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『廃校の華さん』 ~不登校の僕を救ってくれたのは、スカジャンを着た元・トイレの花子さんでした~  作者: アオギリ ユズル


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 当日、僕は廃校前で2人を待つ。約束の5分前に睨みながらポケットに手を入れ格好をつけて歩く2人組が現れた。


「よう、ほら吹き野郎。言われた通り来てやったぞ」

いっ君は僕を下から上に睨みつけて言った。おかしい、真偽を確かめる前に嘘つき呼ばわりされている。


「じゃあ、行こうか」

僕はそう言って正門を開けて廃校の中に入る。いつもは閉まっている門と正面玄関だが、今日は華さんが開けてくれている。


 僕らは正面玄関から入り3階の女子トイレを目指す。道中、あっ君が「へー、た、たいしたことねぇじゃねぇか」と強がっていたが声が上ずっている。


 3階の女子トイレに着いた。僕はいつものように3番目の個室の前で3回まわり、ドアを3回叩く。


「はーなーこーさん、遊びましょ」

僕がそう言うが返事はない。


「やっぱり嘘じゃないか、このほら吹き野郎。来週からほら貝持って登校してこいよ」

いっ君は僕を鼻で笑うとトイレを後にする。


トイレから出るとカーン、カーンと金属音を響かせて何かが近づいてくる。何だろうと辺りを見渡す2人。でも打ち合せをした僕は知っている。

 

ほら近づいてきた二宮金次郎にのみやきんじろうが……ん……金次郎だよな?


 金次郎と思われる銅像はキャップを後ろにかぶり、『HIPHOP』と書かれたタンクトップを着ている。担いでいるのもまきではなく肩に大きなラジカセだ。僕らに気が付いた金次郎?は「ヘイ!メーン」と言いながら金属音を鳴らして近づいて来る。


「な、なんだよ!あれ!」

いっ君がそう言うと2人は階段に向かい走り出す。


(……金次郎がヒップホッパーだ!!)


 僕も金次郎が来るとは聞いていたがこんな金次郎だとは聞いていない。華さんが『トイレの花子さん』から『廃校の華さん』に変わった際に、他の7不思議も自身の“在り方”を変えたのだという。どう変わったかは“お楽しみ”とのことだ。


 金次郎の金属音がやむと、今度は音楽室の方からデジタルな楽器の音がする。音楽室を越えなければ階段にはたどり着けない。2人は「うわー」と叫びながら音楽室を駆け抜ける。


 実にもったいない。こんなカッコいい『交響曲第9番のリミックス』はなかなか聴けないのに。僕が音楽室を覗くと一心不乱いっしんふらんにシンセサイザーを弾いているベートーベンが見えた。もう少し聴いていきたいが仕方ない、2人に置いていかれてしまう。


 階段に着いた2人は急いで階段を駆け下りる。僕も階段に着き踏面ふみづらをよく見ると電光掲示板になっており、なにやら文字が流れている。『走るとあぶないよ』


「なんだよ、この階段。全然下に着かないぞ!!」

息を切らせながらあっ君が叫ぶ。


 電光掲示板には『今日は増量キャンペーン!1段とは言わず沢山増やしてみました☆』と流れている。疲労のためかいっ君がつまずいて手すりを掴む。『だから危ないよって言ったのに。プンプン(# ゜Д゜)』


(……絵文字まで使うんだね)


 階段から解放された2人を鏡の端に無数に配置されたLEDの強い光が襲う。これは女優ミラーだ。小さいのを母さんが使っている。


 鏡に近づいて見える自分の姿は死に顔……ではなくて女装した姿だ。うん、2人とも絶望的に女装が似合わない。


(……小柄な僕は…ありだな)

僕は新しい扉を開きかけながら2人を追いかける。


「どうなってんだよ!」

2人が窓の外を見て叫ぶ。


 窓の外は墓場……ではなくて南国のリゾート地の砂浜だ。所謂いわゆる、オーシャンビューというやつだ。


(……月に煌きらめく水面がとても幻想的でうっとりしてしまう)

見とれていると置いてかれてしまうので仕方なく僕は2人を追いかける。


 もうすぐ正面玄関という所で進行方向からすごい勢いで走ってくる影が近づく。2人が引き返そうか迷っていると、女装した人体模型が僕らの前を通り過ぎて階段の方へ駆けて行った。何故か心臓部分に『ここが私のハートだぞ♡』と張り紙が付いていた。


(……何だこれ意味がわからない)


