った。

温かい魔力が指先から流れ込んでくる。

奪っているわけではない。自ら私に流してくれている。

さっきまで触れていたサキュバスの魔力とは違う。


すっかり覚えてしまった怜奈さんの魔力。

それだけで、少し安心した。


「うぶな同族さん」


サキュバスが私を呼ぶ。


「次までに、尻尾の力を抜く練習をしておきなさい」

「その呼び方はやめてください……!」


私の抗議にサキュバスは楽しそうに笑った。

こうして私の初めての同族交流は、尻尾の制御を少し覚えたところで終了した。


……なお、配信の切り抜きは、帰る頃にはもう拡散されていた。



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