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『廃校の華さん』 ~不登校の僕を救ってくれたのは、スカジャンを着た元・トイレの花子さんでした~  作者: アオギリ ユズル


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 僕が学校に再び行き始めてから2か月が経った。相変わらず、クラスの皆は僕をいないもののように扱ってきたが、不登校に戻ろうとは思わなかった。勉強はやればやったなりの結果が付いて来る物なので元々嫌いじゃないし、学校に友達がいなくても週末になれば華さんに会える。


 なにより、僕が久しぶりに朝食に顔を出した時に見た両親の笑顔を思い出すと、もう2人に心配はかけられないと思った。週末の夜中に家を抜け出していることを知ったら、心配するかもしれないけれど……


 そして僕は大きな過ちを犯す。今になって思えばあんな言葉聞き流せばよかったのに。その時の僕は華さんの言葉で『普通でいなければいけない』という鎖から解き放たれた解放感と、自分は特別な華さんと特別な時間を過ごしている『特別な人間』なのだと錯覚して、浮かれていたのだ。


 水曜日の昼休みのこと、あっ君、いっ君とその取り巻き達がいつものようにくだらない話をしている。あっ君はいつもクラス内での権力を誇示するように、必要以上に大きな声で話すので聞きたくなくても話が聞こえて来る。その中の話題で、僕が通う廃校の話になった。


「あっ君、あの廃校にお化けが出るって噂、知ってる?」

いっ君がへらへらしながら、あっ君に話しかける。


「あー、花子さんが出るって奴だろ?くだらねぇ、そんなのいる訳ないだろ。まぁ、いたとしても俺の一本背負いでぶん投げてやるけどな。ハハハっ」

あっ君が笑うのに合わせて、いっ君や取り巻き達も笑う。


「いるよ……」

僕の口から友達を馬鹿にされた怒りで無意識に言葉が出た。


「なんか不登校で欠席してる奴の席から声が聞こえたんだけど、お化けか?」

あっ君がそう言うと取り巻き達は苦笑いを浮かべる。あっ君は怖いが苛めに加担かたんして内申点が下がるのは嫌だという複雑な表情だ。そんな中、僕の席にいっ君が近づいて来る。


「チビ助、なんか言ったか?みんな内申点を気にして、不快なお前のこと見て見ぬふりしてくれるかも知れないけど僕は違うぞ。ママがPTAの役員なんだ。だから多少のことは誤魔化ごまかせるんだ、例えばこんなことをしてもね」

そう言っていっ君は座っている僕の胸倉むなぐらを掴んで無理やりに立たせる。


 胸倉を掴まれながら僕は華さんの言っていたことを思い出していた。


~~~

「お前がやり返さないから相手が調子に乗るんだ。


人間っていうのは意識的に害を与えて良い相手を選んでるんだよ。無差別殺人犯だって『相手は誰でもよかった』なんて言ってても女、子供ばかり狙うじゃないか。誰でもいいならトレーニングジムで筋肉ムキムキのマッチョを狙えよ。


『誰でもよかった』は『(自分より弱い奴なら)誰でもよかった』なんだよ」

~~~


僕は声が震えないように細心さいしんの注意をして口を開く。


「中学生にもなってママって、離せよ。この、マザコン野郎」

そう言って僕はいっ君の手を振りほどく。


 僕が言い返して来ないと思っていたのだろう。いっ君は呆然としていたが、僕とのやり取りを聞いていた周囲のクラスメイトが「マザコンだって……クスクス」と笑い始めたのを聞いて、僕を睨みつけ、恥ずかしさと僕への怒りでどんどん顔が赤くなっていく。


「チビ助、ずいぶん調子に乗ってるな」

そう言ってあっ君はいつものように僕に体当たりをしようとする。


 僕はそれを避けてあっ君の足に僕の足を引っ掛ける。よろけたあっ君は前の机に手を突いて転倒をまぬがれた。ころんでしまえばよかったのに。


「お前!調子に乗るなよ!一本背負いっぽんぜおいでぶん投げてやる!!」

顔を真っ赤にしてあっ君が僕に近づいてくる。


「それって大丈夫なの?あっ君が通ってる〇×道場に『柔道未経験者を教室で一本背負いしても平気か』って、僕が名前を出して確認しておこうか?」

そう言われたあっ君は顔を真っ赤にして唇を震わせている。


「いるものは、何を言われてもいるんだよ。僕に少し言われたぐらいで動揺どうようしているようじゃ、花子さんが出てきたらどうなっちゃうんだろうね」

僕は2人を馬鹿にするようにニヤリと笑う。


「お前、俺らのこと根性なしだって言いたいのか!分かった、行って確認してやるよ。お前も来いよ。もし花子さんがいなかったらギタギタに……お前のあだ名を、ほら吹き野郎にしてやる」

頼みの暴力での脅しを封じられたあっ君は、悔し紛れに訳の分からないことを言っている。ギタギタにほら吹き野郎にするって何だよ。


「じゃあ、土曜日の午前0時に廃校前で良いんだね。花子さんがいなければ僕が『ほら吹き野郎』、その日に来なかったり、花子さんにおどろいたりすれば、君たちが『根性なし』ってことでいいかな?」


 僕はそうして2人と約束をした。その後の2人は目が合う度ににらんできたが、その度に僕が鼻で笑うと悔しそうな顔をしていた。


 その日の深夜、僕は廃校で華さんに事情を説明して協力をお願いする。話を聞いた華さんは少し難しい顔をしてから自分の膝をパンと叩く。


「わかった。少しだけ他の廃校の奴らと相談させてくれ」

そう言うと華さんは教室から廊下に出ていく。


 廊下の遠くの方から華さんが誰かと話す声が聞こえる。遠くからなので内容がはっきりとは聞こえなかったが、最後にこう言っていた。


はらい屋との約束を破ることになるけど、友達だちの頼みは聞いてやりたい。すまん、みんなには迷惑かけると思うが許してくれ」


 廊下から戻ってきた華さんに僕は遠慮がち声をかける。


「無理そうかな……」

僕はそう言うと華さんはいつものようにニヤリと笑う。


「大丈夫だ。みんな協力してくれる。それに当日の打ち合わせもしてきてる」


 華さんが打ち合わせて来た内容を聞いて、2人の驚く顔を想像してにやける僕に華さんが真剣な顔で言った。


「人間の友達だちを作るのも悪くないと思うぞ。嫌いなクラスメイトと友達だちになれって意味じゃない。お前が『こいつなら信用できる』と思う奴を探して友達だちになれ。そうしたら、人生がもっと楽しくなると思うぞ」

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