ようやく正面玄関に着いた2人の顔は涙とよだれでひどいことになっている。


 僕らが正面玄関を出ると月を背にした人影が見えた。


月が雲に隠れてその姿がはっきりと見える。


 キャップを斜めにかぶりスカジャンを着た、僕らより少し年上に見えるお姉さんが腕を組み、口をへの字に曲げて立っていた。


「誰だ、お前!!」

2人は叫ぶ。


「おいおい、誰だ、とは失礼なガキだな。お前らが呼んだんじゃねぇか。私は元『トイレの花子さん』にして、この廃校のあるじ、7不思議の女王『廃校の華さん』だ」

そう言って、華さんは大きく右の太ももを上げると地面を踏みつける。


 踏みつけられた地面から無数の手が伸びて2人の足首を掴んだ。


「うわー!!なんだ、これ、動けねぇ」


 2人はバランスを崩して尻もちをつく、2人の尻の下の地面に水たまりが広がる。


 気が付くと無数の手も正面に立っていた華さんも消えていて、2人は急いで立ち上がり正門に駆け出す。


 僕も後を追って正門を抜けて、正門を閉めながら呆然としている2人に言った。


「いやぁ、怖かったね」


「怖いのは後ろから大声で笑いながら追いかけてくる、お前だ!」


あっ君は吐き捨てるようにそう言うと、ビショビショのズボンを引きずりながら走って行った。いっ君は恐ろしい物でも見るように僕を一瞬みるとあっ君を追いかける。


 そうか僕は笑っていたのか、走る2人を追いかけることに夢中で気が付かなかった。


 僕は今日のお礼をしようと廃校に戻るため正門に手をかけるが動かない。鍵がかかっているようだ。仕方がないといつもの道を通って裏口に行くもドアは施錠されている。当然、正面玄関も施錠されており、初めに入った窓も閉められて施錠されている。どうしようもなくなった僕は廃校に入るのをあきらめて、外から叫ぶ。


「華さん、7不思議の皆さん、今日はありがとうございました!!」

そう言って僕は深々と頭を下げた。


 僕がそれ以降廃校に行くことはなかった。というのも、朝になっていっ君の母から「うちの子がそそのかされて廃校に行き、お漏らしして帰ってきたざます。教育はどうなってるざますか?」と電話がきたので、僕が廃校に行っていることが両親にばれ、夜中に両親の監視が付いて行けなくなったのだ。日中も廃校の周りは大人が巡回しているようで近づけない。


 月曜日、僕が学校に行くと、廃校に行ったことよりも『2人が怖くてお漏らしした』ということの方が広がっているようで、ヒソヒソクスクスとクラスメイトは2人のことを噂している。いっ君の母がPTA中に電話をかけて広げたのだろう。当然、僕は生徒指導室で説教を受けて廃校にいかないように誓わされた。


 僕は一夜にして馬鹿にされる対象から、怖がられる対象に変わったようで、周りのクラスメイトは変に気を使って話しかけてくるようになった。あっ君、いっ君の2人はクラスの中心から隅っこに追いやられ、僕と目が合うと怖がって目を伏せるようになった。


 そうこうしている内に僕は中学3年生になり、廃校は“解体”された。元々計画はあったそうだが、あの一件でPTAから圧力がかかったそうだ。


 解体されていく廃校を見ると華さんとの日々を思い出して涙が流れた。


 それから2年、僕は高校2年生になった。


 その後勉強に力を入れた僕は、地元を離れ遠くの進学校に通っている。他人の噂より自分の成績向上に集中する生徒が多い高校で、とても過ごしやすい。


 そして、僕にも友人が出来た。バスケ部のエースで気取らない性格、少し勉強は苦手だが裏表のない信用できる奴だ。困っていた問題を通りがかった僕が教えたのが縁で仲良くなった。僕もバスケ部に入り身長も伸びてもう『チビ助』と言われるような背の高さではない。


 そんな充実した日々を過ごす僕はアパートの『303号室』に一人暮らしをしている。部屋番号が気に入って即決した。


 ふと思い立って僕はトイレの前で3回回って、3回ドアを叩く、


「はーなーさん、遊びましょ」


(…フフッ、そんなことをしても仕方ないのに……)

華さんとの楽しいお茶会を思い出し少し寂しくなった僕はトイレのドアを開くため手を伸ばす。


 しかし、ドアはひとりでに開き、僕はのけぞって後ろに避ける。


 そこには、便座に座り足を組んで頬杖をついた、キャップを斜めにかぶった少女がいた。


「おうおう、青年よ。良い顔になったじゃねぇか」

そう言って華さんは不敵に笑う。


 その日から華さんは『廃校の華さん』から『僕んの華さん』になった。

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