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異形狩り

「異形狩り?」

「正式には《王国異形対策局》。

だが皆、“異形狩り”と呼ぶ。」


クロウの声が低く落ちた。

その一言だけで、空気が変わる。

街道脇の森。

木々の影から、鎧姿の集団が現れた。

足音は静かだった。

妙に揃っている。

全員、顔を鉄仮面で覆っていた。

剣を提げた者。

槍を持つ者。

背中に銀色の杭のようなものを背負った者。

数は六。

全員が無言だった。

その沈黙が、余計に不気味だった。

先頭の男が、一歩前へ出る。

他より装飾の多い鎧。

隊長格なのだろう。

男の視線が、まっすぐクロウへ向く。


「観測者クロウ」


感情の薄い声だった。

呼ばれたクロウは、嫌そうに息を吐く。


「久しぶりだな」

「三ヶ月ぶりだ」

「そんなに経ってたか?」

「二都市出禁の件以来だ」


ハルが思わずクロウを見る。


「お前、何したんだよ」

「濡れ衣だ」

「半分は事実確認済みだ」


即答だった。

クロウが肩を落とす。


「話が早くて助かる」


全然助かってなさそうだった。

男の視線が、今度はハルへ向く。

一瞬で、背中が冷えた。

見られている。

そんな感覚だった。


「その少年は」

「旅人だ」

「嘘だな」


クロウの返答より早かった。

ハルが少し傷つく。


「いや、そこ即否定されるの?」


男は答えない。

代わりに、じっとハルを見る。

値踏み。

それに近い。


「昨夜、この周辺で大規模残響反応が消失した」


ハルの肩が少し強張る。

こいつら知っている。


「クロウ、お前がやったのか?」

「そう見えるか?」


男の視線が動かない。

クロウは続ける。


「現場は燃え、核は消失。生存者多数」


少しだけ空気が止まる。


「結果だけ見れば、上出来だろ」


男の返答は遅かった。


「処理報告が存在しない」

「予定より遅れたんだろ、お前たち」


クロウの声が少し低くなる。


「村が消えてから来るつもりだったのか?」


後ろの異形狩りたちがわずかに動く。

空気が硬くなる。

まずい。

ハルでもわかる。

今の、地雷だった。

隊長格の男は数秒黙った。

やがて静かに言う。


「……相変わらず口が悪い」

「褒め言葉か?」

「違う」


そのまま男の視線が、またハルへ向く。

ハルは思わず姿勢を固くした。


「少年」


声が低い。

逃げ場がない感じがする。


「お前は何を見た」


ハルの喉が少し詰まる。

言うべきか迷う。

クロウがぼそりと言う。


「全部は喋るな」

「聞こえている」


男が即座に返した。

空気が少し張る。

ハルは二人を見比べる。

正直、状況が全然わからない。

ただ、ひとつだけわかる。

――この二人、仲が悪い。


「……とりあえず」


ハルが口を開く。

全員の視線が集まった。

嫌だった。

すごく嫌だった。


「俺をどうしたいんだ?」


短い沈黙。

男は静かに答える。


「保護、もしくは拘束」

「怖い怖い怖い」

「危険性が確認された場合だ」


クロウが鼻で笑う。


「脅しが下手なんだよ」

「前例がある」


男は淡々と言う。


「こいつも異形かもしれない」


空気が少し重くなった。

冗談じゃない。

男は続ける。


「だから確認が必要だ」


クロウが杖を軽く鳴らす。


「で?」


男は少し間を置いた。

そして。


「王都まで同行する」


クロウが露骨に嫌そうな顔をした。


「最悪だ」

「監視対象だ」

「俺も?」


ハルが聞く。


「君もだ」


男の視線が真っ直ぐ向く。

妙に嫌な言い方だった。

クロウがぼやく。


「面倒が増えた」


男が短く言う。


「自業自得だ」


ハルは空を見る。

異世界に来てから、ろくなことがない。

そして多分――

まだ悪くなる。

そんな予感しかしなかった。


隊長格が静かに言った。


「同行監視だ」


クロウが露骨に嫌そうな顔をする。


「最悪だ」

「拒否権はない」

「あるだろ」

「ない」


即答だった。

空気が少し重くなる。

ハルは二人を見比べた。

正直、どっちも信用しづらい。

片方は胡散臭い観測者。

片方は“処分”とか言い出す鉄仮面集団。

世界観が終わっている。

隊長格は続ける。


「少年の状態確認を優先する。残響接触後の変質は個人差がある」

「変質って言い方やめろ」


ハルが思わず言う。

病気より嫌だった。

男は少し沈黙してから言い直した。


「……異常兆候」

「改善したようでしてない」


クロウがぼそりと言う。

隊長格は無視した。


「症状は」

「症状?」

「幻聴、視覚異常、記憶混濁、感覚過敏」


ハルの心臓が少し跳ねる。

――文字。

だが、言うべきか迷う。

クロウがちらりと見る。

言うな、みたいな顔だった。

わかりやすすぎる。


「……別に」


嘘をついた。

隊長格の沈黙が長くなる。

仮面越しなのに、疑われているのがわかった。


「嘘が下手だな」

「初対面で全部話せって方が無理だろ」


短い沈黙。

それから男は、小さく息を吐いた。


「……正論だ」


少しだけ意外だった。

思ったより話が通じる。

クロウが肩をすくめる。


「だから最初からそう言ってる」

「お前は信用がない」

「傷つく」

「三都市出禁」

「正確には二都市半だ」

「半?」


ハルが思わず聞く。

クロウは少し目を逸らした。


「途中で逃げた」

「最低だな」


初めて、後ろの異形狩りの一人が吹き出しかける。

すぐに咳払いして姿勢を戻した。

隊長格が小さく溜め息を吐く。

露骨に嫌そうな顔になる。


「王都まで、我々が監視する」

「増えたな。面倒が」


ハルが眉を寄せる。


「つまり俺、危険人物扱い?」


男は少しだけ沈黙した。

それから静かに言う。


「君自身が、自分を一番理解していない」


妙に刺さる言葉だった。

反論できない。

昨夜から、自分の身に何が起きているのか、ハル自身が一番わかっていない。

クロウが杖を軽く鳴らす。


「で、隊長殿。名前くらい名乗ったらどうだ」


鉄仮面の男は、わずかに視線を動かした。


「……レオンだ」


ハルは眉を上げる。


「それだけ?」

「十分だ」

「いや、怖い人って大体そう言うんだよ」


後ろの異形狩りの一人が、ほんの少し肩を揺らした。

笑ったのかもしれない。

レオンは気にした様子もなく続ける。


「必要以上の情報は持たない。持たせない」


その言い方に、ハルは少し黙る。

……冗談じゃなく、本当にそういう連中なのかもしれない。

クロウが鼻で笑った。


「要するに融通が利かない」

「お前よりは利く」

「ひどい偏見だ」

レオンは無視した。


「出発する。日が落ちる前に宿場へ着く」


後ろの異形狩りたちが静かに動き出す。

足音だけが、揃って響いた。

クロウがぼやく。


「最悪の旅になりそうだ」

ハルは曇り空を見上げる。

正直、もう嫌な予感しかしなかった。

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