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『廃校の華さん』 ~不登校の僕を救ってくれたのは、スカジャンを着た元・トイレの花子さんでした~  作者: アオギリ ユズル


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 僕は廃校に行く前にコンビニに寄って、プリンの下にチョコムースが乗っている物を2つとホットのペットボトル紅茶を2本買った。廃校舎の中はやはり怖かったが昨日までよりは怖くない。3階の女子トイレの前で3回回ってトントントンとドアをノックする。


「は、華さん、き、来ました」


「おう、来たか、今開ける」

そう言うとスッとドアが開き、便座に座り足を組んで頬杖をついた華さんが現れた。

※当然ズボンは下ろしていない。


「おうおう、少年。意外に根性あるじゃねぇか。来ないかと思ってたぜ」


「でも華さんが呪うって……」


「そんなこと出来る訳ないだろ。出来たらトントンダッシュした時点で呪ってるよ」

そう言いながら華さんは個室のドアを叩いて大笑いしている。


「それより良い心がけだ。約束のぶつを持ってきたようだな」


「はい、どうぞ」

コンビニ袋を渡して立ち去ろうとする僕に華さんが声を掛けた。


「おいおい、待て。せっかく2つあるんだから一緒に食おうぜ」

そう言って華さんは立ち上がり歩き出す。


「はい」

僕は棒立ちで待つ。


「何やってんだ。行くぞ」


「えっ、トイレから出るんですか?」

僕は急いで華さんを追いかけた。


「当たり前だろ、便所で物食って美味い訳がねーだろ」


「トイレの華さん……じゃないんですか?」


「ああ、そこか。花子から華に改名した時に『トイレの』から『廃校の』に変えたんだわ。だからテリトリーはこの廃校の敷地全域だから」


 何かせないが本人がそう言うなら仕方ない。


 隣にある教室の前に来ると華さんは鍵穴に指を当てクルリと回す。するとガチャリと鍵の開く音が聞こえて、華さんは引き戸を開ける。


「あっ、そう言えばお前、1階の締め忘れた窓から入ってるだろ。あそこ石とか床にあって危ないから、次来るときがあったら裏口開けといてやるよ」

そう言いながら華さんは教室に入っていく。


 教室に入ると机を向かい合わせにして華さんは席に着き、「何やってんだ、早く座れ」と僕に着席を促す。僕の学校ではないが、久しぶりの木製なんだかプラスチック製なんだかよく分からない材質の机、久しぶりの硬い椅子に何だか懐かしさを感じる。


「さてさて、何を買ってきたのかなー。おっ、プリンしかもムース付き。それに紅茶まで。気が利くなお前」

華さんは上機嫌でコンビニ袋からプリンと紅茶を取出して机の上に並べる。


「あっ、そう言えばそろそろあれの時間だ」

そう言って、華さんが指を鳴らすとテレビがきバラエティ番組が映る。


「えっ、電気流れてるんですか?」

僕はあっけにとられてポカンと口を開けた。


「電気とか些細なことは良いんだよ。細かい奴だな」


 いや、些細な事ではないが、華さんの存在自体が僕の理解の外なのだから考えるだけ無駄だ。僕はあっさりと思考を放棄し、華さんと笑いながらバラエティ番組を見てプリンを口にする。


「あっ…美味しい……」

部屋の前に置かれたご飯を動画を見ながら無感情で口に入れるだけの日々だった僕にとって、久しぶりに誰かと一緒に食べた食べ物がとても美味しく思えた。


「だろ!?ムース付のプリンは美味いんだよ!!」


 華さんは僕が買ってきたプリンをまるで自分の手柄のように褒めて美味しそうに頬張る。それよりも人間ではない華さんには人間と同じ味覚があるのだろうか…そんなことを聞いたら『細かい奴だな』と鼻で笑われそうなので黙っていよう。プリンを食べ終えてバラエティ番組が終わった所で僕は帰りの準備を始める。


「そろそろ帰りますね。明日また来ます」


「おう、気をつけて帰れよ」

華さんは気だるげに手を振った。


 そうして僕は毎日、華さんの所に通うようになった。最初はコンビニで少し高いスイーツを買っていたが、華さんが「小遣いの範囲で良いから。駄菓子とか家にあった物でも良い」と言ったので僕のふところは助かった。しかし、家にあった古い煎餅を持って行った時は「湿気しっけってるじゃねーか」と流石に怒られた。


 華さんと過ごすのは、友達という存在がいたことのない僕にはとても新鮮で楽しかった。


 2週間が過ぎた頃、華さんが不意に僕に聞いてきた。


「こんな毎日、夜中にここに来て学校は大丈夫なのかよ。起きられねぇだろ?」


「実は僕、不登校なんだ……」


 僕は華さんにいじめられたこと、不登校の引きこもりになったことを隠さず話した。その間、華さんは「そっか」「うんうん」と優しく聞いてくれた。


「それで、度胸をつけるためにこの廃校に来て花子さんを呼び出そうとしてたんです」

僕は真剣な眼差しで言った。


「ここに来ても、暗い所やお化けのたぐいに対する苦手意識が少なくなるだけで、人間に対する苦手意識は無くならないぞ。最強の祓い屋だって人付き合いが苦手だって噂だしな」


「じゃあ、僕のしていたことは無駄だったのか……」

僕は俯いて肩を落とす。


「違う違う、そうじゃない。お前が『これじゃダメだ、変わらなきゃ』って思って行動した事が私は大事だと思うぞ。そうやって一歩踏み出した時点で変わってたのかも知れないな」


「でも……、普通の子は皆、学校行ってるし。僕は人が怖くて行けてないから……」

僕の目から意図せず涙がこぼれ頬をつたう。


「普通って何だよ。私とこうしている事が一番普通じゃないだろ。それに学校なんて行きたくなきゃ行かなくていい。命すり減らしてまで行くようなとこじゃねぇよ。もしお前が行きたくなって、そこにグダグダ言ってくるような奴がいたらぶん殴っちまえ」


そう言って華さんは優しく僕の頭を撫でた。


 その日の朝、僕は両親と朝ご飯を食べた。「おはよう……」という僕に、久しぶりに僕の顔を見た両親は涙を浮かべて「よかった」とつぶやいて抱き着いてきた。少しむずかゆい気がしたが、悪い気分ではなかった。


 その週の水曜日の夜、僕は華さんに告げる。

「僕、金曜日から学校、行ってみるよ」


「お前がそうしたいならそうしたら良い。でも無理するなよ。あと、ここに来るのは週末だけにしろよ。寝不足は人間の体に悪いみたいだしな。あと、背も伸びない」

そう言って笑いながら華さんは親指を立てる。


 金曜日になり僕が学校に行くと、拍子抜ひょうしぬけするほどに何もなかった。なにか自分が言ったことで僕が不登校に戻って自分の内申点に影響するのを恐れているのだろう。話しかけてくることもひそひそ話が聞こえることもない。あっ君、いっ君に関しては目も合わせない。何事も規格外の華さんと出会って一緒に時間を過ごした僕にはこいつらの態度はとてもちっぽけでつまらなく思えた。こんな奴らを怖がっていたなんて、あの頃の僕はなんて愚かだったのだろう。

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